最近の話題 2009年10月31日

1.Tilera社が100コアプロセサを発表

  2009年10月26日にTilera社は最大100コアを集積するTILE Gxファミリのプロセサを発表しました。TILERA社はMITのAgarwal先生がマルチコア研究の成果を実用化する目的で創立した会社で,これまで64コアの製品を出していたのですが,今回,これを最大100コアに増強したものです。

  製品としては16コア,36コア,64コア,100コアの4種があり,クロックは1.5GHzで,消費電力は10W〜55Wとなっています。製造プロセスはTSMCの40nmプロセスです。発売時期は,36コアの製品が2010年の4Qで,その他は,それ以降2Qの間に出すとなっており,まだ,設計中で物は無いという報道もあります。

  各コアは32KBの命令キャッシュと32KBのデータキャッシュ,そして256KBの2次キャッシュを持ち,全コアの2次キャッシュが他のコアのデータもキャッシュすることができる構造になっているので,全体として25.6MBの3次キャッシュとして機能するというのがポイントです。前世代では1次キャッシュは8/16KB,2次キャッシュは64KBであったので,大幅にキャッシュ容量が増えています。また,クロックも前世代の866MHzから1.5GHzと70%強のアップです。そして,メモリコントローラは最大2133MHzのDDR3対応にアップグレードされています。

  更に,各コアの命令セットにも拡張があり,DSP演算能力を強化するため,4つのMultiply-Accumulate演算を並列に行う命令が追加されています。

  また,Gxシリーズでは,新たに,40Gbpsの暗号化と20Gbpsのデュプレックスの復号化が出来る能力を持つMiCA (Multistream iMesh Crypto Accelerator)というアクセラレータと,80Gbpsのデータを処理できるmPIPE (multicore Programmable Intelligent Packet Engine)というアクセラレータが搭載されています。

  なお,GPUは512コアとか言っていますが,あれは演算ユニットの数で,CPUで言うコアではありません。GPU流に言えば,IntelのSSE3では単精度演算を4並列で実行できるので,クワッドコアチップは16コアという計算になります。このTILERAのコアは小さいながらも,Linuxが動く本当の汎用CPUコアで,100コアは業界最大の集積度です。

2.Roadrunnerスパコンが核のカーテンの向こうに

  2009年10月26日にロスアラモス国立研究所は,現在,Top500の第一位の座にあるロスアラモス国立研究所のRoadrunnerシステムを使用した10種の研究の成果について発表を行いました。ダークエネルギーやダークマターの起源を探る宇宙のシミュレーションやHIVウイルスの遺伝子変化の研究,高出力レーザ光の非線形性の研究などの項目が並んでいます。

  このRoadrunnerシステムですが,エネルギー省のASCプログラムの予算で設置されており,核弾頭の維持管理(劣化をシミュレーションし,禁止されている実験なしで,いざという時にはちゃんと爆発し役にたつことを検証する)という研究に使うのが主目的です。Roadrunnerは約1年まえの前々回のTop500で1位になったのですが,この時は,納入前のシステムをIBMの工場で動かして性能測定を行っています。それから納入,据え付け,調整があり,それに続いてShake downと呼ばれる試験運用が6カ月行われました。そして,Shake downの期間は,非軍事の科学技術計算にシステムを使わせており,これらの10種の研究は,この期間内に行われたものです。

  そして,今回の発表は,Shake downが終わり,今後は,Roadrunnerは軍事研究に使われるという発表でもあります。

  しかし,10月10日の話題で紹介したように,純科学計算用のORNLのKrakenが1PFlops超にアップグレードされ,2010年にはNCSAの10PFlopsのBlue Watersも納入開始という予定で,非軍事の分野でもスパコンの米国の優位は揺るがないようです。

@677317

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