最近の話題 2010年10月16日

1.Approが高速トレーディング用HF1サーバを発表

  証券取引所のコンピュータに直結して高速のデータ配信を受けて,超高速で手口を分析して先回りして注文を出すHigh Frequency Tradingですが,ライバルに勝つにはコンピュータが速くなければなりません。

  ということで,Apprは,ゲームマシンと同様に水冷でオーバクロックした高速トレーディング専用サーバを発表したと2010年10月12日のHPC Wireが報じています。HF1というこのマシンは2ソケットのXeon 5680マシンですが,4.4GHzにオーバクロックされています。Xeon 5680は定格は3.33GHzで,ターボブーストしても3.6GHzなので,定格から言うと30%余りのクロックアップです。

  そして,1KW程度の電力を喰うので,水冷になっており,そのため,サイズも3Uとかなり大きめです。更に,通常のApproのサーバは3年保証ですが,このHF1は1年保証で,特にCPUは30日間しか保証されないそうです。もちろん,これは30日で壊れるということではなく,より長い保証期間も別料金を払えば可能とのことです。

  お値段は明らかにされていませんが,通常のサーバの数倍はするそうです。 しかし,まさに時は金なりで速いことが儲けに直結するので,金に糸目はつけないユーザですから,このくらいの値段でもOKなんでしょうね。

  ということで,4〜5年は使い,GFlops/$を重視するHPCユーザには向きませんが,ライバルより1msでも早くという高速トレーダには意味があります。保証期間は1年ですが,1年後にはどうせ,より高性能のマシンが出て買い替えるので,大きな問題ではないようです。

2.GloFoがプロセスロードマップを発表

  2010年10月13日のSemiAccurateがGlobal Foundries Technical Conference Asiaでの同社のプロセスロードマップの発表を報じています。何枚かのスライドの写真が載っています。

  それによると,現在のSuper High Performance(SHP)とGeneric(G)とLow Power(LP)の3系列で,45SHP,65G,65LPと45LPが使用可能で,2010年3Qから32SHP,2010年11月から28HP(High Performance),2011年1Qから28SLP(Super Low Power),2011年4Qから28HPP(HP+Lowpower),2012年3Qから22SHP,2012年4Qから20HP,2013年1Qから20SLPとなっています。

  この図では各プロセスのタイトルの枠は3Q分の長さがあります。SemiAccurateは,2010年11月からの28HPに関して,量産立ち上げを行っており,一部の製品のリスクプロダクションが既に行われた状態であるが,本格的な量産は来年後半と書いています。ということで,枠の最初がリスクプロダクションの開始あたりで,枠の終わりが本格量産移行かと思われます。

  この見方が正しいとすると,32SHPの本格量産は来年2Qからで,まあ,AMDの32nm世代のチップが出てくるのもこのあたりということで,辻褄が合います。

  28SLPですが,+SLVt +Overdrive +RF CMOSと書かれていて,低電力で携帯などのデバイス向けで,RF CMOS回路も集積できるというのが売りのようです。Overdriveはトランジスタの耐圧に余裕があり,温度が許せば電圧を上げて加速する余地が大きいということでしょうか。

  28HPはデスクトップPCやサーバCPU用の高性能プロセスですが,28HPPはSHVT素子,LL SRAM(Low Leakage SRAM?)が追加され,低電力設計が可能なオプションが設けられており,高性能モバイルの領域をカバーすると書かれています。

  そして。GloFoのHigh-K Metal GateはIntelとは違いGate Firstで,ゲート電極をX,Yどちらの方向にも配置でき,途中で方向が変わっても良いということで,以前のポリシリコンゲートの時代と同じ感覚で設計でき密度が高い設計ができるというのが売りです。最後にGateをメタルに置き換えるGate Lastよりも解像度の点で有利というのはあるとしても,GateのJogなんかがあるとOPCなどの処理が大変だと思うのですが,本当にうまく行くのでしょうかね。

  なんせアブダビという大金持ちの旦那がついているので,GloFoは工場の拡張も開発ロードマップもアグレッシブでTSMCを追い上げているという感じです。GloFoの人は貧乏なAMDから離れてハッピーで士気が上がっているのではないかと思います。

3.GloFoは28nmプロセスでARM Cortex A9の試作中

 ARMとGloFoの提携については既に報じられていますが,その内容の一端がGTC Asiaで発表されたと2010年10月13日のSemiAccurateが報じています。

 それによると,ARMは28nmプロセスでの設計のCortex A9 SoCを8月にテープアウトしており,今年の終わりころにはチップが出来てくる予定とのことです。

 40Gプロセスの場合は,電源電圧1.0Vで最悪条件(プロセスがスローで,温度-40℃,Vddが-10%)の場合のクロックは1.5GHzに対して,28HPでは電源電圧0.85Vで2GHz程度の見込みとのことです。なお,CMOSは冷やした方が速いので-40℃は最悪ではないのですが,クロックを高く見せようとして,この温度が選ばれているのかどうかは不明です。平均的プロセス条件で,85℃,電源はノミナルでは,40Gでは2GHzクロックに対して28HPでは2.5GHzの見込みで,平均的には30%程度高性能と主張しています。

 この程度の性能差は40Gと40HP(があったとすると)の差ではないかとも思いますが,電源が0.85Vになっていることは,クロックを3割あげてもARMコアの消費電力は2〜3割減る筈で,大きなメリットとなります。

 この試作チップがちゃんとできれば,Cortex A9ベースのSoCを開発しようという顧客に対して,GloFoとしてはTSMCなどの他の28nmでの実績のないファウンドリより優位な立場にたつことができます。

 ARMとGloFoの契約の条件は明らかにされていませんが,普通,28nmプロセスでLSIを開発すれば何億円も取られるところですが,多分,ARMはタダでLSIを作って貰うだけでなく,顧客がついたらGloFoからいくらか歩合を貰うというような条件ではないかと思います。やはり,強い製品を持たないとダメですね。

 

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