最近の話題 2011年5月21日

1.Intelがモバイルデバイスへの注力を表明

  2011年5月17日に開催された投資家向けのミーティングで,コンピューティング,エネルギー効率の高い高性能の実現,インタネット接続性とセキュリティーを開発投資の3本柱と位置付けました。そして,従来はカバーしていなかった10W以下の組み込み用SoCに事業領域を広げると宣言しました。

  その中心となるのがAtomプロセサで,最初の45nm Bonnelコアから,現在は32nmのSaltwellへの移行が進んでいる状況ですが,22nmのSilvermont,そして14nmのAirmontを開発し32nmから14nmまで3年程度で世代交代を行う計画です。22nmのSilvermontは2013年,14nmのAirmontは2014年の予定で, これまでAtomは遅れたプロセスを使っていたのですが,14nmプロセスの採用はデスクトッププロセサの半導体プロセスと同じ時期になります。

  先週の話題で紹介したように22nm世代ではAtomのアーキテクチャも変えるというように,IntelとしてはAtomとAtomベースのSoCに本腰を入れるように見受けられます。Otellini社長は,IntelはARMは作らない,ARMを作ってもIntelの利益には貢献しないと述べていますが,果たしてAtomでARMに勝てるかどうかは,まだ,分かりません。しかし,Intelの主力であるPC用プロセサから,市場はタブレットやスマートフォンに移りつつあり,売り上げと利益の確保という点ではIntelとしても正念場だと思います。

2.IntelのTri-gateは5年のリード

  Semiconductor Manufacturing & DesignがU.C.BのChenming Hu教授とFlorida大のScottThompson教授のインタビューを載せています。Chenming Hu教授はFinFETは一様なフィンを作るのが難しい,また,レイアウトなどが変わるので設計部門への影響が大きく,Intelのように社内の半導体プロセスと設計の両方を持ち,協調がやりやすく,かつ,膨大な開発リソースが無いと難しいと述べています。

  また,以前はIntelの半導体プロセス部門にいたこともあるThompson教授は,多分,1000人以上の開発者を必要としたとの見解で,他社を5年くらいリードしているとみています。Tri-gateの開発は90nm世代の歪技術や45nm世代のHigh-K,Metal gateと比較して1ケタ以上複雑な技術開発で,(開発のための実験には)数10万枚のウエファを必要としただろうと述べています。

  一様な幅と高さのフィンをウエファの全域にわたって作るのは"Quite Challenging"と述べています。その他にも,薄いフィンのソース,ドレインの直列抵抗を下げるためのドーピングやフィンに垂直面にALDでHigh-K絶縁膜を形成するなど難しい技術が多く必要と述べています。

  また,Semiconductor Manufacturing & DesignにはIntelの22nmプロセスのプログラムマネージャのKaizad Mistry氏のインタビューも掲載されています。それによると,一番難しいのはFinのIntegrityを保つことだそうで,やはり,一様なフィンを作るのは難しいようです。その他には特別な装置は使っておらず,2重露光の必要性は増えたが,193nm液浸で露光もできているとのことです。

  IBMやTSMCもFinFETに関しては多くの論文を発表しており,SRAMのテストチップなども発表されていますが,どこまで量産に近付いているかは分かりません。また,TSMCの場合は,レイアウトが変わるので全てのIPマクロは作り直し,カストマに新しい設計ルールやCADツールを使ってもらう必要があるなど,プロセスの完成以外にも大きなバリアがあります。

3.AMDとNVIDIAがコンピューティング用新GPUを発表

  2011年5月16日のThe RegisterがAMDのFirePro V7800Pの発表を報じています。チップとしては9370GPUと同じ1600個のStream Processorを搭載していると思われますが,V7800Pは1440個と10%減の仕様となっており,単精度FPで2TFlops,倍精度FPでは400GFlopsとなっています。消費電力は138Wで,サーバ用なので大きなフィンがついた空冷の構造となっています。

  ただし,AMDはV7800PをProfessional Graphicsと銘打っており,スパコンなどのHPCの計算用というよりは,ワークステーションなどで計算と表示の両方の用途に対応することを意図しているようです。そして,一つのドライバでOpenCLなどの計算用途とグラフィックスが扱えるようになっています。

 お値段は$1249で,9350 GPUが$799であるのと比べると割高です。

  また,2011年が5月17日のThe RegisterがNVIDIAのM2090 GPUの発表を報じています。従来のM2050/M2070は448コアだったのですが,M2090はFermi GPUの全CUDAコアを生かした512コアで,クロックもM2070の1.15GHzから1.3GHzに上がっています。結果として,単精度FPでは1.33TFlops,倍精度FPでは665MFlopsとなっています。また,GDDR5メモリのクロックも1.56GHzから1.85GHzへと上がり,NVIDIAが公表した5種のアプリでは20〜30%性能が向上しています。

  M2090とほぼ同じ仕様のGTX 590は$699ですが,M2090のお値段は公表されていませんが,$4000以上と見られています。しかし,グラフィックス用のGPUはメモリのエラーがポロポロと発生するが,グラフィックスなので大して問題にならない。一方,HPCの計算用ではメモリエラーが起こって,それまでの長時間の計算が無駄になっては困るので,出荷検査も厳重で殆どエラーが起こらない,さらに,FermiではメモリからレジスタまでECCで保護されているというように,信頼性は大きく違います。

  AMDのV7800Pはここまの信頼性を持っていないので,比較的小規模なワークステーションレベルの計算に用途を限定している感じです。

4.HPがメモリスタの動作原理を解析

  2011年5月16日のEETimesが,HPがシンクロトロンのX線を使った解析を行い,動作原理を明らかにしたと報じています。Memristorについては2008年7月12日の話題などで紹介していますが,電流の積分で抵抗が変わる素子で,神経のシナプスのような動作ができるということで研究が進められていますが,実用化に近いという点では相変化を使ったPRAMです。

  DRAMと同程度の速度で動作する不揮発性の記憶素子ということで,DRAMとNAND Flashを置き換えるという期待があり,2008年7月12日の話題でも実用化が近いとなっていますが,まだ,実用化には至っていません。

  今回の解析で,メモリスタでは酸素原子が動き酸素空乏の位置が動くというメカニズムとともに流れる電流で300℃程度に加熱され,アモルファスの薄い層が結晶に変わることによりスイッチが起こっていることを発見したと報じています。そして,NAND Flashよりも微細化が可能で,かつ,300億回の書き換えを行っても劣化は見られないとのことです。

  

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