最近の話題 2011年6月4日

1.次世代ItaniumはVLIW実行を放棄か

  2011年5月18日のReal World Technologiesが次世代ItaniumであるPoulsonに関する詳細な分析記事を載せています。Poulsonは32nmプロセスで作られる次世代のItaniumで,今年2月のISSCCで発表されましたが,ISSCCは半導体関係の学会で,そのマイクロアーキに関してはフロントとバックエンドを分離する新コアアーキテクチャであり,命令のリプレイを行うという程度しか公表されていませんでした。

  Itaniumは,バンドルと呼ぶ128ビットの長い命令語に3命令を詰め込むVLIWアーキテクチャのプロセサで,効率よくハードウェアを動かすように命令の順序やバンドルへの詰め込みをコンパイラ が考えるので,Out-of-Orderや投機実行などの複雑なハードウェアを必要とせず,簡単なハードウェアで性能が高いというのがもともとの設計思想です。

  しかし,Poulsonでは,バイナリ互換を維持するため128ビット長のバンドルという仕様は維持するものの,命令バッファから取り出すところでは個々の命令に分解して 各実行ユニットのスケジューラに送るとのことです。それぞれのスケジューラに送られた命令はインオーダで実行されるのですが,例えば,整数演算ユニットの命令と浮動小数点演算ユニットの命令の間では命令の実行順序はOut-of-Orderになるそうです。

  そして,個々の命令に分解するところで,プログラムによっては1/3程度入っているNOP命令は削除され,本当に実行する必要のある命令だけをスケジューラに送り,実行の効率を上げています。

  ということで,コンパイラが頑張って命令の順序や詰め込みを考えるのでハードは簡単に,というVLIWの基本思想は放棄され,Pousonでは他のOut-of-Order実行のプロセサに近い,ハードウェアが命令の実行をスケジュールするという思想に切り替わったようです。 筆者は,バイナリがソフト資産として残る汎用プロセサではVLIWはダメだと思っていたのですが,初代Mercedの開発の時代からいうと15年くらい経って,やっとVLIW実行を諦めたようです。

  また,Itaniumはロード,ストア,演算をすべて2命令並列に処理できるハードウェアとなっており,DAXPYを2回分を並列に処理できるというHPC向きの高性能を誇っていたのですが,Top500をみてもHPCはx86オンパレードという状況で,Itaniumの出番はありません。使われない機能にハードウェアを注ぎ込むのは無駄ですから,Poulsonでは他のプロセサと同様の2 Load,1 Storeの構成にして,ビジネス市場向けという顔を強めたとのことです。

  今年の8月のHot ChipsでPoulson が発表される予定になっており,マイクロアーキテクチャがもっと明らかになると期待されます。

2.AMDが次世代APU Trinityチップを公開

  2011年6月1日のEETimesが,台北で開催中のComputexで,AMDがSeries-9チップセットの発表時に次世代APUであるTrinityについて言及したと報じています。

  Series-9チップセットはAM3+ソケットをサポートするBulldozerコアのプロセサのデスクトップシステム用のチップセットで,Bulldozer 8コアのZambeziは今年8月に発売と見られています。このSeries-9チップセットの発表時に,突然,次世代のTrinity APUの話が飛び出してきたそうです。

  APUは現在E-350の名称でBobcatコアのチップが販売され,それを搭載したネットブックが店頭に並んでいますが,今年はコアは旧世代のK10の系統ながら32nm SOIプロセスに移行し,より強力なGPUを集積したLlanoが発売される予定です。

  そして,その次のTrinityはBulldozerコアで2012年に発売される予定です。発表したRick Bergman氏は,Trinityのチップを見せ,チップができたのは数週間前と述べています。とすると順調にいけば,2012年も早い時期に登場すると予想されます。

  なお,AMDは毎年,新しいAPUを発売すると述べています。

3.EMEAにおけるOracleのシェアが大幅低下

  2011年6月2日のThe Registerが,IDCのEMEA市場のサーバシェアの調査結果を報じています。EMEAはEurope,Middle East and Africaの略で,米国,南米,日本を含むアジアははいっていません。

  今年の1Qの市場規模は$3.5Bで(多分,昨年同期比で)10.8%の伸長ですが,Oracleサーバのシェアは9.5%から6.9%と30%近く低下したとのことです。ライバルのHP,Dellのシェアは ほぼ市場の伸びと同じ10%増加,IBMのシェアは33%増加しており,それに比べると27.5%のシェアの低下は一人負けの様相です。

  OracleはRISC市場では70%のシェアを持っているのですが,市場はx86サーバは伸びているのにRISCやEPIC(Itanium)サーバは減っているという状況であることが,Oracleの市場シェアが減っている原因となっています。

  現状でもXeonやOpteronベースのサーバと比較すると,IBMのPower,Oracle/富士通のSPARC,HPのItaniumサーバの方がハードウェアの信頼度が高いことは間違いないと思いますが,Xeonが差を詰めてきていることも確かです。また,みずほ銀の障害などのようにハード以外の原因でのダウンもあるわけで,高信頼のハードにお金を掛けるのか,システム的に対処する方にお金を掛けるのかというトレードオフもあります。

  ということで,サーバのx86化が一層進み,自前のCPUを開発して…というビジネスは難しさを増しているようです。

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