最近の話題 2011年7月9日

1.CrayとX-ESが92コア高密度サーバを開発

  2011年7月6日のThe RegisterがCrayとExtreme Engineering Solutions(X-ES)という会社が協力して,高密度で頑丈なサーバのプロトタイプを開発したと報じています。

  スパコン大手のCrayは設計の請負を行うCustom Engineeringという部門を持っています。このサーバの開発を担当したのはCustom Engineering部門で,このサーバはCrayの製品とは直接,関係が無いと思われます。

  The Registerに写真が載っていますが,12インチ×26インチのマザーボードにIntelのCore i7ベースのマイクロサーバが46枚挿されています。The Registerは,電源などを含めても4U筐体に収容可能で,4Uで92コアという高密度となると書いています。使用しているプロセサはSandy Bridgeベースではなく,前世代のAllandaleベースだそうです。

  両社は,このサーバの詳細や顧客については何も発表していませんが,Ruggidized,Military Gradeという仕様から,普通のデータセンターへの設置用ではなく,トラックや航空機などに載せることを考えているように思われます。

2.AMDの次世代GPUアーキテクチャ

  6月に開催されたAMDのFusion Developer Summitでの話で,PCWatchでは後藤さんが6月17日に書いておられるので,旧聞に属するのですが,どういう訳か,2011年7月7日のThe Registerが”Deep inside AMD's master plan to topple Intel"と題してAFDSでのAMDのグラフィックス部門のDemers CTOの基調講演を取り上げています。

  従来のAMDのGPUはVLIWで4〜5個の並列に実行できる演算を一つの長い命令に詰め込み,その長い命令を実行するというやり方だったのですが,それを4つの独立した命令列を実行するという方式に変えるのだそうです。そして1次キャッシュとして16KBのR/Wキャッシュを設けるとのことです。これらは,汎用計算の性能を重視したやりかたです。

  そして,CPUのメモリとGPUのメモリを統一空間にしてポインタが使えるようにしたり,PCI express経由でメモリ間のコヒーレンシをサポートしたりと,NVIDIAのFermiとよく似たアプローチです。

  The Registerの記事は,Demers氏の講演を殆ど逐語的に書いているという感じで,これを読めば,講演を聞くのと同じ知識が得られると思います。また,後藤さんの記事はテクニカルセッションのスライドも交えて,技術的にはThe Registerの記事よりずっと詳しく書かれています。

  どちらの記事にも書かれていないのは,Demers氏の講演の後の質疑で,一つの質問は倍精度浮動小数点演算に関するもので,解答は,新アーキのGPUは倍精度をサポートする。ただし,製品のレベルにより,(単精度の)1/2,1/4.1/16の性能というようなバリエーションを作ると回答しています。そして,スパコンなどの大規模使用の場合の信頼性に関しては,ECCをサポートすると述べています。これもFermiと近いアプローチです。

  一番興味深かったのは,ハイエンドのGPUとCPUとの接続に関してHyper Transportは使わないのかという質問の回答で,PCなどでの使用ではPCI expressは必須。そして,PCIはGen3でバンド幅も高くなり,プロプライエタリのHyper Transportを使うメリットが無い。PCI expressのトンネリングでコヒーレンシをサポートする方向であるとのことでした。

  なお,Bulldozerコアを使う最初のAPUは現世代のVLIW4のGPUを使うと発表されており,この新アーキテクチャのGPUが登場するのは2013年と見られています。

3.「京」プロセサの特別講演の成功は夫人の貢献

  2010年7月7日に早稲田大で開催された集積回路シンポジウムにおける,富士通の丸山氏の特別講演を,2011年7月7日のTechOn!が絶賛しています。

  「蓮舫さんの『2位じゃダメなんですか』のおかげで,スパコンが酒場の話題に上るようになった。自分が酒場の話題になる仕事に携わるとは夢にも思っていなかった」という入りで,テンポよく始まり,最後の「プロセサの性能向上はトランジスタの進歩によるところが大きい。みなさんがトランジスタの開発を続けてくれないと,私の仕事がなくなります」。お願いしながら,実はエールを送っている。さすが。という締めくくりまで絶賛しています。

  技術的な内容としてはあちこちで既に講演されている内容ですが,プロセサの専門家では無く半導体プロセス関係の人が多い集積回路シンポジウムなので,難しい話は省いて分かりやすくしたのが良かったとのことです。

  残念ながら,私はこの講演を聞くことはできなかったのですが,この記事を見て丸山氏にメールで良かったですねと申し上げたところ,家でこの講演のリハーサルを奥さんに聞いてもらったところ,「分からない。つまらない」というのが第一声で,「プロセサの専門家じゃない人に話すなら,もっと分かりやすく,引きつけるように話さないと」というアドバイスを貰って,講演内容を練り直したのだそうです。ナルホド。

  

  

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