最近の話題 2011年8月6日

1.Ramon社とGaisler社が対放射線プロセサを開発

  2011年8月1日のEE TimesがイスラエルのRamonChips社とスエーデンのAeroflex Gaisler社が共同で耐放射線プロセサを開発したと報じています。そして,このプロセサはイスラエルのTower社の180nmプロセスを使って製造されるとのことです。

  GR712RCというこのプロセサはSPARC V8(32ビット仕様のSPARC)アーキテクチャのLEON 3コアを使うデュアルコアプロセサで,クロックは125MHzで300DMIPS,250MFlopsの性能で,Military用途の温度範囲で動作し,300Kradの放射線に耐えるという仕様です。

  報道から推測すると,Ramon Chips社がRadSafeという耐放射線のスタンダードセルを提供し,Gaisler社がプロセサを開発して,Tower社が製造という分担のようです。Gaisler社はSPARC V8仕様のLEON 3というプロセサを従来からESA(Europian Space Agency)に供給しており,国際宇宙ステーション(ISS)の制御系はESAが担当しているので,このLEON 3が使われている筈です。従来,どこのFabで作っているのか知りませんが,今回のGR712RCは,イスラエルのRamon Chipsと協力して,同じくイスラエルのTowerで製造ということになったと思われます。

  ISSに1日滞在すると1ミリシーベルトの被曝というように,衛星などの環境では地上に比べて強力な放射線に曝されます。放射線は人体の細胞の遺伝子も傷つけますが,電子回路の誤動作や劣化も引き起こします。しかし,誤動作しては困るので,放射線に強い設計のプロセサが使われています。しかし,放射線が当たっても誤動作しないようにするには,回路設計も放射線に強くなるようにし,トランジスタなどのサイズも大きくする必要があり,一般に,高性能プロセサより古い世代の半導体プロセスを使い,安全の動作させるため遅い動作クロックが使われます。それでも,非常に高いエネルギーの粒子がぶつかると完全には誤動作を防げないので,重要な機能は3重化や5重化などの方法で1〜2系統がエラーしても多数決で正しい結果が得られるというような構成が取れらます。

  それにしても,部品のプロセサの耐放射線能力が高いことは重要で,このGR712RCのようなプロセサの存在意義があるわけです。King Researchの調査結果では,このような耐放射線プロセサの市場は$400〜$500M(/年)だそうです。半導体大手の興味を引く市場規模ではありませんが,我々の生活へのGPSや気象衛星の貢献を考えると,無くてはならない分野のプロセサ技術です。

2.NVIDIAのProject DenverのCPUはVLIWか?

  2011年8圧5日のSemiAccurateが,NVIDIAのProject Denverについて書いています。それによると,Project Denverは2006年から始まり,当初はx86の命令をエミュレートするプロセサを考えていたのですが,Intelとの特許紛争の和解で,NVIDIAがx86命令を直接,あるいはエミュレートで実行するようなプロセサを作る道はふさがれてしまいました。

  そこでProject Denverはコースを変更してARM命令セットを実行することになったのだそうです。しかし,ハードウェア自体はそれほど大きな変更はなく,Transmetaのプロセサのような8Wideのパイプラインを持つプロセサだそうです。これでARM命令をエミュレートして実行するので,性能的には4WideのARMコア(Cortex-A15は3Wide)程度に相当する性能とのことです。しかし,消費電力の点ではARMのコアより低電力となると書かれています。

  この記事の著者はNVIDIAに批判的なCharlie Demerjian氏で,同氏は,NVIDIAのエンジニアチームが,このような野心的なプロセサを開発する能力があることは疑いないが,NVIDIAはマネジメントが悪く,この数年,開発遅延や歩留りが悪い設計,予期した性能が出ないなどの失敗が相次いでおり,Project DenverがNVIDIAのいう通り進むかどうかについては極めて懐疑的です。

3.J.P.MorganがNVIDIA GPUでリスク計算を高速化

  2011年8月4日のHPC WireがJ.P.Morgan銀行が,デリバティブのリスク計算にNVIDIAのM2070 GPUを使い,従来のCPUオンリーの場合と比べて40倍の高速化を達成したと報じています。

  GPUはJ.P.Morganの複数のデータセンターに設置され,世界中の支店からCompute Backboneを通してアクセスすることができ,GPUの使用率は70%に達しているそうです。なお,M2070 GPUを何台使っているかについては発表されていませんが,J.P.Morganのリスク計算の半分以上がGPUにシフトしたと書かれており,相当の台数が使われていると思われます。

 

  

 

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