最近の話題 2011年10月1日

1.IBM Blue Waters撤退の舞台裏

  2011年9月25日のThe News-Gazetteが,Blue Waters撤退の舞台裏と題する記事を掲載しています。Freedom of Information Actに基づく情報開示請求で入手したドキュメントに基づく記事なので,信頼できます。ただし,公開されたドキュメントは,技術的な部分は黒塗りになっているので,Blue Watersに技術的にどのような問題があったかは分かりません。

  Blue Watersに関しては,主にIBM側から3ダースを超える変更要請が出されたとのことです。変更の理由は,それをやらないと非常に高価についてしまうとIBMは主張したと書かれています。そして,イリノイ大の関係者は,これらの変更は性能を悪化させ,スケジュールも延びると主張し,両者の話し合いは昨年12月にはかなり難しい状況になっていたとのことです。

  イリノイ大NCSAのMelchi氏は,Gazette紙に,Blue Watersは契約に書いてある詳細な性能要件を満たさないことが明らかになったので,IBMに契約解除させる他は無くなったと述べています。

  いろいろと関係者のメールの要旨が書かれていますが,要するにIBMの要請の変更を行うと性能が下がり,完成時期も2011年6月から2012年6月と1年間延びてしまう。そうなるとBlue Watersスパコンの有用性が下がってしまうので,イリノイ大はその分の補償(計算ノードの追加など)を要求したのですが,IBMはそれを拒否し,結局,話し合いは決裂したとのことです。

2.OracleがT4ベースのサーバを発表

  2011年9月27日のThe RegisterがOracleのT4プロセサを使うサーバの発表を報じています。T4プロセサは8月のHot Chips 23で発表されており,8月20日の話題で紹介しています。

  今回発表されたサーバ製品は,T4-1,T4-2,T4-4というそれぞれ1チップ,2チップ,4チップのラックマウントサーバと,6000シリーズのブレード用の1チップのT4-1Bの4種です。T4-1は2Uで,T4 CPUのクロックは2.85GHzとなっています。そして,DIMMはT4-1が16枚で,2.5インチのディスクを8台搭載できます。

  T4-2は3Uで,CPUクロックは2.85GHzで,DIMMを32枚を搭載できます。ただし,T4-1と比べて2倍のCPUとメモリを搭載するのに,厚みは1.5倍にしかなっていないので, 冷却の空気の通りを良くするためディスク搭載は6台と若干減少しています。

  そして最上位のT4-4は,サイズは5Uで3GHzのCPUを搭載し,128枚のDIMMを搭載できます。

  ブレードのT4-1Bは2.85GHzのCPU 1個と16枚のDIMMスロットを持っていますが,ディスクの搭載スペースは2台です。

  お値段はT4-1がSolarisとOracle VMがついて$16,000,最上位のT4-4に1TBのメモリを搭載すると$160,000と報じられています。

  前世代のT3は16コアを集積するものの,各コアのクロックは1.65GHzと低かったのですが,今回のT4では,新設計のS3コアで,2.85GHzと3GHzと2倍に近い値に引き上げられました。また,T3までは各スレッドへの資源配分が等分になっていたのを,一部のコアが多くの資源を占有できる方式としています。クロックの向上と相まって,シングルスレッドの性能は,T3の5倍と発表されています。

3.OracleがSPARCロードマップを前倒し改訂

  2011年9月29日のThe RegisterがOracleのSPARCロードマップの改訂を報じています。

  昨年発表されたロードマップでは2011年のTシリーズプロセサ(T4)はシングルスレッド性能が前世代の3倍と書かれているのですが,これが実際は5倍に上がっています。Sunj時代のロードマップではクロックが2.5GHzとなっていたのが,3GHzまで上がったことが貢献していると思われます。

  そして,2013年の前半に書かれていたT5が,今回のロードマップでは2012年となっており,半年程度前倒しされています。T5はスループットがT4の2.5倍で,シングルスレッド性能は同等以上となっています。昨年のロードマップでは3倍のスループットだったのですが,T4の性能が予定より上がっているので,比率としては目減りしたということでしょうか。このチップは10月からテストに入るということで,順調に開発が進んでいることをアピールしています。

  また,昨年のロードマップには無かった次のT6?が2014年の前半あたりに書かれています。ただし,シングルスレッド性能がT5より改善としか書かれておらず,どのようなプロセサかは全くわかりません。

  一方,富士通製のMシリーズに関してはスループット6倍で,シングルスレッド性能1.5倍という記述は変わっていませんが,昨年の図では2012年の中頃にあったのが,T5と同じで2012年の後半に書かれています。図だけでみると多少遅れた印象ですが,T5と同じ箱に入れたのでそうなったという図の書き方だけの問題かもしれません。このMシリーズプロセサは既にテスト中とのことです。そして,2013年末 ころに書かれているスループット2倍の次のMシリーズプロセサも計画通り進行中と書かれています。

  2012年のMシリーズプロセサに関しては何も情報がありませんが,京に使うSPARC64 [fxのクロックは2GHzで,これのマイナーチェンジでは,3GHzクロックのSPARC64 Z+の1.5倍のシングルスレッド性能を達成するのは難しいと思われます。また,京のプロセサは富士通の45nmプロセスですが,以降の微細化はTSMCに頼ることになったので,TSMCの28nmプロセスあたりを使ってよりクロックを上げ,コア数を増やしたプロセサを開発するのかも知れません。

  昨年のロードマップにも書かれているのですが,現状のMシリーズは1ソケットのM3000や4ソケットのM4000があるのですが,T5の時期からは,Mシリーズは8〜64ソケットと書かれています。これは1〜8ソケットの領域はT5でカバーし,富士通製は8ソケットのM5000以上の大型サーバだけにするという方針であると見ることができます。

4.ロシアが2020年にExaScaleスパコンの開発を計画

  2011年9月29日のHPCWireが,ロシアが2020年にExaScaleスパコンの開発を計画と報じています。専門家のグループが2012年から2020年までのExaScaleテクノロジの開発計画をまとめたものに対して,通信を司る省からのGridを計画に含めるべきという要請が出たのですが,これをいれる修正を行い,10月には大統領府の承認を受ける予定とのことです。

  このExaScaleのスパコンですが,自前のCPU開発を行い,汎用ではなく,戦略的に重要な,例えば国防や石油&ガスなどの狭い分野に特化したものになるとのことです。

  この計画では,2014〜2015年には10〜15PFlopsのマシンを作り,2017〜2018年には100PFlops,そして2020年にExaScaleを目指すそうです。プロジェクトの費用は450億ルーブル(約1070億円)と見積もられていますが,550億ルーブルを超える可能性もあると書かれています。

  システムの構築はロシアの原子力企業であるRosatomとスパコンメーカーのT-Platformの名前が挙がっているようです。Rosatomは社内の技術者でロシア初のPFlopsスパコンを自主開発しているのですが,機密度の高い業務であるので,Top500などには性能を登録していないとのことです。

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