最近の話題 2012年4月21日

.1.ARMがCortex-A15のハードマクロSeahawkを発表

  2012年4月17日のEE TimesがARMのCortex-A15のSeahawkと呼ぶハードマクロの発表を報じています。Cortex-A15自体の発表は2010年9月11日の話題で紹介していますが,個々のプロセスが使えるアドレス空間は32ビットですが,全体では40ビットのアドレス 空間が使える,仮想化のサポートなどの点で拡張されたARMアーキテクチャを実装した初のプロセサです。

  従来はアーキテクチャの発表であったのですが,今回の発表は,TSMCの28nmのHPM(モバイル向けの低消費電力 ,高性能のプロセス)を使う設計のハードマクロのライセンスを開始するというものです。2GHzという高いクロックで,20,000DMIPSを超える性能と書かれています。

  プロセサコアの1次キャッシュは32KB+32KB,2次キャッシュは2MBとなっています。そしてこれらのSRAMにはECCが付いており,エラー訂正ができるようになっています。そして,このハードマクロにはARMの128ビット幅のSIMDであるNEON(IntelのSSE相当)と浮動小数点演算サポートが組み込まれており,プロセサは224種のインタラプトをサポートし,6つのパワードメインになっていると書かれています。

  このEETimesの記事の最後に4月18日から20日にかけて横浜で開催されるCool Chipsで構成や実装の詳細が明らかにされると書かれています。

  ということで,Cool Chipsに参加して,このARMの発表を聞いてきました。Seahwkは4コアのマルチコアの設計で,L2$は4コア共通で2MBのようです。そして,Advanced Power Managementを売りの一つにしており,実装に関しては,この電力制御の技術が説明されたのですが,他社でもやられている技術で目新しいものはありませんでした。

  消費電力はどれだけかと質問したのですが,NDAベースでないと言えないという回答でした。発表のサマリに”Unmatched power efficiency”と書かれていますが,根拠となる数字を明らかにしないで,信じろといわれても困ります。ということで,Cool Chipsでの発表では,あまり有用な情報は聞けませんでした。

2.TSMCの28nm,20nm,14nmプロセスの状況

  2012年4月17日のEE Timesが,TSMCのChang会長が,同社のテクニカルコンファレンスで,28nmプロセスの最悪の時期は脱したと述べたと報じています。3月10日の話題で紹介したように,2月からTSMCの28nm製造ラインは止まっているというような噂が流れたりしていたのですが,Chang会長は,問題は歩留りではなく,製造のキャパシティーの不足であった。しかし,製造設備に投資しており,キャパシティーが増えて問題が解決したと述べています。本当のところは分かりませんが,これが2〜3月頃の供給不足に関するTSMCの正式見解です。

   しかし,QualcommのSnapdragon S4は供給が需要に追い付かず,Global Foundriesでの製造を検討していると言われ,AMDのAPUも一部はGlobal Foundriesへの変更を検討していると言われています。

  2012年4月17日のEE TimesがTSMCの幹部が,20nm世代では1種類のプロセスの提供だけになると述べたと報じています。現在の28nmプロセスではLP(低リーク,低速),HP(高速,高リーク),HPL(HPより低リーク),HPM(モバイル向け高速)の4種のプロセスを提供しているのですが,20nm世代では,これが1種になるということになります。

  その理由ですが,20nmは非常に微細なので,特性の異なるトランジスタを作り分ける余裕が小さく,製品として区別できるほどの差が付けられなかったと述べています。これが本当とすると,かなり,ぎりぎりのところで作っているという感じです。

  また,14nm世代のプロセスについては,経済的に成り立つ露光テクノロジが間に合わない場合は,20nmの次に18nmとか16nmという世代を挟む可能性があると述べています。しかし,一度,プロセスの提供を始めると10年はそのプロセスをサポートし続けることが必要となるので,慎重に見極めを行っていると 述べています。なお,18nmや16nmの場合は,改良されたArF液浸露光機を使い,クリティカル層は3重露光,その他の層でも2重露光が必要となる層がかなり出てくるとのことです。

  ArF露光機なみの毎時200枚の露光と行かなくても,毎時50枚くらいになればEUV露光機はペイすると言われていますが,現在のEUVは光源が出力不足で,現実には毎時10枚程度しか露光できないようです。ということで,実用的な14nm世代の露光機が必要な 時期に手に入るかどうかは,かなり,危ういという状況です。

3.京コンピュータのインフラ

  2012年4月18日のマイナビニュースが,拙著の京スパコンのインフラストラクチャのレポートを掲載しています。最大20MWの供給と,それだけの熱を排出するインフラですが,排出系は50台(3Fの計算ノード用)と14台(1Fのグローバルファイル用)のエアハンドラは巨大で,7万m3/時の送風能力をもっています。それが2Fに50台並んでいるのは壮観です。そして,エアハンドラの裏にはファンを回す直径50cm位の大きなモーターが付いています。なお,エアハンドラは大きくて貨物用のエレベータに乗らないので,壁に大きな搬入孔が設けられており,クレーンで吊上げて,この孔から入れたとのことです。

  CPUとICCチップは冷水での直接冷却ですが,メモリDIMMはローカルファイルのディスク,それに電源などは空冷で,このエアハンドラからの空気で冷やされます。暖まった空気はエアハンドラの中で冷水で冷やしているので,結局スパコンの発熱は暖まった冷水で運び出されて,蒸気吸収冷凍機とターボ冷凍機で冷やされ,その熱はクーリングタワーから外気中に放出されます。この冷凍機やクーリングタワーも巨大で,やはり20MW分の熱を処理するのは,大変という印象です。また,冷却水のポンプにもエアハンドラと同じようなモーターが付いていて,施設全体がモーターだらけという感じです。

  供給系は最大20MWの電力を関西電力から受ける特高施設と,都市ガスで6MWを発電するコジェネ2台で賄われています。コジェネは電気とともに蒸気を作り,これで吸収冷凍機を動かしています。コジェネのガスタービンと発電機はさほど大きくない(といっても部屋が2つくらい)のですが,ジェットエンジンとほぼ同じ構造のタービンの騒音を消す消音機などがついて,全体では2階建ての民家位のサイズがあります。

  1.5MW位の電力の東工大のTSUBAME2.0では,建屋の窓の下に冷水を作る冷凍機が6〜7台(うろ覚えですが)ならんで,屋上にクーリングタワーがあるくらいで,それほど目立たないのですが,京のインフラは巨大な工場と言った感じで,強烈な印象です。凄いという感じと,何でこんなに巨大な設備が必要なの?という気がしました。

  ポートライナーというモノレールの「京コンピュータ前」という駅の前にあるのですが,この駅は以前は「ポートアイランド南」という名前だったのを変更したのですが,5年くらいすれば京コンピュータは更新されてしまうので,その時はまた,駅名を変更するのでしょうかね。

 

 

  

 

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