最近の話題 2012年4月28日

.1.IntelがIvy Bridgeプロセサを発売開始

  2012年4月23日にIntelはIvy Bridgeプロセサの発売を発表しました。今回の発表は,デスクトップ用とモバイル用の品種で,サーバ用のIvy Bridgeは含まれていません。 なお,発表では,Ivy Bridgeでなく,第3世代のCoreプロセサと呼んでいます。

  Intelの22nmのTri-gate(FinFET)プロセスで製造され,トランジスタ数は1.4Bで,チップサイズは160mm2となっています。32nmのプレナープロセスのSandy Bridgeは1.16Bトランジスタで216mm2なので,トランジスタ数は20%増えて,ダイ面積は26%減っています。

  デスクトップ用はCore i7-3770K,i7-3770,i7-3770T,i7-3770S,i5-3570K,i3570T,i5-3550,i5-3550S,i5-3450,i5-3450Sの10品種,モバイル用はCore i7-3920QM,i7-3820QM,i7-3720QM,i7-3615QM,i7-3610QM,i7-3612QM の6品種が一覧表に乗っていますが,Intel Japanの発表ではモバイル用は最初の3品種だけの発表になっています。

  デスクトップ用のi7は4コア,8スレッドでLLCは8MB,i5は4コア,4スレッドでLLCは6MBとなっています。最上位のi7-3770Kはクロック3.5GHzでターボで3.9GHzまで上げられます。グラフィックス部は基本650MHzのクロックでターボ時には1150MHz(一部1100MHz)まで上げられます。メモリインタフェースはDDR3-1600で,PCI Expressは3.0をサポートしています。

  TDPは i7-3770K,i7-3770,i5-3570K,i5-3550,ii5-3450は77W,i7-3770S,5-3550S,i5-3450Sは65W,そしてi7-3770Tは45Wとなっています。

  お値段は1000個ロットの購入時の単価で,$313から$174となっています。

  モバイル用は今回の発表は全てi7で,4コア,8スレッドですが,LLCは上位の2品種だけが8MBでそれ以外は6MBとなっています。クロックは最上位のi7-3920QMでは2.9GHz,ターボ時3.8GHzとなっています。グラフィックスは基本650MHzはデスクトップと同じですが,i7-3920QMでは1300MHzまでターボで引き上げられます。このターボ時のクロックは品種によって1100〜1300MHzと異なっています。

  モバイル用のi7のTDPは最上位のi7-3920QMが55W,i7-3612QMが35Wで,それ以外は45Wとなっています。モバイル用は最上位のi7-3920QMが$1096,i7-3820QMが$568,i7-3720QMが$378とデスクトップに比べてかなり高価です。よほど,この仕様のチップは採れないのでしょうかね。

  TDPはSandy Bridge(Core i7-2000番台)と比べると95Wから77Wと2割程度減っています。Trigateトランジスタの採用でVtばらつきが減り,その分,電源電圧を下げたのかと思ったのですが,データシートでは電源電圧は変わっていないようです。

   2012年4月24日のマイナビニュースに大原氏が48ページという膨大な記事を載せています。48ページと言っても各種ベンチマークでの測定結果のグラフのページが多いので,斜め読みをすれば,それほど時間はかかりません。今回発表のIvy Bridgeのi7-3770KとSandy Bridgeのi7-2700Kをベンチマークで比較しています。両者のクロックは同じです。

  結果を一口で言うと,プロセサコアの性能は殆ど同じで,Intelが主張するような大きな性能改善は見られません。 また,ターボをエネーブルにして測定すると,冷却条件の違いから,Sandy Bridgeの方がクロックの上がりが大きくなり,高い性能が出ることもあるようです。一方,メモリコントローラは10%程度のバンド幅向上が見られます。そして,消費電力ですが,DhrystoneやWhetstoneの実行時の電力は62%位に減少しており,大幅な改善です。グラフィックスは大幅に性能向上で,3DMark VantageのGame Testでも64%の電力で2倍近いフレームレートを出しており,GPUも効率が良いとのことです。とは言え,GPUの能力はハイエンドのディスクリートグラフィックスとは比べるべくもないということで,コアゲーマ向きではありません。

  なお,i7-3770Kはクロックが最も高い品種ということもありますが,大原氏の測定のCPU-Zの画面では電源電圧は1.16Vで結構高めです。

2.Achronix社がIntelの22nmプロセスを使うFPGAを発表

  2012年4月24日のEE Timesが,Achronix社のSpeedSter22i FPGAの発表を報じています。2010年11月6日の話題で紹介したように,Achronix社はIntelの22nmプロセスでFPGAを製造してもらうという契約を結んでおり,それが,製品としてもうすぐ出てくるという訳です。

  高密度のHDファミリはHD210,HD680,HD1000,HD1500の4種,高速のHPファミリはHP360とHP560という2種の製品が発表されました。最大規模のHD1500はLUT4が1.1M個,80kbitのRAMが1,728個,その他のRAMが全体で6.6Kbit,28bit×28bitのMACが864個集積されています。そしてI/Oは,12.75Gb/sのSERDESが64レーン,28Gb/sのSERDESが16レーン,10GbEのMACが48,40GbEのMACが12,100GbEのMACが4個,InterlakenLLCが4個,PCI Expressが2チャネル,DDR3-2133までサポートするDDR2/3メモリコントローラが6個集積されています。設計にもよるのですが,HDファミリは600〜700MHzのクロックで動くとのことです。

  高速のHP680は,LUT4が250K個,80kbit RAMは803個などで,28Gb/sのSERDESはありませんが,その他のI/Oは ,個数は違いますが,HD1500と同じレパートリのものが搭載されています。HPファミリは,同社の非同期のSelf TimedアーキテクチャのFPGAで,同期型の(競合他社の)FPGAの3〜4倍となる最大1.5GHzのクロックで動くそうです。

  Intelの22nmプロセスを使った効果ですが,28nmのプロセスで作ったものと比べて,消費電力は半分で,コストも半分と述べられています。IntelのウエファはTSMCより高いとAchronixも認めており,単価は高くなるのかもしれませんが,性能と低消費電力を武器にシェアを獲得できるかどうかが勝負です。

  HD1000は,今年3Qの出荷開始で,それ以外の品種は,その後の12ヶ月の間に発売されるとのことです。

3.IntelがCrayのインタコネクト部門を買収

  2012年4月24日のThe Registerが,IntelがCrayのインタコネクト部門と関連IPを買収すると報じています。買収金額は$140Mで,キャッシュで支払うということです。この買収に伴い,74名のCrayの従業員がIntelに移るとのことです。 なお,IPは譲渡するのですが,販売中のシステムなどに継続使用する権利は保持しています。

  Intelは,既に,Ethernetのスイッチやルーターの有 力メーカーであったFulcrumを買収し,InfiniBandの有力メーカーのQLogicを買収しており,これにCrayのAriesインタコネクトを手に入れれば,計算ノード間をつなぐ主要技術は全て手中に収めたことになります。

  Intelが具体的にどのようなビジネスを考えているのかは不明ですが,一大ネットワーク機器メーカーとして登場してくることも考えられます。また,CrayのAriesはPCI ExpressでCPUにつながっていますが,IBMのBG/Qのように,XeonやMICプロセサにAriesを組み込んだ製品が出てくるということもあり得ます。

  Crayはスパコンは,CPUはAMD,最近ではIntelも加えた標準品のx86プロセサを使うものの,それらの計算ノード間をつなぐ3次元トーラスのインタコネクトについては自社開発し,x86サーバを並べてInfiniBandでつなぐクラスタスパコンと,インタコネクトで差別化を図ってきました 。しかし,その差別化技術をIntelに売り払ってしまったので,InelがXeonにCrayのインタコネクトを組み込んだ製品を出し,SuperMicroやApproなどが同じハードを作れるようになってしまうと苦戦が予想されます。

4.なぜ,Crayはインタコネクトを売ったのか?

  2012年4月25日のThe Registerが,CrayがIntelにインタコネクトを売った理由を推測した記事を載せています。

  Caryの2012年1Qの製品売り上げは約$96Mで前年同期の5.75倍に急増しています。しかし,利益は$5Mを下回るレベルです。もちろん,これは前年同期の$1.5Mの赤字よりはずっと良いのですが,利益がギリギリ出ているという低いレベルです。

  今年の後半にはJaguarのTitanへのアップグレードや,Blue Watersの売り上げもあり,今年通期の売り上げは$430M〜$450Mと予想されます。これは良いのですが,これらのシステムを作るにはCrayは部品を買って代金を払わなければなりません。一方,売り上げのお金が入るのはシステムを納入し,数か月の検収期間が終わってからですから,半年くらいはCrayが資金負担する必要があります。資金繰りを考えるとCrayとしては,お金が欲しい時です。

  また,システムを売り上げても,その大部分はCPUメーカーのAMDやIntel,まだ,GPUメーカーのNVIDIAに持っていかれ,新システムの開発費も嵩み,なかなか利益が上がりません。

  ということで,Crayはビッグデータ用のUrikaやLustreファイルシステムなど,いわゆるハイエンドのスパコン以外のコマーシャル分野にも売れる製品 やコンパイラなどのソフトウェアへの傾斜を強めて行くとのことです。

  そして年表的にいうと,昨年の8月13日の話題で紹介したように,Crayでインタコネクトの開発を主導してきたCTOのSteve Scott氏がCrayを辞め,NVIDIAのTesla GPUユニットのCTOに移籍しました。そして,4月19日のHPC Wireが,空席となっていたCTOとして,Crayは,マイクロソフトのWilliam Blake氏を迎えたことを発表しました。Blake氏はマイクロソフトのパラレルコンピューティングプラットフォーム部門のGMで,HPCシステムとソフトウェアの専門家です。

  そして,4月24日にインタコネクト部門のIntelへの売却が発表されました。

  これについてThe Registerは,インタコネクトを手放すという方向性が,Scott氏がCrayに見切りをつけてNVIDIAに移った原因の可能性があり,後任にBlake氏を迎えたのは,Crayの差別化技術としてインタコネクトではなく,HPCソフトを中心に据えて,科学技術分野だけなく,より利益率の高いコマーシャル分野の顧客に売れるシステムを作っていこうという方針転換の現われではないかと推測しています。

  スパコン専業のCrayがこの状況ですから,富士通やNECはスパコン部門だけを分離した売り上げや損益を公表していませんが,システムの販売数を見てもCrayよりも厳しそうです。どうやって利益の出るビジネスにするかを考えないと,スパコンの開発を続けられなくなるのではないか,日本のスパコン開発は無くなってしまうのではないかと心配です。

5,HPは2022年まではItaniumを使い続けられる?

  2012年4月25日のThe Registerが,HPは少なくとも2022年まではIntelにItaniumの開発を強制できると報じています。

  OracleがHPのItaniumサーバのサポートを打ち切った件でHPとOracleが争 っています。OracleはIntelの幹部がItaniumは遠からず打ち切りになると述べた主張し,IntelはItaniumは開発を続けるという主張しており,この裁判で証人となったIntelのKirk Skaugen氏が,少なくとも2022年まではItaniumの供給責任を負うと証言したと報じています。Skaugen 氏は現在はPCクライアント部門の責任者ですが,最近までItaniumを含むデータセンターとネットワーク部門の責任者を務めていました。

  HPとIntelの間でItaniumの開発期間に関する契約があるということは知られていましたが,それが2022年まで継続することが明らかになったのは今回のSkaugen氏の証言が初めてです。

6.Cool Chips XVでのスパコン関係の発表

  4月18日から20日にかけて横浜の情報文化センターで開催されたCool Chips XVにおいて,富士通の安島氏の「京」のTofuインタコネクトに関する講演と,IBMのGeorge Chiu氏のBG/Qに関する講演が行われました。

  拙著ですが,4月24日のマイナビでCool Chips XVの要約4月25日のマイナビでTofu4月26日のマイナビでBG/Qを紹介しています。

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