最近の話題 2012年5月26日

1.気象庁が847TFlopsの日立製スパコンを導入

  2012年5月24日に気象庁は新スパコンの導入を発表しました。 局地的な大雨などの従来予測が難しかった規模の小さな現象の予測を目的とした局地モデル運用を6月5日から開始するとのことです。現在のモデルはメッシュが5kmであるのに対して,新しい局地モデルは2kmで,局地的な豪雨などの予測精度が高まるとのことです。また,従来の数値予報モデルも順次改善し,準備が整ったものから運用を開始する予定とのことです。

  導入されるシステムは日立のSR16000 M1で,ピーク演算性能は847TFlopsで,現行のSR11000の27.5TFlopsの約30倍の性能になります。また,メモリは108TBで308TBのディスクが付いています。

  日立のSR16000はIBMのPOWER7プロセサを使うスパコンで,M1モデルは水冷でのマルチノードの大規模システム用であり,CPUのクロックも3.83GHzとSR16000の他のモデルより高速のものが使われています。このSR16000 M1はIBMのPOWER 775サーバと基本的には同じものと思われます。

  IBMの仕様では,POWER 775のDrawerは32チップを収容し,7.843TFlopsとなっていますので,気象庁のシステムは108Drawerという計算となります。POWER 755は1筐体に12Drawer収容できるので,気象庁のシステムは計算ノード筐体は9本となります。

2.ItaniumはKittsonで打ち止めか?

  2012年5月17日のThe Inquirerが,IntelにItaniumを開発してもらうために,2009年にHPは$88Mを支払ったと報じています。これはIntelにPaulsonとKittsonを開発して貰うという5年契約での計$300Mの支払いの一部とのことです。

  OracleがHPのItaniumサーバで動くOracle製品のサポートを止め,HPが訴えている裁判で,Oracle側はIntelの幹部からItaniumは将来性が無いと聞いた,他のソフト会社もItaniumのサポートを止めていると反論しています。この裁判でOracleが,HPとIntelの幹部の間でやり取りされてメールを開示しました。

  それによると,2009年の$88Mの支払いにHPの財務幹部が,「Intelへの$88Mの支払いを延期してはどうか」と述べたのに対して,HPのサーバの責任者の回答メールでは,「IntelのItaniumビジネスは赤字で,Intelは強く止めたがっている。$88Mを払わないとPoulsonとKittsonの開発がシャットダウンされてしまう」と書かれているとのことです。

  IntelはHPに,IntaiumをやめてXeonに移ってもらいたいのですが,HPとしてはハイエンドのサーバラインのバイナリの切り替えは容易ではなく,簡単にはソフトランディングできないので,KittsonまではItaniumを必要とするということのようです。

  しかし,高い開発費を払っても何時までも延命は出来ないでしょうから,HPとしても切り替えの準備は進めている筈です。ということで,Itaniumは2013年のKittsonで終わりになる可能性が高いと思われます。

3.NVIDIAのVGXは新しい技術か?

  2012年5月21日のThe Registerが,NVIDIAのVGXは新しい技術か?という記事を載せています。先週の話題で紹介したように,Kepler GPUは仮想化の機能を持っていることが発表され,VGXは,クラウドに置いた仮想CPUと仮想GPUで,多数のユーザ端末をサポートしようという使い方です。

  基本的にはサーバで処理を行い,端末側はディスクを持たないダム端というX-terminalの延長と言えますが,VGXの新しいところは,単なるGPUの仮想化ではないところです。このThe Registerの記事にはVGXのリモートディスプレイのデータの流れを示す図が載っていますが,単なるGPUの仮想化だと,GPUのフレームバッファに描画した画面をCPUのメインメモリに送り,そこでRGB→YUV変換を行い,H.264エンコードを行ってNICに送るという手順になります。

  これに対して,VGXボードではGPUがフレームバッファのデータをH.264エンコードまで加工してNICに送るようになって おりCPUの介在を必要としません。このため,オーバヘッドが小さく,遅延時間の小さいリモートディスプレイができます。GTCのデモではIndustrial Light & MagicのCofer氏が登壇し,会社のサーバにあるデータの加工を見せており,映画用の巨大なCGファイルでもVGXで扱えるというのは,かつて のリモートディスプレイでは出来ませんでした。

  VGXボードの写真が載っていますが,4個のGF104チップと16GBのフレームバッファを搭載し,サーバ用なのでボードにはファンのついていない空冷となっています。

4.NVIDIAとその仲間はゲーム業界を席巻するか?

  2012年5月22日のThe Registerが,NVIDIAのGeForce Gridに関して,NVIDIAとその仲間は将来のGamingをpwnするかという記事を載せています。

  Call of Duty:Modern Warfare 3は発売16日で$1Bを超える売り上げで,2003年からのCall of Dutyシリーズは計$6Bの売り上げ。これに対して有名な映画のStar Warsのこれまでの全売上が$8.3Bということで,ヒットゲームはヒットした映画と同規模の売り上げです。

  2011年にはゲームコンソール用のゲームは430Mコピー売れ,単価を$35と見積もっても$15B。更に,ゲーム機も5300万台売れ,単価を$250としても$13Bを超える。これに対して,ハリウッドの2011年の売り上げは$10.6Bで,今や,ゲームは映画をはるかにしのぐ産業になっていると書かれています。

  NVIDIAのGeForce Gridは,ハード的には仮想化したCPUと仮想化したGPUでクラウドでゲームを提供するというもので,GPU1個で4ユーザ程度のサポートと,数10ユーザをサポートするビジネス用のVGXと比べるとコスト的には割高ですが,低消費電力の端末でFPSのようなゲームが楽しめるというのは魅力を感じるユーザも多いと思われます。

  GeForce Gridでゲームを提供するには,VGXボードにゲームを移植し,ネットワークの遅延を含んだレスポンスをコンソールと同程度に高速化する必要がありますが,一方,PS3,Xbox,Wii,そしてPCと何種類ものプラットフォームに移植してサポートする必要はなくなり,ゲームデベロッパーの開発の手間は減り ,その分,開発コストが下がります。また,ゲームソフトはクラウドセンターから外に出ないので,海賊版が出回るリスクも小さくなります。

  また,オンラインゲーム提供会社の課金体系がどうなるかは分かりませんが,プレイした時間での課金という形がもっとありそうな形で,ゲームを先ず購入という現在の形態より,入り口の投資は少なく,遊んで見やすくなります。また,それほどCPUやGPU能力のない端末で,場所を選ばず遊べるという利便性もあります。 まあ,ゲーセンがポケットやカバンに入るということでしょうか。

  AppleがiPodで,その圧倒的な利便性で音楽の売り方を変えたように,GeForce Gridはゲームの売り方を変える可能性を持っています。NVIDIA自体はハードと基本ソフトの提供までで,クラウドセンターを自分で作ったり,ゲーム提供をしたりというビジネスを始める意図はないとのことですが,ゲーム業界の大部分がこのような提供形態となれば,GPUボードに新しい大きなマーケットができます。

@1001562

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