最近の話題 2012年8月11日

1.TSMCがASMLに1.1Bユーロを出資

  2012年8月6日のThe Registerが,TSMCがオランダの露光機大手のASMLに€1.1Bを出資すると報じています。このうちの€838Mで,ASMLの5%の株を取得し,€276MはEUVや450mmウエファ対応の研究開発負担となっています。

  7月14日の話題で紹介したように,Intelは10%,将来的には15%までのASML株を購入し,開発費負担分を合わせると,$4.1Bの出資を決めています。ASMLは25%の株をパートナとなる企業に所有してもらうという方針で,Intelが15%,TSMCが5%ということになりました。残りの5%はSamsungに話を持ちかけていると見られています。

2.IntelがNikonに開発費を提供か

  2012年8月8日の日経新聞が,NikonはIntelと協力して次世代の450mmウエファ露光機の開発を行い,それに対してIntelは数100億円の開発費負担を決めた模様と報じてます。

  実用化の時期は2018年で,製造コストを半減するとのことです。

  ライバルのASMLがIntel,TSMCから開発費を集めているのに対抗する動きと考えられます。1Xnm世代の露光機といってもクリティカル層はEUVが必要でも,上層の配線は,ArFで行けるわけで,これらの層向けの450mmウエファ対応の露光機を開発するものと思われます。これならば,Intelとしても2重投資になりません。

  日経はASMLと競合する製品を開発させて,市場の競争で装置の値段を下げる目的という見方をしていますが,私は,Intelが,15%の株を保有するASMLのダイレクトな競合メーカーを支援するというのは考えにくいと思います。

3.AMDがPiledriverコアを使用するFirePro APUを発表

  2012年8月7日のThe Registerが,AMDのワークステーション向けのグラフィックス製品であるFireProシリーズのPiledriverコアの2種のAPUと4種のディスクリートグラフィックスボードの発表を報じています。 開催中のSiggraphでの発表に合わせて製品発表されました。

  今回発表されたのは,FirePro A320とA300という2種のAPUで,両方とも,4コアのPiledriverプロセサと4MBの共通L2$,384Stream ProcessorのGraphics Core NextベースのGPUをワンチップに集積しています。

  A320はCPUのクロックは3.8GHzで,ターボで4.2GHzまで引き上げられます。GPUクロックは800MHzで,SPのピーク演算性能は768GFlops,DP演算性能はその1/4の184GFlopsです。そしてTDPは100Wとなっています。

  A300はコア数,Stream Processor数は同じですが,CPUクロックが3.4GHz(ターボ4.0GHz),GPUクロックは760MHzと若干低くなっていますが,TDPは65Wで,エネルギー効率的にはA320より優れています。

  APUですから,メモリはCPUと共通のデュアルチャネルのDDR3メモリですが,1866MHzまでの速度をサポートしています。

  FireProのディスクリートグラフィックスは,W9000,W8000,W7000,W5000の4品種が発表されました。 これらもGPUはGCNベースです。そして,AMDのグラフィックスとしては,初めてメモリのECCがサポートされています。また,現在,AMDのプロセサでPCI e3.0をサポートするものはありませんが,これらのボードはPCI e3.0 x16のインタフェースとなっています。

 最上位のW9000は,SPでは3994GFlops,DPでは998.4GFlopsの性能を誇ります。GDDR5メモリも6GBの容量で384bit幅,264GB/sのピーク転送レートとなっています。ただし,電力は274Wで,お値段は$3,999と,こちらも印象的な値です。

  W8000はW9000の廉価版で,SP性能は3230GFlops,DPは806GFlopsとなり,メモリは4GB,256ビット幅,176GB/sになりますが,電力は225Wで,お値段は半分近い$1,599とお買い得です。

  W7000はSPは2400GFlopsですが,DPは152GFlops,W5000はSP 1270,DP 79.2となりますが,お値段は$899,$599となっています。

4.NVIDIAが第二世代Maximusを発表

  2012年8月9日のHPCWireが,NVIDIAの第二世代Maxiumsの発表を報じています。Maximusはグラフィックス表示用のGPUと計算用のGPUを搭載するワークステーションで,計算用GPUを使ってCAD,CAEなどの解析を高速化し,グラフィックス用のGPUで結果の表示などを高速化するというもので,設計者や研究者向けのシステムです。

  今回発表された第二世代ではGPUをKeplerに変更し,グラフィックス用はGK104チップを使うQuadro K5000,計算用はGK110チップを使うTesla K20を搭載します。ANSYSやNASTRANなど定番のCAD,CAEなどがGPUアクセラレータをサポートするようになってきており,有用性が高まっています。

  Quadro K5000は$2,249,Tesla K20は$3,199ですから,Keplerで仮想化をサポートしたなら1個で兼用できないかと思うのですが,実は,Keplerの仮想化は,ストリームの終わりなどの切れ目でしか仮想マシンを切り替えられません。このため,長い時間かかる計算ストリームを始めてしまうと,グラフィックス処理が止まってしまいます。このため,それぞれに専用のGPUを使う構成になっています。

  汎用CPUのようにタイマー割り込みなどで任意のタイミングで仮想マシンの切り替えを行えるようにすれば良いのですが,そうするとレジスタファイルやローカルメモリを始めとして多くの状態情報の退避,復元が必要になります。

5.SC12では米国の国立研究所の展示が消える

  東工大の松岡先生のTwitterによると,GSAスキャンダルの影響で,今年の11月のSC(シーモアクレイ賞やゴードンベル賞の授与が行われるスパコン最大の学会)から米国のローレンスリバモア(LLNL)やオークリッジ(ORNL)といった国立研究所の展示が無くなるとのことです。

  米国のGSA(General Services Administration)という米国政府の全ての建物などを建設したり管理したりする大家さん的な役所が,80万ドルをかけてラスベガスの高級ホテルでカンファレンスをやり,それが昼間からシャンペンを飲んでいるという,大部分が豪遊という内容であることがばれて,議会から追求されています。

  これが原因で,全てのお役所のカンファレンスの予算が最高で50万ドルに抑えられるという事態になっているそうです。この50万ドルは省庁の単位で,SCに参加するDoE傘下の国立研究所全部の合計で50万ドルです。例年,SCへのDoE関係の参加者は数百人とみられ,学会参加費,ホテル代,旅費などだけでも50万ドルで収まるかという感じで,今年は参加者も絞り,ブースを出しての展示を控えるとのことです。

  例年,LLNL,ORNL,Sandiaなどが大きなスペースを使って研究成果を展示しているのですが,それが無くなると展示スペースの1/4位は空いてしまうのではないでしょうか。また,SciNetのバンド幅も,これらの国研が使っている分が無くなるとかなり少なくて済むということになってしまいます。

  このような国際学会は,GSAスキャンダルの豪遊カンファレンスとは全く違うのですが,一律に予算にキャップが掛っているので,大きな影響が出そうです。

 

inserted by FC2 system