最近の話題 2012年12月8日
1.MIPSがアーキテクチャ拡張を発表
2012年12月6日のEE TimesがRelease 5と呼ぶMIPSのアーキテクチャ拡張の発表を報じています。拡張の一つのポイントは仮想化サポートの強化で,EETimesの記述では,ハードウェア的にゲストOSの 実行レベルを追加したようです。ゲストOSをユーザレベルで動かすより安全性が確保しやすいとのことです。セットトップボックスでインタネットにアクセスし,オンラインのペイメント をするというような使い方が一般化しており,セキュリティーの強化は重要という認識での拡張です。
もう一つの目玉は,128bitのSIMDのサポートで150命令を追加しています。これにより,DSP的な処理の性能やエネルギー効率が上がります。
MIPSは,Imagination TechnologyとCEVAが買収合戦を繰り広げており,このRelease 5が,独立MIPSが発表する最後のアーキテクチャになりそうです。
2.20nm以降ではトランジスタの単価が上がる?
2012年12月6日のEE Timesが,BroadcomのCEOのScott McGregor氏の,同社のアナリストデイでの,28nm世代までは,世代ごとにトランジスタの単価は下がってきたが,20nmや14nmでは,単価が上がるかも知れないという発言を報じています。
ムーアの法則は色々な形で言われますが,最も重要なのは,トランジスタの単価が世代ごとに下がることで,より複雑な機能を同じコストで提供できるという点です。トランジスタの微細化により消費電力が減るとかスイッチ速度が速くなり性能が上がるというメリットがあるので,Broacomとしては先端のLSIは20nm,14nmと先端プロセスを採用していくが,28nmよりプロセスをシュリンクをしてもメリットがないものも出てくると述べています。
微細化の効果は,トランジスタ単価の低下によりコストメリットと,トランジスタの高速化,低電力化が進歩の両輪で,McGreggor氏のいうように,単価の低下が止まると微細化の推進に大きなブレーキがかかることになると思われます。
3.AMDがGlobal Foundriesとのウエファ供給契約変更で$320Mを支払い
2012年12月7日のEETimesとThe Registerが,AMDがGlobal Foundriesとのウエファ供給契約(Wafer Supply Agreement)を,一定額の購入を保証する契約(take-or-pay)から一定のウエファ価格での購入契約に切り替える交渉を行い,AMDが$320MをGlobal Foundriesに支払うことで合意が成立したと報じています。
PC業界の落ち込みで,4Q12のGlobal Foundriesからのウエファ購入額は$115Mの見込みで,この契約の変更により,$65Mの節約になるとのことです。2013年度には$1.15Bのウエファを購入する見込ですが,それでも購入保証額には達せず,変更した方が安上がりということで,AMDがかつての見込みほど,チップを販売できなくなっていることが背景にあると考えられます。
当然,Global Foundriesとしては,アテにしていたお金が入ってこなくなるわけで,その対価として$320Mを受け取るというわけです。ただし,この支払は,今年12月28日までに$80M,来年4月1日までに$40M,そして残りの$200Mは2013年末支払の約束手形ということで,AMDによると$165Mの一時払いとほぼ同等の負担とのことです。
また,これまでAMDは自社プロセサ用にカストマイズしたプロセスを使っており,このプロセスの開発費として4半期に$20M程度を支払っていたのですが,28nm以降はGlobal Foundriesの標準プロセスを使うことで,この支払を止めてコストを削減するとのことです。
先週,紹介したオースチン事業所の土地の売却先を探すというのに続く,経営の改善策です。
4.IEDM 2012ハイライト論文
2012年12月6日のEE TimesがIEDM(International Electron Devices Meeting)のハイライトを報道しています。IEDMの本会議は12月10日からの開催で,IEDM主催者からの報道陣に対するさわりの説明会の資料に基づく記事と思われます。
ハイライトとして紹介されている論文は,以下の8件です。
7番のIntelの論文は22nmのFinFETを使うSoCプロセスの発表です。22nm FinFETはIEDMでは初の発表です。65mV/decとのことで,やはりFinFETはすごいという感じです。そして,低リークトランジスタを使ったSRAMのリーク電流は10pA/bitとのことで,これも低い値です。
面白いのはMacronicsの2番の論文です。Flashメモリは書き込みによって絶縁膜が劣化し,電荷を保持できなくなってくるので,書き込み回数が制限されます。この劣化した絶縁膜を800℃程度にしてアニールすると,元に戻るのですが,チップ全体を高温にすると,ほかの部分が壊れてしまうので,この方法は採れません。Macronicsの論文は,Flashメモリセルのゲート電極をヒーターに使って,ゲート直下の絶縁膜を数msの間,800℃に加熱して劣化をもとに戻すというもので,1億回以上の書き込みができるとしています。ゲート電極には,通常は電圧を与えるための1本のワード線が繋がっているのですが,ゲート電極の両端にワード線を接続して,ゲート電極に電流を流します。ワード線が2本必要で,当然,セルの面積が大きくなると思うのですが,Abstractでは面積への影響は書かれていません。
もう一つ,面白いのは,IBMの4番の論文で,シリコンウエファ上に回路を作った後,表面を剥いで,プラスチックシートに貼り付けてフレキシブルなCMOS LSIを作るというものです。Contolled Spallingと呼ぶやり方で6nmという薄いシリコン層を剥離しています。