最近の話題 2013年1月19日

1.IntelのSDPの定義は非公開

  先週の話題でScenario Design Power 7WのIvy Bridgeの発表を紹介しましたが,2013年1発15日のThe Inquirerが,Intelは,このシナリオにはどのような処理が含まれているかという詳細情報は公表しないと報じています。

  このシナリオにはWebブラウジング,ビデオコンファレンス,カジュアルなゲームが含まれており,ある種のデバイスに使用された場合のチップの使われ方をモデルしたものとのことですが,その詳細は,OEMなどには提供されるものの,一般的に公開するつもりはないとIntelは回答したとのことです。

  名前が上げられた3種の処理から,タブレットやPCを想定しているようですが,どれだけヘビーに使われているのか分からなければ,その消費電力にどのような意味があるのか全く不明です。

  TDP(Thermal Design Power)は,その名前の通り,最大発熱の状態での消費電力を示しており,この動作を続けてもチップが過熱せず,安定に動作する(定格のケース温度に収まる)ように冷却系を設計しなさいという電力で,装置の設計者にとって意味のある値です。サーバ用のCPUでは,一番消費電力が多くなるアプリを長期間連続実行しても,Thermal Tripせず定格のクロックで動くことが要求されるのが普通で,TDPの発熱を考慮して冷却系が決められます。

  SDPで冷却系を設計すると使い方によってはCPUチップが過熱する恐れがありますが,最近のプロセサは温度センサーを内蔵しており,過熱してくると自動的にクロックを下げたりして消費電力を抑えてしまうので,過熱でチップがダメージを受けることは無くなっています。従って,消費電力を低く見積もったプアーな冷却系でもそれなりに動いてしまいます。

  一方,タブレットでの使用などで,SDPの電力を連続で消費すれば,とても10時間は電池はもたない筈で,SDPを想定してバッテリの容量を決めてくれというわけでもなさそうで,この値の意味は良くわかりません。

  実はTDPも,最も消費電力が大きい状態とは言いながら,その内容は不明確で,IntelがTDPの定義もメーカーによって違うし,Intel内でもCoreとAtomで違うと言い出したと,2013年1月16日のThe Inquirerが報じています。設計側からみれば,その数字がどう使えるのか,ユーザ側からみればTDPやSDPは目安でしかなく,自分の使用状態でどれだけ電池がもつかで判断するしかない,という所でしょうか。

2.AMCCが64bit ARMv8準拠のX-Geneサーバを公開

  2013年1月17日のThe Registerが,Facebookが主導するOpen Compute 2013におけるAMCCのX-Geneサーバボードの公表を報じています。

 X-Geneは昨年のHot Chipsで発表されており,2012年9月1日の話題でも簡単に紹介しています。また,マイナビの記事前篇後編で詳しく紹介しています。このチップはTSMCの40nmプロセスで製造され,64bitで4IssueのO-o-Oコアを合計で8コア集積しています。

  AMCCは,Open Compute 2013でこのX-Geneチップを搭載したGroup Hug規格のマザーボードを公開しました。このボードは,2.5GHzクロックのX-Geneチップと256GBのメモリが搭載され,X-Geneがサポートする10GbE,PCIe 3.0,SATAなどが出ている模様です。

  そして,AMCCは,今年の末までに28nmプロセスのX-Gene2をテープアウトすると発表しました。X-Gene2はコア数を16コアに倍増し,クロックも3GHzに引きあげるという目標です。そして,最大64チップをグルーレスで接続する機構を搭載するとのことです。最大では1024コアのシステムが構成できることになりますが,この規模ではキャッシュコヒーレンシを維持することは難しいので,多分,分散メモリのシステムとなっていると思われます。

  更に,2014年にはX-Gene3をテープアウトするとのことです。X-Gene3はFinFETのプロセスを使うと述べられています。

  最初のX-Geneチップは,現在,AMCCの社内でテストを行っている最中ということです。また,他社にもサンプルは提供されており,Ope Compute 2013では,DellがX-Geneを使うサーバブレードを見せています。

  最初のX-Geneチップを使うサーバは,Xeonサーバに比べてTCOを67%削減でき,将来のチップではさらにTCOを下げられるとのことです。

3.FacebookはSoCでないCPUを希望

  AMCCのX-GeneもCalexedaのチップもServer on Chipと称して,CPUだけでなく,メモリコントローラ,PCIexpress,10GbEなどを集積し,DRAMのDIMMだけを付ければサーバになるというチップを作っています。しかし,2013年1月18日のEETimesは,Facebookはこのようなオールインワンのチップを望んでいないと述べたと報じています。

  Open Compute Summitにおいて,Facebookのハードウェア設計とサプライチェーン担当VPで,Open Compute FoundationのChairmanを務めるFrank Frankovsky氏が基調講演を行い,Facebookでの新サーバ開発は,以前は1年かかっていたが,標準化の推進で現在は半年になった。しかし,日進月歩のソフトの革新のペースには追いついていないと述べ,サーバとしては,毎年進歩するCPUを差し替え,メモリ,I/Oチップやネットワークチップは5年ごとの更新というペースが望ましいと述べたとのことです。

  したがって,Facebookとしては,CPUコアだけをできるだけ多く集積したチップが望ましく,CPUが変わるたびにI/Oやネットワーク部分まで全取り替えになるの設計は望ましくないということです。

  2013年1月16日のThe Inquirerなどが報じる,AMDが発表したOpen Compute 3.0マザーボードでは標準的なインタフェースを持ち,必要な機能だけを実装できるようになっていますが,この考え方を更に推し進めているような感じです。

  しかし,5年間と言えば,CPUパワーは5〜10倍に上がるペースですが,周辺はそのままで持つのでしょうかね。

  また,Facebookのインフラストラクチャ担当VPのJay Parikh氏が,ストレージについて述べ,現在のストレージメーカーは高性能のスポーツカー(SSD)とバン(HDD)だけを売るカーディーラーのようであるが,欲しいのはプリウスと述べ,書き込み回数は比較的少なくて良いが価格の安い大容量のNAND Flashが必要と述べたとのことです。

4.富士通が16コアSPARC64 ]を使用するSPARC M10サーバを発売

  富士通は,2013年1月18日に16コアのSPARC64 ]を使用するSPARC M10サーバを発表しました。発表されたのは,最大2ソケットのM10-1,最大4ソケットのM10-4とM10-4Sの3機種で,筐体のサイズは,M10-1は2U,M10-4は4Uとなっています。そして,最上位の4Sは最大構成では,16筐体を連結して64ソケット1024コアのサーバを構成できるようになっています。

  CPUのSPARC64 ]は昨年のHotChipsで発表されており,昨年9月1日の話題で紹介しています。また,マイナビで前篇中編と詳しく紹介されています。

  SPARC64 ]は,京などに使用されたCPUと同じSPARC64系列ですが,科学技術計算用であることを示すfxが最後についておらず,その意味ではSPARC64 Z+の後継となるビジネス用のプロセサです。TSMCの28nmプロセスを使い16コアを搭載し,最大3GHzのクロック,2次キャッシュは24MBで,23.5×25.0mmという巨大チップです。

  M10-1のCPUは2.8GHzクロックでL2$は22MB,M10-4は2.8GHz,24MB,M10-4Sは3.0GHz,24MBと大型になるほど出来の良いチップが使われています。そして,お値段は,M10-1が220万円より,M10-4が571万円より,M10-4Sが1517万円よりとなっています。

  M10-4Sは筐体間を接続するクロスバユニットを持ち,4筐体までは直結が可能となっています。最大16筐体のシステムが作れるのですが,この場合は専用の筐体が2本必要となります。多分,この筐体に16筐体接続の拡張クロスバが入っているのでしょう。

  CPUチップの消費電力は発表されていませんが,M10-4S 1筐体の最大消費電力は2779Wとなっており,CPUチップ1個平均では約700Wです。DIMMが合計64枚付き,ディスクが8台搭載できますが,やはりCPUチップの消費電力は相当大きそうです。そのためか,CPU部分は水冷になっており,この構造は2013年1月18日のTech On!に詳しく報じられています。この水冷はCPUチップからの熱を,Tech On!の写真に見られる後方のファンの手前にあるラジエータまで運ぶもので,筐体内部で閉じたクローズドループになっており,筐体への給排水管の接続は不要です。その意味ではヒートパイプと同じですが,大量の熱を運ぶには水冷の方が適していたということでしょうか。

  

  

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