最近の話題 2013年3月16日

1.IBMがWatsonを使う最初の実用的ながん診断アプリの開発を発表

  2013年2月8日にIBMは,Wellpoint社とMemorial Sloan-Kettering Cancer Centerと協力して,がんの診断システムを開発したと発表しました。

  Watsonは,60万件の症例,42の医療関係の論文誌から200万ページの論文などを読み込み,医者や技術者が数1000時間を費やして,Watsonに知識を覚えさせたとのことです。そして,1500人の肺がん症例を手始めに,医師の所見や検査結果などを使ってトレーニングを積んでいるとのことです。

 しかし,医師のように診断できるまでには何年もかかりそうとのことです。

 一方,Watsonシステムの方は,Jeopardy!で人間のチャンピオンを破って以来,改良が続けられており,240%の性能の改善と,システムサイズの75%の縮小を達成しており,いまでは,1台のPOWER 750サーバで動かすことができるようになっているとのことです。そして,2013年3月5日のComputer World誌の記事では,IBMのGlobal Healthcare & Life Sciences business.のDan Pelino GMは,ムーアの法則を延長すると,2020年には,Watsonはハンドヘルドデバイスのサイズになると述べています。

  知識の集積と教育で診断の精度があがり,小型化と低価格化が進むと,素晴らしいことになりそうです。一方,高度な知的労働の分野までコンピュータがこなせるようになると,人間の職場が減ってしまうという心配はあります。

2.富士通と国立天文台がALMAの専用スパコンの稼働開始を発表

  2013年3月14日に富士通と国立天文台は,チリのALMA電波望遠鏡の日本担当のACA(Atacama Compact Array)のデータ処理を行う専用スパコンが稼働を開始したと発表しました。なお,このスパコンは専用で,一般の計算ができるようにはなっていません。

  ACA干渉計は,16台のパラボラで受信した電波強度の相関を計算し,電波の到来方向の解像度を上げるというのが基本的な動作原理で,2GHzでサンプリングされた信号をFFT計算を行って周波数成分に分解し,アンテナペア間の信号の相関を計算するという動作が必須です。この電波強度の相関をリアルタイムで計算するには大量の計算が必要であり,ACAの相関器は120TOPsの演算性能を持っているとのことです。なお,この120TOpsは4〜16bitの整数で計算され,京スパコンなどの倍精度浮動小数点演算に比べると圧倒的に少ないトランジスタで実現でき,XilinxのFPGAで作られています。

  また,このシステムは相関器のコントロールやデータの伝送を行う35台のPRIMERGYサーバを含んでいます。何しろ5000mの高地で0.5気圧しか無く,空気が薄いのでハードディスクはクラッシュの恐れが大きく,ストレージにはSSDを使っているそうです。

  なお,ALMAに関してはマイナビに私の連載記事があります。10回の連載で,ACAの相関計を含めて,ALMA全体について解説しています。

3.米国のNRELがHPの新テクノロジスパコンを採用

  2013年3月13日のHPC Wireが,米国のNational Renewable Energy Laboratoryの新スパコンについて報じています。今年の1〜2月にXeon E5-2670 を使うHPのProLiant SL230と250が納入されました。Xeon E5-2670は32nmプロセスで作られたSandy Bridge世代のプロセサですが,これらは,今年の夏に,未発表の22nmプロセスで作られるIvy Bridge世代のプロセサに置き換えられ,冷却も温水でチップを冷却する未発表のHPサーバに置き換えられるとのことです。

  このサーバの温水は,流入温度が華氏75度(約57℃)流出温度が100度(約82℃)とのことで,冷凍機を使わなくても,クーリングタワーなどで82℃→57℃の冷却ができ,冷却エネルギーを節約できます。また,この熱を暖房や給湯などに利用すれば,更に,エネルギー効率を高めることができます。

  京コンピュータの場合は,冷却水の温度上昇は数℃で,25℃の温度上昇を許すと1/10の流量で済むことになりますが,チップの消費電力は動作状態によって変わるので,チップの温度コントロールは難しそうな気がします。

  また,これらのサーバは480VACの給電となっており,100〜240V給電に比べると効率を改善できます。また,このサーバにはXeon Phiチップが搭載されてピーク性能は1PFlopsになる予定だそうです。

4.CadenceがプロセサIPメーカーのTensilicaを買収

  2013年3月11日のLow-Power High-Performance Engineering Communityのニュースレターが,CAD大手のCadenceが,カストマイズ可能なプロセサIPを開発,ライセンスするTensilicaを買収すると報じています。

  プロセサIPコアをライセンスするメーカーとしてはARMが大手ですが,業界3位のTensilicaのコアは,命令の追加や実行パイプラインの追加などカストマイズの範囲が大きく,よりユーザのニーズに合わせたプロセサを作れるのが特徴で,200社のライセンシーがあり,20億コアが出荷されているそうです。

  買収額は$350Mですが,Tensilicaの$30Mの負債を引き継ぐので,実質の買収額は$380Mとなります。

  Cadenceは既にAnalog IPメーカーのCosmic Circuitsやメモリモデルを提供するDenali Systemsを買収しており,これにTensilicaのプロセサコアが加わることで,各種SoCの主要IPを自社で提供できることになります。

5.台湾のプロセサIPメーカーAndes Technologyが米国に進出

  2013年3月14日のEE Timesが,台湾のプロセサIPメーカーのAndes technology社が米国に進出すると報じています。Andes社は,元々台湾と中国でビジネスをしていたのですが,昨年,日本と韓国に進出し,今回は米国に進出ということで海外展開を積極的に進めています。

   Linley Groupの調査結果では,Andes社の2011年のプロセサIPの売り上げは$4.5Mで,業界トップのARMの634.8M,2位のMIPSの$72.1M,3位のTensilicaの$13.5M,4位のSynopsisの$9.0Mに次ぐ5位にランキングされています。

  Andes社のコアはWiFi,Bluetooth,GPSのコントローラなどに使われており,台湾のMediatekやFaradayなどが出資しており,主要な顧客と見られています。

 AndesのコアはARMのハイエンドのコアには性能的に及びませんが,中下位のコアとは競合し,同じ性能なら電力やチップサイズでARMコアを凌駕するとのことです。

6.第3世代改良版のApple TVのA5プロセサはTSMC製か?

  2013年3月10日のMacRumorsが,第3世代改良版のApple TVに入っているA5プロセサのチップサイズが6mm×6mmと縮小されていると報じています。

  2012年のiPad2に搭載されたA5プロセサは,Sansumgの45nmプロセスで製造され,10.09×12.15mm,そして,第3世代AppleTVとiPad2の改良版に使用されたチップはSamsungの32nmプロセスを使い8.19×8.68mmであったのに対して, 今回はさらに小さくなっており,28nmプロセスが使われていると見られます。

  Samsungも28nmプロセスの量産工場を立ち上げていますが,まだ,稼働しておらず,今回のチップはTSMCの28nmプロセスで製造されている可能性が高いと見られます。AppleとSamsungはスマホなどの特許で対立しており,AppleはSaumsungファブへの依存を減らし,A6X世代のチップはTSMCで製造と噂されていますが,TSMCへの切り替えが進んでいる一つの証拠とみられます。

7.TSMCが3月にApple A7プロセサのテープアウトを受付か

  2013年3月13日のDigitimesが,TSMCが3月にAppleからのA7プロセサのテープアウトを受け取ると報じています。このチップは20nmプロセスでの製造とのことです。

  順調に行けば,5〜6月にはリスク製造を開始し,2014年のQ1には出荷と見られるとのことです。

8.AMDがオースチンキャンパスの売却を発表

  2013年3月12日のHPC WireがAMDのオースチンキャンパスの売却とリースバックの発表を報じています。AMDの2012年の決算は,$5.42Bの売り上げで$1.06Bの営業損失,$1.18Bの純損失と言う成績で,売れるものは売って,お金に変えたいという状態す。

  オースチンキャンパスを不動産屋に売って約$164Mの現金を得て,同時に,12年間リースバックする契約を結んで,土地やビルなどは使い続けるというやり方です。リースですから,毎年,使用料を払うわけですが,$164Mを使ってリース料より高い利益を生み出せれば, 損益は改善します。また,売却に伴い($164Mを設備投資など資産を増やすのではなく,開発費などに廻せば)資産額は減少するので,同じ利益額でも資本の利用効率(ROE)は改善するというメリットがあります。

  AMDはコア資産以外は売却するAsset Light戦略を進めており,1998年にはSunnyvaleの本社キャンパスを売却してリースバック,2008年にはカナダのオンタリオのキャンパスを売却してリースバックに切り替えており,このやり方をオースチンにも適用したというわけです。また,ご存じのように,AMDは半導体ファブをGlobal Foundriesに売り渡しています。

 

  

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