最近の話題 2013年4月6日

1.Apple TVの新A5は28nmプロセスでは無かった

  2013年4月1日のEE Timesが,Apple TVに内蔵されているA5 SoCはプロセスシュリンクでは無かったと報じています。3月16日の話題で,A5プロセサの第二世代(A5_2)はSamsungの32nmプロセスを使い,チップサイズが8.19mm×8.6mmであったのに対して,今回のチップ(A5_3)は6mm×6mmと縮小されており,AppleはTSMCの28nmプロセスに切り替えたのではないかと書いたのですが,その後,Chipworks社がチップの解体調査を行い,Apple TVのA5_3チップもSamsungの32nmプロセスを使っていることが判明しました。

  チップサイズが小さくなっている理由は,A5_2では2コアであったCPUがA5_3では1コアとなり,コアあたりの2次キャッシュ量も半減している。また,GPUも半分になっているとのことで,これらの物量の削減でCPU+GPU部分の面積が18.9mm2から8.8mm2と半分以下に減っています。これだけでは24mm2のチップサイズの減少の半分弱しか説明できませんが,その他にも,CPU,GPU以外のディジタルのブロック数 が12から9に減少してます。一方,USB3インタフェースの数は1から2に増加しているとのことです。

  また,Chipworksの分析では,使用する半導体プロセスは32nmですが,アナログ混載用プロセスとなっているとのことです。

  A5_3でA5_2からプロセサのCPU,GPUのコア数を半減しチップサイズを小さくしたのはコストダウンのためですが,Apple TVはAppleのホビーとも言われ,現状ではコストダウンが大きく効くほどのボリュームはありません。また,Apple TVの機能では,USBのポート数を増やす必要性も理解できません。そして,アナログ混載プロセスの採用はチップコストを引き上げるので,コストダウンとは反対の動きで,A5_3は,最初にApple TVに使用されたものの,本当の開発目的は別の所にあるのではないかと推測されています。

  その候補と目されるのが,噂のiWatchです。iPad miniなどに使われたA5_2からCPU,GPUを半減しても,腕時計端末なら十分な性能を持つと考えられます。また,当然,iPad miniなどより安い価格と長い電池寿命が要求されるので,チップサイズを小さくする必要があります。

  この推測が正しいかどうかはA5_3を使うメインストリームの製品が出てくるまで分かりませんが,AppleがiPhone,iPadに続くメジャーな製品を考えていることは確かなようです。

2.ARMとTSMCが16nm FinFETプロセスを使うCortex-A57プロセサをテープアウト

  2013年4月2日にARM社はTSMCは共同で,TSMCの16nm FinFETプロセスを使うCortex-A57マルチコアプロセサをテープアウトしたと発表しました。

  ARMのArtisanフィジカルIP,TSMCのメモリマクロ,さらにTSMCのOpen Innovation PlatformのEDAツールを使い,RTLからテープアウトまで6か月で物理設計 を行ったとのことです。

3.初の1PFlops超えのスパコンRoadrunnerが退役

  2013年4月1日のHPC Wireが,2008年6月のTop500で,初めて1PFlopsを超えたLos Alamos国立研究所のRoadrunnerシステムが,3月31日をもって稼働を終了したと報じています。

  RoadrunnerはIBM製で,OpteronプロセサにCELLベースPowerXCell 8iを付けるという構成で,アクセラレータで演算性能をあげるスパコンの走りと言えます。

  RoadrunnerはASCスパコンで,核兵器関係の秘密の研究に使われたマシンで,どのような成果をあげたのかは公開されていませんが,責任者は「やろうと 意図していたものを正確に実現した」と評価を述べています。

  電力効率などを考えるとスパコンは5年程度が寿命で,RoadrunnerがTop500で1位となったのが2008年6月ですから,2013年3月の退役は妥当なところです。

4.TSVを使うチップの3Dスタックの実用化は2015年以降か?

  2013年4月2日のEE Timesが,TSVを使うチップの3Dスタックの実用化は2015年かそれ以降になるというGlobal Foundriesの発表を報じています。一方,Global Foundriesはシリコンインタポーザにチップを載せる2.5Dの開発を加速しており,2014年後半にも出荷可能とのことです。

  Global Foundriesは,昨年は,ニューヨークのFab 8にTSV用の装置を入れ,28nmと20nmプロセスのTSV 3Dチップスタックを2014年にも出荷と言っていたのですが,今回は3Dスタックは20nmプロセスからで,時期も2015年かそれ以降と後退しました。

  また,Texas InstrumentsとST Microelectronicsも28nmプロセスでWide IOメモリチップをプロセサにスタックする計画をキャンセルしたとのことで,3Dスタックの計画は遅れる傾向にあります。

  EE Timesの記事に掲載されているGlobal Foundriesのスライドでは,消費電力が1〜2Wの携帯電話のアプリケーションプロセサではWide IO2のメモリを40×40umグリッドのTSVで3Dスタックするのですが,消費電力が1〜5Wのタブレット向けではシリコンインタポーザを使う2.5D集積で,最小の接続ピッチは40×50um,あるいは80umと書かれています。そして,消費電力が20Wを超えるネットワークプロセサは2.5Dで,接続ピッチは1mmあるいは96×55umとなり,消費電力は20W+で同じですが,より接続ピン数の多いGPUは96×55umの千鳥配列となっています。

  やはり,消費電力の大きいプロセサは放熱の点でWide IOメモリを上に載せる3Dスタックは難しく,熱膨張のミスマッチの問題から接続ピッチも大きくする必要があるようです。 概ね,ピッチと接続部の高さは比例関係にあり,接続部の高さを増やすと,熱膨張の違いによる横ずれの許容量が増えます。

  また,3Dスタックのためにチップを薄く削って張り合わせるというプロセスは,高価なマシンを必要とし,かつ,歩留りも良くないという問題があり,まだまだ,コストが高く,携帯電話のようにコストが問題という用途に適用するのはかなり時間が掛るという意見もあります。

  一方,Wide IOメモリチップの3Dスタックと高電力のプロセサをシリコンインタポーザで繋ぐ2.5D集積は,技術的には3Dスタックより問題が少なく,2014年には少量の生産が可能とのことです。

5.シリコンチップベンダーのランキングでQualcommとBroadcomが躍進

  2013年4月3日のEE Timesが,Gartnerのシリコンチップベンダーの2012年の売り上げランキングを報じています。この対象は完成品のチップを売っている会社だけで,ファウンドリは含んでいません。

  Qualcommは売り上げを前年比31.8%伸ばし,2011年の6位から,2012年には3位に躍進しています。そして,Broadcomは売上を9.6%伸ばし,10位から9位に順位を上げました。業界全体では$299.9Bと前年比-2.5%と縮小する中で,Samsungも3.1%の売り上げ増で,3.1%減ったIntelとの差を 詰めました。

  ようするにスマホが伸びていて,その他の部門は振るわないという状況のようです。

6.2013年はタブレットが急増

  2013年4月4日のEE Timesが,Gartnerの2013年から2017年のPC,ウルトラモバイル,タブレット,携帯電話の出荷台数の予測を報じています。

  伝統的なPCの売り上げはかなり減っていくものの,これらの4カテゴリの端末の合計は2013年の22億1300万台から2017年のは29億6000万台と順調に伸びると予測しています。

  2012年と2013年を比較すると,タブレットが1.16億台から1.97億台と70%伸びるという予測です。ウルトラモバイルは比率では2.4倍と大きな伸びですが,絶対数は2013年で2360万台と小さな比率しか 占めていません。

  タブレットユーザの満足度は概して高く,PCは要らないという人が増えていることと,タブレットが比較的安価ということが高い伸びの理由と見られています。私もNexus 7を買いましたが,Webのデータを消費するだけなら,これで十分。画面のキーボードの使い勝手はよくありませんが,音声認識も結構使えるので,音声でキーワードを入れてGoogleで探せば目的のページも簡単に探せます。しかし,タブレッドで,このページを書いたり,原稿を書いたりすることは考えられません。情報を作り出す方の作業にはキーボード,マウスと大きなディスプレイが必要です。

7.IDCが2012年のスパコン市場は$11.1Bと調査結果を発表

  2013年3月21日のBusiness Wireが,IDCのスパコンの2012年の売り上げの調査結果を報じています。それによると,2012年のスパコン市場は2011年から7.7%成長し,$11.1Bとのことです。IDCの 事前の予想の7.1%を上回る成長で,日本の「京」を始めとして米国でも大規模システムが相次いで売れたことがこの上振れに貢献しています。

 規模別の内訳としては$50万以上の大規模スパコンが29.3%アップの$5.6B,部門向けと呼ばれる$25万以上$50万未満のシステムが2.2%ダウンの$1.2B,課や研究室 レベルで設置する$10万以上$25万未満のシステムが14.3%ダウンの$3.0B,$10万未満のシステムが1.2%アップの$1.24Bとなっています。

 IDCは,スパコンは年率7.1%の成長が続き,2015年には$14B市場になると予測しています。

 また,メーカー別の特記事項としては,「京」で$500M以上の売り上げを計上した富士通が,前年比470.5%アップ,大型システムの販売が続いたCrayが127.3%アップとのことです。

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