最近の話題 2013年4月13日

1.Oracleが富士通のSPARC M10サーバの販売を発表

  3月30日の話題で,OracleのT5とM5サーバの発表を紹介し, その中で,Oracleと富士通のサーバの相互供給は終わりかと書いたのですが,2013年4月8日にOracle富士通は,富士通のSPARC64 Xプロセサを使う M10サーバを世界中で販売すると発表しました。ただし,OracleのT5はSPARC T5という名称なのですが,富士通のサーバはFujitsu M10と言う名称になっており,扱いが違っています。また,OracleのT5とM5サーバを富士通が売るという話しは,現在までのところ発表されていません。

  富士通のSPARC64 XとOracleのT5プロセサは,どちらもTSMCの28nmプロセスで製造される16コアのプロセサです。T5のクロックは3.6GHz,一方,富士通のSPARC64 Xは最上位のM10-4Sでも3.0GHzです。また,T5は各コア8スレッドの同時実行ですが,SPARC64 Xは2スレッドです。LLCはT5は8MB,SPARC64 Xは24MBとなっています。 なお,OracleのM5はコアは6コアに抑え,LLCを48MB積み,最大32チップとなっています。

  OracleのTシリーズ(SunのNiagaraシリーズ)はクロックは低いが並列に実行するスレッドが多く,両者の積のスループットで勝つというプロセサだったのですが,T5のS3コアはOut-of-Order実行としてIPCを上げ,T5ではクロックも3.6GHzに上げてシングルスレッド性能を改善しています。

  一方,SPARC64は,当初からOut-of-Order実行を採用し,シングルスレッド性能 命のプロセサで,SPARC64 Xではクロックを3.0GHzまで引き上げてきています。

  シングルコア性能,チップ全体のスループットでは,両者の性能はどうなっているのでしょうか?コア数が同じでクロックが高いならT5の方が性能が高そうですが,Oracleが富士通のM10サーバを売るのは何故でしょうか?

  SPEC協会には,幾つかのSPECintRateの結果が登録されています。それによると,16チップ256コアのM10-4Sシステムで510コピーのSPECintを走らせたときのSPEcintRateは5620と登録されています。一方,8チップ128コアのT5-8システムで896コピーのSPECintを走らせた時のSPECintRateは3970となっています。

  8チップから16チップに増やした時にSPECintRateの値は2倍とはならず,飽和する傾向にあるのですが,T5の8チップの方がSPARC64 Xの16チップのスコアの半分よりかなり大きく,チップあたりのスループットではT5の方が多少,性能が高そうです。しかし,コピーあたりのスコアで見ると,SPARC64 Xの11.0に対して,T5は4.43とかなり差があります。T5のコアで2スレッドだけの実行にしたときにはスレッド当たりの性能が上がるのは確かですが,11まで行くかどうかは疑問です。

  ということで,断定的なことは言えないのですが,SPARCintRateの結果から行くと,性能は拮抗しているというところではないでしょうか。M10-4Sは64チップ,1024コアまで拡張できるとか,SPARC64 Xプロセサは10進浮動小数点演算をサポートし,データベースの性能を上げられるということあるのですが,全体的に見て,Oracleとしては,富士通のM10が無くてもそれほどは困らないのではないでしょうか。

  なぜ,Oracleは富士通のM10を売ることにし,富士通はOracleのT5,M5の販売をしないのでしょうか?まあ,T5,M5の評価やサポート体制が,まだ,出来ていないので,発表を遅らせただけかも知れませんが。  

2.HPが第二世代のMoonshotサーバを発表

  2013年4月8日にHPは第二世代のProject Moonshotのサーバを発表しました。Project Moonshotは低消費電力高密度のサーバを開発するプロジェクトで,CalexedaのARM SoCを搭載したRedstoneプロトタイプなどを作ってきています。ということで,これが第1世代で,今回の発表は第2世代という位置づけになっています。

  今回発表されたのはHP Moonshot 1500というシャシーとHP Proliant Moonshot Serverという製品で,Moonshot 1500は4.3Uという専用ラックが必要となる筐体で,これに奥行方向に3列,15枚のMoonshot Serverカートリッジ,あるいはストレージカートリッジやスイッチカートリッジが入るという構造になっています。

  元々,MoonshotではProcessor Agnosticを標榜していて,色々なプロセサが使えるというのが一つの設計思想になっており,今年の後半には,AMD,AMCC,Calxeda,TIなどのチップを搭載したサーバカートリッジを出す予定で,将来的にはGPUやFPGAを搭載した カートリッジも予定されているとのことですが,今回,発表されたのはIntelのAtom S1260を搭載するサーバカートリッジだけです。また,大容量のストレージカートリッジなども,まだ,発表されていません。

  S1260は2GHzクロックのデュアルコアプロセサで,これを45枚搭載すると,4.3Uに90コアで,1Uあたり20コアあまりという密度になります。このMoonshotサーバはGbEを8ポート内蔵しており,これを1500のカートリッジ列の間に搭載された2枚のEthernet Switchボードに4ポートづつ接続しています。そして,サーバは200GBのSSD,あるいは1TBのHDDを搭載しており,Web Hostingなどに最適化された製品という位置づけです。

  お値段は1500シャシーと45台のS1260サーバカートリッジで,$61,875よりとなっています。また,消費電力は850W程度という情報があります。そして,HPは,Moonshotは従来のx86システムと比較して,消費電力は最大89%減,スペースは最大80%減,コストは77%減と言っています。

  今回発表のCenterton Atomベースのサーバカートリッジでは使用されていませんが,1500シャーシは,このGbEの他に,3×15の2次元トーラスネットワークとディスクを繋ぐSAS,SATAネットワークをサポートしています。ということで,より高バンド幅でサーバカートリッジ間をつなぐ必要がでてきても大丈夫という構造になっています。

  各種のプロセサやGPU,FPGAを使うサーバカートリッジは,開発パートナと協力して開発を進めるとのことで,HPとしては製品の品ぞろえが早く揃い,パートナはHPの販売チャネルで製品が売れるというメリットがあります。なお,今回のサーバがWebホスティングを中心的な用途として最適化しているように,各製品はビッグデータ用途 とか,イメージ処理用とかそれぞれ異なる分野に最適化した作りにする予定で,相互には直接競争しないというやり方を取っています。

3.IntelがAvotonのサンプリングを発表

  Intelが北京でのIDFに先立ち,今回のMoonshotに使用されたContertonの次世代のサーバ用AtomチップであるAvotonをサンプリング中であると発表したと2013年4月8日のThe Inequirerが報じています。Avotonの出荷時期は今年後半とのことで,各社からのARMベースのサーバSoCの登場と同じような時期ですが,これらのARMチップはまだサンプリングに入ったという情報はないので,開発ステージとしては一歩先んじており,ARM勢を迎え撃つ構えです。

  Avotonは半導体プロセスが22nm TriGateになるだけではなく,従来のPentium 3ベースのコアから,新開発のSlivermontアーキテクチャのコアになるとのことです。また,AvotonではEthernetポートが内蔵されるようになるとのことでし。SilvermontはOut-of-Order実行と言われていますが,その他の詳細は明らかになっていません。TDPも発表されていませんが,Centertonの6Wを超えることはないと思われます。

  そして,HPは今年の後半にAvotonが出たら,Avotonベースのカートリッジを発売するとのことです。

  また2013年4月10日のThe InquirerがIDF北京でのAvotonを含む3種のAtomプロセサの発表を報じています。一つは,S12X9シリーズと呼ばれるストレージ用のSoCで,40レーン分のPCIe2.0のバンド幅を持ち,24レーンがRoot Portで,16レーンはアクティブ状態でのフェイルオーバが可能なNon Transparent Bridgeポートとなっています。

  S12X9は,Asynchronous DRAM Self-Refreshという機能をサポートし,停電に際してもリフレッシュを継続しDRAMのデータを守ることができるとのことです。また,Native Dual Castingと呼ぶ,2か所のメモリに同時に書き込みを行う機能をサポートしており,RAID 5/6構成の性能が20%向上するとのことです。

  もう一種はRangleyというコードネームの通信用の組み込みプロセサで,エントリーから中級のルーターやスイッチ向けの22nmプロセスのチップとのことです。22nmプロセスで2種のコアを設計する必要はないと思われるので,こちらもSilermontコアでしょうね。

4.IntelがHaswellベースのXeon E3のTDPは13Wと発表

  2013年4月10日のThe Inquirerが,22nm TriGateプロセスを使うHaswellベースのXeon E3プロセサでは,TDPが13Wという品種が含まれると発表したと報じています。

  前の話題のAvotonはサーバ用のSoCで,DRAMを付ければ最低限のサーバが出来るのですが,Xeon E3は周辺チップが必要なのでCPUのTDP以外にもかなり大きな電力を必要としますが,それでもXeonで13Wというのは立派なものです。

  また,Xeon E3では内蔵のグラフィックスユニットがOpenCL1.2をサポートすることが明らかとなりました。これまで,Intelは内蔵GPUを汎用の科学技術計算に は使用させていなかったのですが,やっとAMDのAPUのAPUに追いつくことになります。

  Xeon E3の発売時期は,今年中頃とのことで,コンシューマ向けのCoreブランドのHaswellの発売からそれほど遅れないとのもとです。なお,2ソケット構成のXeon E5の発売時期は3Qになるとのことです。

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