最近の話題 2013年7月6日

1.南加大がD-Waveの量子コンピュータは本物と発表

  2013年6月28日にUniversity of Southern CaliforniaはD-Waveの量子コンピュータが量子効果で動作していることを確認したと発表しました。

  USCは,2年前にD-Wave Oneを購入したロッキードマーチン社と共同研究を行うパートナで,D-wave Oneマシンを使って研究を行っています。このほど,8qubitを使った最適化問題を解くにあたり,Quantum Annealingでは説明がつくが,古典的なアニールでは説明ができない結果であることを確認したという論文が,Nature Communicationsに掲載されたと発表しました。

  D-Waveの量子コンピュータとQuantum Annealingについては,原理は東工大が考案という,6月20日のマイナビの記事を参照ください。

  量子コンピュータの最大の問題は,Qubit間のコヒーレンスが崩れてしまうことで,このため,多数のQubitを持つ量子コンピュータを作ることができません。これに対してD-Wave Oneは128Qubitのチップを搭載するマシンで,こんなに多数のQubitのコヒーレンスを維持できるわけは無く,古典的アニールで動作しているのではないかという批判が多くの研究者から出ています。

  今回の論文は8Qubitのコヒーレンスを確認したというもので,128Qubit(あるいは,このマシンで動作する108Qubit)でのコヒーレンスの維持を確認してはいませんが,それでもD-Waveのマシンが量子効果で動いているということを確認したといいうのは重要な成果です。

  しかし,8Qubitなら他の研究でも短い時間ならコヒーレンスを維持したという発表もあり,他では例の無い,数10Qubit以上で確認して欲しいところです。勘ぐれば,それが今回の発表ではできていないのは,それが容易では無いことをうかがわせます。

  なお,USCに設置されたマシンは128QubitのRainierチップを搭載していましたが,数ヶ月前に512QubitのVesuviusチップにアップグレートされたとのことです。これでロッキードマーチンのマシンはD-Wave Twoとなり,NASAとGoogleが導入するマシンと同じになります。でも,D-Wave Oneは数億円で,D-Wave Twoは15億円くらいということですが,ロッキードマーチンは差額を払ったのでしょうか?それとも,最初に買って宣伝効果もあげているので,実費+アルファ程度でアップグレードしたのでしょうか?

2.Green 500ではEurotechが1,2位を独占

  2013年6月28日にGreen 500が発表されました。1位はイタリアのCINECAのEuroraシステムで3.208GFlops/W,2位はSelex ESのAurora Tigonの3.18GFlops/Wで,どちらもXeon E5とNVIDIAのK20を使うEurotech社のAurora HPC 10-20システムです。Eurotechの水冷ヒートシンクとK20 GPUで消費電力を31kW程度に抑えることで1位,2位に輝いています。

  しかし,上位に上がっているシステムは小規模なものが多く,1MW以上の大規模システムは13位のLLNLのVulcan,14位のJUQEENなどBG/Qシステムです。BG/Qのシステムはどれも2.177GFlops/W程度です。

  国内のシステムでは,KEKのHIMAWARIとSAKURAが16位,17位ですが,これもBG/Qシステムです。

  その他の大規模システムとしてはCRAYのXK7システムで2.143GFlops/WのTitanが29位,Tianhe-2が1.902GFlops/Wで32位といったところです。

  20MWで1Exa Flopsの実現には50GFlops/Wが必要ですが,まだ,道は遠いという感じです。

3.Green Graph 500の小規模カテゴリは中央大学が圧勝

  最初のオフィシャルなGreen Graph 500リストが公開されました。Graph 500については先週の話題で紹介しましたが,Green Graph 500は,Graph 500にランクされたシステムを,エネルギー効率の順にランクするものです。

  Green Graph 500は大規模データのカテゴリと小規模データのカテゴリがあり,大規模のほうはScaleが31以上のシステムがランクされています。

  大規模データのカテゴリでは,5.41MTEPS/WでJUQEENが1位,4.42MTEPS/WでANLのMiraが2位,3.55MTEPSでLLNLのSequoiaが3位とBG/Qシステムが上位を占めています。

  小規模データのカテゴリでは,リストに含まれる15システムのうち8システムを中央大学が占めています。1位はTegra 3ベースのASUSのタブレットシステムで,性能は0.154GTEPSでGraph 500では132位ですが,エネルギー効率では64.12TEPS/Wで1位に輝いています。2位から5位も中央大学です。6位は中国のマシンですが,7位は中央大学のNEXUS 10システムです。

  そして,8位に東工大の油浸漬のマシンが入っています。性能は5.124GTEPSでGraph 500の76位,エネルギー効率は30.41MTEPS/Wです。

4.富士通セミコンがARMのbig.LITTLEのライセンスを取得

  富士通セミコンダクターは2013年7月2日にARMのbig.LITTLEとMali-T624 GOUを利用するライセンスを取得したと発表しました。

  幅広いコンシューマ機器や産業機器向けのSoCに適用するとのことです。

  富士通は,プリンタやディジカメ,そして車載の分野のマイクロコントローラでは実績があるのですが,このCortex-A15とA7のペアとMali-T624をどのような製品に使ってくるのでしょうね。

5.富士通が空いた半導体工場でレタスを作る

  2013年7月5日のTechOn!が,富士通グループが半導体工場を転用して低カリウム野菜を栽培すると報じています。  低カリウム野菜は,人工透析患者,慢性腎臓病患者など,カリウムの摂取制限によって普通の野菜を生では食べられない人向けに強い需要があるのだそうです。

  半導体の製造にカリウムイオンとかナトリウムイオンは大敵で,半導体工場のクリーンルームでは徹底的にこれらを取り除いています。富士通は半導体の生産はTSMCに外注して,生産からは撤退方向なので,クリーンルームが余ってきていると考えられます。

  富士通の子会社の富士通ホーム&オフィスサービスが中心となってコンソーシアムを作り,富士通ホーム&オフィスはプロジェクト管理,生産技術改善と販路開拓を担当し,富士通セミコンダクターが最適な製造条件の割り出しや雑菌管理のノウハウを提供し,富士通ファシリティーズエンジニアリングがインフラ環境整備と省エネ化を担当するとのことです。また,富士通の食・農クラウドAkisaiを用いて栽培データを継続的に監視,解析して生産や経営に役立てるとのことです。

  更に,会津富士加工が低カリウム化のノウハウを提供し,福島県立医大が臨床試験を担当するとのことです。

  低カリウム野菜を作るこの植物工場は2000m2で,低カリウム野菜の植物工場としては国内最大級だそうです。2013年10月から試作を開始し,2014年1月から量産出荷を予定しています。 具体的に作るのはレタスで,生産量は3500株/日だそうです。 低カリウムレタスは,1個400円くらいで,通常の路地ものに比べて3〜4倍の値段とのことです。これから単純計算すると,年間の売り上げは約5億円になります。

  昔,植物の成長に必要な栄養は,窒素,リン酸,カリと習った記憶がありますが,低カリウムでも野菜は育つんですね。

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