最近の話題 2013年12月14日

1.Qualcommが低価格スマホ用64bitARM SoCを発表

  2013年12月9日にQualcommは,Snapdragon 410 SoCを発表しました。Smapdrangonは200,400,600,800シリーズがあり,400シリーズは量産型の中級にスマホ向けのSoCです。これまでのSnapdragon 400はQualcomが開発したKraitコア2コア,あるいはARM Coretex-A7 4コアという32bitアーキのプロセサでしたが,今回の410は64bitアーキテクチャとのことです。ARMv8互換のチップとのことで,独自開発のコアと思われますが,何コアなのかについては発表では触れられていません。

  GPUはQualcommのAdreno 306を搭載して,1080pビデオ再生や13Mpixelカメラをサポートできます。

  Snapdragon 410は,中国を大きなターゲットにしており,4GLTEと3Gをサポートし,周波数帯も世界の殆どの地域のものをカバーするそうです。また,位置情報も米国のGPS,ロシアのGLONASSに加えて中国のBeiDou衛星システムをサポートしています。

  価格的には$150以下のスマホの向けと謳っており,2014年前半にサンプル,2104年後半に量産とのことです。

  世界的にはトップシェアのQualcommですが,中国や台湾のメーカーが低価格スマホ用のSoCで攻勢をかけてきており,この分野での強力な反撃が必要です。

2.ドイツの特許裁判所がMicrosoftのFAT特許は無効との判断

  2013年12月10日のThe Inquirerが,ドイツの連邦特許裁判所が,マイクロソフトのFAT(File Allocation Table)特許は無効と判断したと報じています。

  AndroidもFAT特許を使っており,Android端末は1台に付き約$8の特許使用料を払っているとのことで,2013年にはマイクロソフトは,この特許で$3.4Bを儲けたとのことで,この特許が無効になると大きなダメージです。

  当然,マイクロソフトは控訴するでしょうし,判決の確定には時間が掛かります。また,EUで無効になっても,それ以外の地域には裁判の効力は及びませんが,やはり,裁判の成り行きは注目されます。

3.一致検索を超高速化するMicronのAutomata

  SC13のEmerging Technologyのコーナーで,MicronがAutomataという新しい情報処理チップを展示していました。このAutomataについて2013年11月22日のHPC Wireが報じています。

  基本的に,入力に応じて状態遷移を行うオートマトンを作り,それぞれのオートマトンは特定の入力列が入ると,一致という状態になり,それ以外の入力列の場合は不一致という状態になるようにつくります。このようなオートマトンを探したい入力列の分だけ作れば,全部のサーチ対象に一致する入力列を並列に探すことができます。

  また,状態遷移の作り方により,完全一致でなく,多少の不一致を許容したマッチを行うことも可能です。Automataは,サーチ対象から状態遷移を作り出すコンパイラ相当のツールを開発しており,チップ自体にこの状態遷移を書き込むことができるようになっています。

  遺伝子のシーケンスのマッチングの問題で,通常のクラスタと比べて圧倒的に高速で消費電力も少ないという結果を報じています。ということで,HPC Wireの記事は,Automataに非常に高い評価を与えています。

  このようなオートマトンによる一致検索は九州大学の現在の総長である有川先生が1981年に提案しておられ,富士通は「瞬索」というサーチエンジンソフトを1995年から商品化しています。富士通はSyunsaku Engineという専用ハードも作っていますが,組み込み用のFR-V CPUを並べたもので,MicronのAutomataのようにハード的にオートマトンを作るものではありません。

  Automataチップと同じ機能はFPGAでも作れるはずで,コストや性能,消費電力でどの程度の優位性があるかということになるのではないかと思います。

4.空間処理用言語OpenSPL

  読者の方から,OpenSPLコンソーシアムという団体ができて,OpenSPLという仕様を策定しているようですが,取り上げて欲しいというメールを戴きました。

  OpenSPLのホームページに行くと,メンバーは,Shevron,CME group,JuniperとMaxelerとなっています。また,Imperial College London,Stanford,東大,清華大が研究グループのメンバーになっています。ホームページのメッセージはMichael Flynn先生が述べており,Flynn先生が主導して作った団体ではないかと思われます。

  Flynn先生はStanfordの教授で,Single Instruction Multiple DataなどSISD,SIMD,MIMDなどの用語を作ったことで有名です。Flynn先生はMaxelerの創立者の一人で,MaxelerはFPGAでカスタムのデータ処理装置を作っている会社です。これまで地震波を解析して石油の探査を行うデータ処理装置や,金融関係の専用データ処理装置などを作っています。メンバーのShevronは石油大手ですし,CME Groupは先物やオプション関係の金融市場を運営する会社です。

  Juniperはネットワーク機器の会社で,Maxelerと何かをやっているという話は聞いたことがありませんが,あっても不思議ではありません。

  OpenSPLのSPLはSpatial Programming Languageと頭文字をとったもので,通常のプログラムは時間軸方向に単位処理を順番に行うTemporalな処理ですが,それをそれそれの処理を空間的(Spatial)にそれぞれの処理ハードウェアで行い,ある処理結果と他の処理結果を第3の処理ハードウェアに空間的に繋いで,次の計算を行うというように処理すると高速で,高並列に処理ができるという考え方です。

  前項のMicronのAutomataも並列にマッチングを行う多数のユニットで空間的に処理を分散していますし,重力多体問題専用のGrapeも専用の処理ユニットを繋いだSpatialな処理と言えます。

  Maxelerは,顧客の要求を聞いて,問題を解くアルゴリズムやそれぞれの計算に必要な精度などを考え,それをFPGAにマッピングするということをやってきているのですが,これで蓄積したノウハウを基に,このプロセスをできるだけ自動化しようというのがOpenSPLではないかと思われます。

  ホームページのOpenSPLの仕様の第1版はメンバーしか読めないので,White Paperを見てみると,その中に簡単なOpenSPL記述の例が載っています。しかし,私の印象は,Verilogで書くのとあまり違わないのではないかというものでした。しかし,これは簡単な例で,本当は,もっと強力な記述ができ,それがコンパイラでFPGAにマッピングできるのかも知れません。OpenSPLの実力が分かるようになるのは,仕様の一般公開とコンパイラのリリースを待つ必要があります。

 

 

  

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