最近の話題 2014 年1月11日

1.IntelのKnights Landingの詳細は?

  2014年1月2日のReal World Technologiesが,Intelの次世代Xeon PhiであるKnights Landing(KNL)に関するリーク情報や噂を総合して,その詳細を推測した記事を載せています。David Kanter氏の記事ですから,技術的に非常に詳細です。興味のある方は元の記事を見てください。

  ワイドSIMDの演算器を搭載した小型のx86コアを多数集積するチップという基本は変わらないのですが,KNLのコアは第2世代AtomのSilvermontコアをベースにAVX-512の演算器を2セット搭載したものであるとのことです。そしてKNLは,このコアを72個搭載し,1.4GHz程度のクロックで動作するとしています。チップ全体で,32Flop×1.4GHz×72コア=3.2256TFlopsは,競合するNVIDIAのロードマップから見ても妥当な数字です。

  現在のKnights Corner(KNC)は2階層のリングバスで64コアを繋いでいますが,もう,スケールアップの余裕は無く,KNLではメッシュによる接続になるとしています。2コアと256KB〜1MBのL2キャッシュを1つのモジュールとして,36モジュールをメッシュで接続します。Intelは実験チップでは2次元メッシュを使っており,これは十分にありそうです。

  そして16GBのeDRAMによるオンパッケージのキャッシュと6チャネルのDDR4メモリコントローラを持つとのことです。eDRAMでKNCを超えるバンド幅を確保し,DDR4を使うことによりメモリ容量を確保するというXboxOneと同じ設計思想です。

  問題は外部接続で,これはQPIと予想しています。QPIであればキャッシュコヒーレントな接続ができ,CPUと共通のメモリ空間を実現し,複数のKNLチップをキャッシュコヒーレントに接続できます。また,システムのインタコネクトとして,Crayから買収したAriesネットワークを組み込むことも考えられるとしています。

  冒頭にあるように,これらは最新とは限らないIntelからのリーク情報と噂に基づくもので,Intelからの発表は8月のHot Chipsか11月のSCを待たなければならないとDavidは書いています。IntelのHot Chipsでの発表は,どこかで発表されたものを技術的に詳しくというのが,このところ通例で,多分,11月のSCで発表するのではないかと思われます。

2.NVIDIAがTegraK1を発表

  CESに合わせてNVIDIAはTegra 4に続く,モバイル用のTegra K1 SoCを発表しました。2014年1月7日1月8日のPC Watchの後藤さんの記事が一番詳しく報じています。

  Loganのコード名で開発されてきた次世代モバイルSoCのTegra K1は,CPUとしてARM Cortex-A15を4コア搭載するバージョンと,NVIDIAが開発したARMv8準拠のDenverを2コア搭載するバージョンがあります。GPUはどちらのバージョンでもGK104系KeplerのSMX 1コアを搭載しています。A15 4コア版は今年前半,Dever版は今年後半の予定です。

  Cortex-A15 4コアの方は1個のBattery-Saverコアが付いていて,Tegra 3/4同様に,負荷が非常に低い状態ではCortex-A15を止めて,Battery-Saverコアを使うのでしょう。NVIDIAは,このところチップのダイ写真を発表せず,偽物の配置イメージを出すので本当のところは分かりませんが,Battery-Saverコアは ,かなり小さく描かれています。とするとA7という感じですが,後藤さんの記事ではローパワーのA15と書かれています。A15とするとキャッシュを減らしたとしても,ここまで小さくなるとは思われません。役にも立たない図を公表するのは止めてもらいたいものです。

  CPUがCortex-A15というのはTegra 4と同じですが,Tegra 4は28HPLプロセスであるのに対して,Tegra K1は28HPMとモバイルに最適化されたプロセスを使っており,最大2.3GHzとクロックが向上し,アクティブ電力も減っている。また,A15コアもRev 3となりパフォーマンスが5〜10%向上しているとのことである。また,物理設計でも前回の経験を生かして改良した結果,Tegra 4に比べて,同じ電力ではSPECint2000で1.4倍の性能。同一性能なら電力は45%に減少している。

  Denverコアについては情報が少ないが,クロックは2.5GHz以上で7wayのスーパスカラ,128KBのL1命令キャッシュと64KBのL1データキャッシュを持つといいう。7wayと言っても7命令を連続発行できるのではなく,処理パイプが7本ということであろうと思われます。

 TegraのGPUは,これまでは1世代古いアーキテクチャのものが搭載されていたのですが,今回はKeplerで,最新のGPUが搭載されました。ソフト開発のプラットフォームが多いと開発の手間が掛かりますから,新製品のGPUはKeplerアーキに統一するのは当然です。

  Tegra K1はGK104系のSMX 1コアですが,192FMA演算器を持ち,950MHzクロックで384GFlops(単精度)の性能を持っています。これは,Tegra 4の144GFlopsの2.7倍で,前世代のゲーム機のPS3やXbox360のGPU性能を上回るとのことです。GK110系のSMXのように,倍精度浮動小数点専用の演算器を持っていないので,倍精度の演算性能は単精度の1/24と低く,Tegraを並べてスパコンを作ろうとしているヨーロッパのMont Blancプロジェクトの関係者はがっかりかもしれません。

  ハイエンドのKepler GPUは250W程度の消費電力で,これはGDDR5メモリの電力も含んでいるので,GPUチップの電力は半分の125Wとしても1個のSMXは9W程度の消費電力と思われます。これをどうやって携帯SoCの電力枠に収めるかが問題です。

  後藤さんの記事のNVIDIAの説明では,メモリインタフェースなどを除いた,2SMXのGT 740Mのコア部分の消費電力は16Wで,そのうちの6Wはリーク電力とのことです。リーが少ない28HPMプロセスの採用でリーク電力を減らし,電源電圧を1.1Vから0.9Vに下げて,更に省電力技術を取り入れて2W以下のレンジに収めたとのことです。

  また,Keplerの上位チップは15SMXを搭載し,15SMXとメモリの間を繋ぐ強力なクロスバを持ち,この部分の消費電力が大きかったのですが,Tegra K1は1SMXしかないので,この部分に1コア用のファブリックを新設計して電力を削減しています。

  結果として,フルにパフォーマンスを生かす場合(それが何を指すかは不明)の平均電力は5Wと書かれています。

  2014年1月10日のThe Inquirerは内部の事情に詳しい人からの情報として,MicrosoftがSurface 3に採用すると報じています。しかし,この分野はシェア1位のQualcomm,アジアの低価格品でシェアを伸ばすMediaTekなど強力なライバルが多いので,なかなか大変です。

3.中国が暗号解読用の量子コンピュータの研究に注力

  2014年1月10日のThe Registerが,South China Morning Post紙の報道を引いて,昨2013年に中国は量子コンピュータ関連の90のプロジェクトに資金をつぎ込み,量子コンピュータを開発しようとしているとのことです。暗号解読の政治的,軍事的メリットは絶大で,コストがいくら掛かるかは問題ではないとのことです。

  中国の急速な技術的発展から,欧米の中国人科学者が帰国してきており,欧米に追いつくのを助け,将来的には追い越す可能性もあると見ています。安徽省合肥市の物理科学研究所に45Teslaの強力な磁界を作る実験設備を建設し,Qubit間の距離を伸ばす研究を行っているとのことです。長い距離でコヒーレンスを保つことができるようになれば,より多くのQubitを もつマシンが作れるようになります。

  何時ごろの完成を目指しているのかは書かれていませんが,暗号の解読が可能になると,世界が変わってしまいます。暗号を使っている外交や軍事機密の通信もそうですが,まず,ビットコインが価値が無くなり,暴落するのではないかと思います。

4.IBMがWatsonの商用化に$1Bを投資

  2014年1月10日のThe Registerが,IBMのWatsonの商用化戦略について報じています。クイズ番組のJeopardy!で人間のグランドチャンピオンを破って一躍名をあげたWatsonは ,医療分野での実用化が進められていますが,現実には収益に結びついていません。

  IBMのロメッティーCEOは10年間で$10Bの収入という目標を掲げ,$1Bを投じて,専任のチームを立ち上げるとのことです。Watsonの自然言語理解やデータを検索して結論を導くシステムはすばらしいのですが,各分野で要求される知識を入力し,高い確率で正しい結論が出せるようにするのは容易ではないようです。

  しかし,プロセッサの能力は今後も向上して行きますし,いつかは医者の問診に基づく診断や,判例を検索しての弁護士への戦術のアドバイス,投資コンサルタントなどの仕事ができるようになるのではないかと思います。これらの職業の人間とどう折り合いをつけるのかは大きな問題ですが, 産業革命以来,人の仕事が機械に移るのは必然の流れです。タイムスパンは開発の進捗によりますが,いずれは大きなビジネスになると思います。

  

 

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