最近の話題 2014 年5月31日

1.フランスのAtos SEがBullの買収を発表

  2014年5月26日に,フランスの情報テクノロジ会社であるAtos SEが,フランスのスパコンなどのメーカーであるBullの買収を発表しました。Atos SEは,コンサルティングやシステムインテグレーションなどを行っている会社で,2013年の売上は86億ユーロとのことです。一方,Bullはヨーロッパ第1のHPCメーカーで,Top500 20位のCurieや24位の六ヶ所村にあるHeliosを始め,Top500に14システムをランクインさせており,2013年度の売り上げは12.6億ユーロです。

  このAtosが,Bullの株を,最近3か月の平均市場価格に30%のプレミアムを付けて買い取るという発表をしました。全ての株を買ったとすると,総額は620Mユーロとのことです。これで51%以上の株が集まれば,Bullを傘下において,最終的には統合するとのことです。

  AtosとBullの両方の取締役会は賛成で,24.2%を持つ大株主も売るとのことで,成功する可能性は高いと思われます。

  Atosの技術とBullの技術は補完性が高く,クラウド,サイバーセキュリティー,ビッグデータの分野でグローバルリーダーになるという目論見です。Bullとしてもソフト力と資本力の大きいAtosと一緒になるのは望ましいと思われます。これで,ヨーロッパのスパコンの強化のはずみになると良いのですが。

2.NECが東北大などからSX-ACEスパコンを受注

  2014年5月29日にNECは,東北大,大阪大,国立環境研究所から,それぞれSX-ACEを受注したと発表しました。SX-ACEは,昨年11月のSC13で初展示されたSXシリーズスパコンの最新機種で,ノードコアあたり64GFlopsで,チップに4コアを集積し,256GB/sのメモリバンド幅を持っています。ラックあたり16TFlops,16TB/sという性能です。これにスカラ部のFP性能を加えると,17.664TFlopsとなります。ラックあたり前世代のSX-9と比較して消費電力1/10,設置面積1/101/5とのことです。

  東北大のシステムは40ラック,2560ノードで,ピーク演算性能は706TFlopsで,今年10月に稼働の予定です。大阪大のシステムは24ラック,1536ノードで,ピーク演算性能は432TFlopsで,今年12月稼働となっています。国立環境研究所のシステムは,昨年,第1段階として導入したSX-9のシステムを期中アップグレードするもので,来年6月にSX-ACE 384ノード(6ラック)となる予定です。

  東北大,大阪大ともにNECスパコンの牙城ですが,例えば,筑波大が1PFlops超のスパコンを2台持つという状況で,706TFlopsは見劣りします。もちろん,演算性能じゃないよ,メモリバンド幅が効くという主張はあるのでしょうが,それを証明するにはSX-ACEならではという成果が出てくる必要があります。

3.京スパコンのTofuインタコネクトが恩賜発明賞を受賞

  2014年5月29日に富士通は,京スパコンで開発したTofuインタコネクトの発明が平成26年度の恩賜発明賞を受賞したと発表しました。受賞者は,次世代テクニカルコンピューティング開発本部 シニアアーキテクトの安島 雄一郎氏,同本部のマネージャーの井上 智宏氏,同本部の平本 新哉氏の3名です。安島さん,井上さん,おめでとう御座います。

  発明協会のホームページによると,全国発明表彰は,大正8年の第1回帝国発明表彰にはじまり,文部科学省,、経済産業省,特許庁,日本経済団体連合会,日本商工会議所,日本弁理士会,朝日新聞社の後援により優れた発明を完成した者,実施化に尽力した者,発明の指導・奨励・育成に貢献した者を顕彰することにより発明の奨励・育成を図り,我が国科学技術の向上と産業の振興に寄与することを目的としています。
  特に,皇室の発明奨励に対する特別の思召により毎年御下賜金を拝受し,最も優れた発明の完成者に恩賜発明賞を贈呈しています。とのことです。

4.メモリ階層の将来像

  2014年5月26日のPCWatchに,後藤さんが「多様化でDRAMが変わる,メモリ階層が変わる」と題する記事を書いておられます。興味深い記事なので,まだ,読まれていない方には,ご一読をお勧めします。

  紹介されているSamsungのスライドでは,現在のDDR DRAMとHDDという2階層が,それぞれ2分化され,DRAMは高バンド幅の層と大容量の層,HDDは高性能のインテリジェントなFlashの層とHDDに分かれて行き,更に将来は,大容量のDRAMとFlashの高性能側の層が合体して,性能の高い不揮発性記憶の層となり,HDDとFlashの大容量側がFlashだけの層に統合されるという絵になっています。

  これはDRAMやFlashメーカーのSamsungにとって非常に都合の良い絵ですが,このようになるには,現実には,まだ,色々と問題がありそうです。

  最上位のHBMのようなTSVを使うスタック型のDRAMは,私も必須だと思います。消費電力を抑えて高バンド幅を実現するにはTSVでDRAMチップ間をつなぎ,CPUとはシリコンインタポーザなどで接続して,配線を短くし,寄生容量を減らすことが必須だからです。心配材料はコストです。DRAMチップを薄く研磨して,TSVを作り,積層するには手間が掛かりますし,その過程で不良品も出てくるので,どうしても高くなります。

  現状では単価が10倍という話を聞いたこともあります。これの下がり具合が普及の速度を決めるのではないかと思います。また,単価が高いとすると,DRAM層が高性能と大容量に2分化するのは当然です。

  DRAMとHDDのアクセス速度,バンド幅のギャップは大きいので,中間にNAND Flashを使うSSDを入れるという使い方は増えてきています。

  ここまでは良いのですが,大容量DRAM層と高性能Flash層を合体して,高性能の不揮発性記憶層とし,HDDを無くして大容量のFlash層にしてしまうという,Samsungの第3ステップは,より困難があります。

 メインメモリが高性能の不揮発記憶となると,省電力などの点でもメリットが大きいのですが,現状のNAND Flashは書き込み速度が非常に遅く,エネルギーも大きいという問題があります。DRAMの場合はキャッシュライン単位で書き換えても32バイト程度の書き込みですが,Flashの場合は,書き込みを行う数100KB程度のブロックを読み出し,書き込みデータをマージしてブロック単位で空きブロックに書き込み,古いブロックを消去する必要があるため,時間もエネルギーも掛かります。また,書き込み回数の制限という問題もあります。このため,無視できない程度の書き込みがあるメインメモリにNAND Flashを使うのは難しいと思われます。この辺もあって,Samsungの図でも,この層はFlashとは書かれていません。

  ReRAMなどのランダムアクセスができる不揮発性記憶素子が実用化されれば良いのですが,なかなか本格的な商品は出てきておらず,NAND Flashに変わる素子の実用化は見通せません。

  NAND Flashの読み出しは書き込みに比べると速いものの,DRAMほどではありませんし,誤り訂正に使われるLDPCなどはデコードにも時間が掛かります。結局,なかを見ると大容量のDRAMキャッシュが入っているという構造になりかねません。

  そして,ストレージの領域で,NANDがHDDを駆逐できるかどうかはコストに掛かっています。現状では,NANDとHDDのビット密度の改善のペースはほぼ同じで,ビットコスト10倍という状態が続いています。もちろん,スマホやタブレットのストレージはFlashですし,小型のノートPCもSSDだけでHDDを搭載しないものが出てきていますが,より大容量を必要とする分野では,10対1のコストの違いを乗り越えるのは容易ではありません。

  また,高バンド幅DRAM層と大容量メインメモリ層の位置づけですが,後藤さんは,IntelのCrystalwellのeDRAMキャッシュのためにCPUチップに大容量のTagRAMの集積が必要になっていることを挙げて,帯域の異なるメインメモリとなり,ソフトで意識して使う方向と予想されています。

  これは,或る意味,CPUのメインメモリとGPUのメモリがあるというのと似たようになり,ソフト開発の負担が増します。また,高速メモリを意識しないで書かれている大部分のソフトでは,高速メモリのメリットを享受できません。NVIDIAがCUDA6でUnified Memoryをサポートしたり,AMDがHSAをサポートしてメモリを一体化するために苦労しているのを見ると,同じアドレス空間で性能の違うメモリというのは,ユーザの受けは良くないと思います。かつてのSGIのccNUMAがローカルとリモートのメモリアクセス時間に5倍以上の違いがあり,使いにくいという評判であったことを思い出します。

  それから,この後藤さんの記事で興味深かったのはHynixのDRAM Cellのキャパシタのトレンドのスライドで,IEDM2010の発表が原典なので3年あまり前のものですが,20nm世代のDRAMのキャパシタはアスペクトレシオが100で絶縁層の厚みが〜3オングストロームというところで,これは原子1個分の膜厚なので,これ以上薄くはできません。アスペクトレシオ100は超高煙突も顔負けののっぽですから,これも改善の余地は大きくないと思われます。

5.Seagateが$450Mで元のLSIのFlashビジネスを買収

  記憶階層の話が出てきたついでといっては何ですが,2014年5月29日のThe Registerが,HDD大手のSeageteが,Avago Technologiesから,元のLSI社のFlashビジネスユニットを$450Mで買収すると報じています。

  昨年12月にAvago TechnologiesはLSIを$6.6Bで買収したのですが,その中のFlash関係のAccelerated Solutions事業部とFlash Component事業部を切り出して,Seagateに売るというものです。LSIはPCIe接続のFlashカードでは,FusonIOについで業界2位とのことで,Seagateは2015年度の売上に$150M寄与すると見込んでいます。

  もう一方のHDD大手のWestern Digitalは,既に何社ものFlash会社を買収しており,HDD大手は,Flashストレージの内部化,HDDとの一体化にまい進しているようです。

6.Intelと中国のRockchipがタブレットSocを協業で開発

  2014年5月27日のEE Timesが,Intelと中国のRochchipがタブレット用SoCの開発で協業すると報じています。Rockchipは,低価格のスマホ用SoCなどでAllwinnerと並ぶ大手の一つです。

  これまでRockchipは,ARMコアとMaliグラフィックスIPなどを組み合わせたSoCを作っているのですが,今回はAtomコアを使い,Intelから提供される3G通信のIPを組み合わせてタブレット用SoCを開発するとのことです。このチップは4コアで2015年6月までには量産を開始するという予定だそうです。

  Rockchipは2013年には約40M個のSoCを出荷したとのことで,Intelは,Rockchipと組むことで,このカストマベースにアクセスできるようになります。将来的にはIntelのファブを使うことは考えられていると思われますが,この最初の製品は,RockchipのIPが載っているTSMCの28nmプロセスで設計,製造されるとのことです。

  IntelはInfineonから買収したグループが開発するARMコアベースのSoFIAというSoCを持っており,今回のようなチップは自社でも開発できる筈ですが,年間40M個の市場と,Rockchipの低価格チップのノウハウには魅力があったと思われます。

@1243898


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