最近の話題 2014年7月5日

1.ISCAでのHPがMemristorの発表

  松岡先生のTwitterでRTされていたOGAWA, TadashiさんのTweetで,6月のISCAでのHPのMemristorの発表の発表スライドのリンクがあることを知りました。6月14日の話題で紹介したようにMemristorには興味があったので。早速ダウンロードして見てみました。

  Memristor素子の構造は金属配線層の間に薄いMemristor絶縁膜を挟むという構造で,極めてシンプルです。この絶縁物が,ある程度以上の電圧を掛けると,高抵抗の状態から低抵抗の状態にスイッチし,これで情報を記憶します。ここまでは,既に発表されていますが,今回の発表では,DRAMなどのようにパストランジスタを使わず,X方向のワード線とY方向のビット線と交点のMemristorという構造を検討していることが明らかにされました。本当の4F2記憶素子で,アスペクトレシオが100などというお化け煙突のようなキャパシタも不要で,シンプルに見えます。

  しかし,パストランジスタが無いので,交点のセルを読み出す場合は,ワード線をVdd,ビット線をGNDにして電流を読みます。そして選択しないワード線とビット線は0.5Vddとして置きます。ワード線もビット線も選択されていないセルは,両側が0.5Vddなので,電流は流れません。しかし,選択されたビット線と非選択のワード線の間につながっているセルにも0.5Vddの電圧がかかり,セルが低抵抗であれば,ある程度の電流が流れます。

  低抵抗の状態でも電圧-電流特性は非線形で,0.5Vddでの電流はVddでの電流の半分よりもかなり小さいとのことですが,非選択のワード線はたくさんありますから,アレイのワード線の数が多くなると検出がむつかしくなります。

  というようなことで,アレイのサイズをどのように選べば良いかなどを論じている論文なのですが,このような基礎的とも言えるトレードオフを論じる論文の発表と,6月14日の話題で紹介した来年にはMemristorのサンプル出荷で,2016年にはDIMMの発売は,HPの内部情報は知りませんが,ちょっと無理があるような気がします。勿論,Memristorを使うサーバなどのコアデバイスの発売は2019年の予定なので,まだ,時間があるわけですが,私としては,裏付けが不十分な,ちょっと大胆な発表という気がします。

2.Crossbar社がResistive RAMを発表

  2014年6月30日に,スタートアップのCrossbar社はResistive RAMを発表し,同時に1MBのアレイのデモを行いました。

  構造は前記のHPのMemristorと同じで,X,Yの2層の配線の交点にResistive RAMセルとなる物質を挟んでいます。Crossbar社のセルは,印可された電界で,金属ナノパーティクルが整列して導電性のフィラメントができることで状態を記憶します。書き込み回数は100万回,記憶時間は20年となっています。

  この書き込みは3V程度の電圧で良く,100nsかそれ以下の時間だそうです。White Paperでは,書き込みエネルギーは64pJ/cellとなっています。

  セルサイズは5nm角が可能とのことで,微細化,書き込み回数などの点で,NAND Flashを上回り,次世代の不揮発メモリという位置づけです。また,NAND Flashのようにブロック消去,ブロック書き込みでなく,DRAMのように1ビット単位で読み書きができるというのも優れた点です。

  しかし,100万回の書き込み回数や100nsクラスの読み出し時間では,HPがMemristorで目指す,DRAMの代わりにはなりません。また,64pJという書き込みエネルギーも頻繁に書き込みを行う用途には厳しそうです。

  Crossbarは,RRAMをCMOSチップの上に4層作り,実効的にF2の密度のメモリを作っています。今回,デモしたサンプルは1MBですが,NAND Flashと同等かそれ以上の容量の素子が作れるとのことです。

  メモリアレイの構造は,1TnRと書かれており,1個のトランジスタで,n=2000程度のセルを制御すると書かれています。具体的な説明はありませんが,Memristorの回路と同じようなものではないかと思われます。Whte Paperに載っているセルの電圧-電流特性を見ると,VとV/2の電圧で100万倍くらいの電流比がとれているので,V/2のセルが2000個程度あっても問題はなさそうです。

3.Green500で東工大のTSUBAME-KFCが連続1位を獲得

  2014年6月30日にGreen500が発表され,東工大のTSUBAME-KFCが,前回に続いて1位に輝きました。おめでとうございます。

  今回のスコアは4,389.82MFlops/Wで,消費電力は34.58kWとなっています。前回のスコアは4503.17MFlops/Wで,消費電力は27.78kWだったので,消費電力が25%近く増え,MFlops/Wは2.5%ほど低下しています。

  不思議だったので,松岡先生に質問してみると,電力が増えたのは,TSUBAME3.0に向けての研究のためにSSDをかなり増設したことと,前回よりも電源電圧を高めにして,確実にTop500に入れるスコアを狙ったためとのことでした。今回はTop500の最下位のスコアもあまり上がらなかったので,結果論ですが,そこまでは必要なかったとのことです。

  また,TSUBAME2.5のスコアも,前回とはちょっと違っているのですが,こちらは,Dongarra先生から,HPLの誤差が大きいという指摘があり,調査したところメモリエラーが原因で,ECCオンにして測定したところOKになったのですが,多少,スコアが下がったとのことです。

  東工大は,このGreen500だけでなく,京スパコンを使ったGraph500でも1位を獲得し,2冠です。予算が1桁違うので,Top500での1位は無理ですが,それでも14位ですから,世界的に見ても最強のチームです。

4.天河2号も大変そう

  7月初めから本格運用に入った中国が誇るTop500 1位の天河2号ですが,2014年6月30日のSouth China Morning Postが潜在ユーザはあまり感心していないと報じています。

  その第1の理由は1日の電気代が40万元〜60万元(66万円〜99万円)掛かり,最終的にはユーザの負担になるので,使用料が大変というものですが,これは最初から分かっていた話で,今更,持ち出されてもという感じもします。また,演算あたりの電気代は,これまでのスパコンより減っている筈です。

  より本質的なのは,これまでの投資がハードに偏っていたために,ソフトが無く,ユーザが自分で書かなければ使えないという点です。これまで,鉄道の設計,地震シミュレーション,天体物理,遺伝子研究に使われていますが,これまでのクライアントは120チームで,能力の34%しか使われていないとのことです。ということで,Top500では1位なのですが,その有効性は,米国や日本のスパコンに大きく劣ると評価しています。

  なお,天河2号はIntelのXeonとXeon Phiを使っており,こられのチップの輸入の条件として軍事利用は禁じられています。

5.EZchipがTileraを買収

  2014年7月1日のEE Timesが,イスラエルのEZchipが,アレイのマルチコアプロセサを開発販売しているTileraを買収すると報じています。Tileraは,MITのAgarwal教授の研究成果を商品化するために作った会社で,小規模コアをアレイ状に並べて,メッシュネットワークで接続する製品を販売しています。最大,100コアの製品があり,市販のプロセサとしては最大のコア数です。Linuxが動く,汎用のコアですが,サーバとしては非力で,コア数が生きる通信向けが主要な顧客と見られます。

  EZchipはイスラエルの通信向けのチップを作っている会社で,最高性能のNPS400は400Gbpsのデータをワイヤスピードで処理できるデータプレーンのネットワークプロセサで,下位の製品を含めてデータプレーンのネットワークプロセサのラインアップを持っています。2013年の売り上げは$70Mといったところです。

  買収額は最大$130Mで,当初,$50Mを現金で払いますが,将来のマイルストーンの達成度に応じて,最大$80Mを払うという条件だそうです。EZchipは,2013年末で$50Mの現金を持ち,現金を含むTotal Current Assetは$210Mと財務的には余裕がありそうです。

  ネットワークプロセサは,データプレーンとコントロールプレーンの機能が集積される方向に動いており,EZchipはデータプレーンには強いもののコントロールプレーン用のプログラマブルなプロセサを持っておらず,この点でTileraの買収は補完的です。また,TileraはCISCOやBrocadeと言った大手のネットワーク装置メーカーを顧客に持っており,これらの顧客に製品を売り込めるようになるのも魅力という見方があります。



  

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