最近の話題 2014年9月20日

1.東工大の松岡教授がSydney Fernbach賞の受賞者に決定

  2014年9月18日のHPCWireが,東工大の松岡 聡教授が,2014年のSydney Fernbach賞の受賞者に決定したと報じています。

  この賞はHPCのパイオニアのSydney Fernbach氏を記念する賞で,革新的なアプローチでHPCの進歩に大きな功績のあった人に贈られるもので,スパコン業界では,Cray賞と並ぶ大きな賞です。Cray賞は,元NECの渡辺 貞氏と元富士通の三浦 謙一氏が受賞して居られますが,日本人のSydney Fernbach賞の受賞は初めてです。

  なお,今年のSeymour Cray賞の受賞者はGordon Bell氏だそうです。今年の受賞者の講演は,どちらも面白そうです。

  今回は,受賞者に決まったという発表で,実際の授与は,11月にニューオルリーンズで開催されるSC 14の表彰式で行われます。

2.日立がSR24000シリーズスパコンを発表

  2014年9月16日に日立はSR24000シリーズスパコンの販売開始を発表しました。高密度実装で大規模システム向けのXP1は2Uのシャシーに3.42GHzクロックのPOWER8を20コア搭載するXP1と,単体性能を重視する3.52GHzクロックのPOWER8を4Uシャシーに24コア搭載するXP2モデルがあります。

  POWER8プロセサの搭載とノードあたりのメモリバンド幅を2.8倍となる384GB/sに向上したことなどから,従来モデルと比べて1.6倍の性能とのことです。

  XP1,XP2のピーク演算性能は,それぞれ5427.2GFlopsと675.84GFlopsとなっています。最大構成は,どちらも512ノードで,最大構成のピーク演算性能は280TFlopsと346TFlopsとなっています。冷却は空冷で,水冷のリアドアオプションが選べます。
 
  出荷は12月1日からで,11月のSC14で展示するとのことです。

  XP1とXP2はクロックが3%くらいしか違わず,性能的には別モデルにする必然性はあまり感じられません。しかし,POWER8チップは12コア搭載なので,XP2は完全良品のチップを2個使用し,XP1は2コア不良(あるいは単なるスペア)の10コアチップを2個使用と思われ,不良コアのあるチップの使い道も用意しておく必要があるというのは理解できます。しかし,クロックが3%とコア数が20%アップで,サイズが2Uから4Uへ倍増する理由はよくわかりません。

 
3.NVIDIAがGM204 GPUを使うGeForce GTX 980とGTX 970を発表

  2014年9月18日にNVIDIAはハイエンドのグルフィックスカードであるGeForce GTX980とGTX 970を発表しました。その技術的内容は2014年9月19日のPC Watchの後藤さんの記事が詳しいので,そちらを引いて内容を紹介します。

  チップはGM204で,先週の話題で紹介したように,20nmプロセスではなく,28nmプロセスが使われています。トランジスタ数は5.2Bでチップサイズは398mm2とのことです。先ごろ発表のGM107は148mm2ですから2倍強のサイズです。

  SMの数は16個で,各SMには128CUDAコアが含まれているので,2048CUDAコアでベースクロックは1126MHz,ブース時は1216MHzまで上がります。そして,ベースクロックでの単精度演算性能は4612GFlopsとなります。

  メモリは7GT/sのGDDR5で,256bit幅となっており,224GB/sのピークバンド幅となります。そして,消費電力は165Wとのことです。

  シェアードメモリがKeplerの1.5倍の96KBとなり,L2$も2MBとKeplerの最上位のGK110の1.536MBを上回っています。

  SMの演算部はGM107から変わっていないようですが,グラフィックス専用ハード機能はかなり強化されており,前後のフレーム間でアンチエーリアシングを行うMulti-Frame Sampled AAや4K解像度の絵をディスプレイに解像度に合わせてスケールするDymnamic Super Resolution,間接光の表現に適したVoxel Global Illumination,Virtual Realityの表現をサポートするVR SLI,Asynchronous Warp,Auto Stereoなどをサポートしています。

  GTX980/970グラフィックスカードは各社から発売され,GTX 980は$549,GTX 970は$329からスタートするとのことです。  


4.iPhone6はTSMC製のA8 SoCを搭載

  2014年9月20日のEE TimesがAppleのiPhone6の解体調査結果を報じています。それによると,SoCはTSMC製のA8 APL1011でクロックは1.38GHzとのことです。これにElpida製の1GBのLPDDR3が付いています。

 LTEモデムはQualcommのMDM9625M,SkyworksのLow Band LTE PAD,TriQuintのパワーアンプを使っています。WiFiのモジュールはムラタ,FlashはHynix,6軸のジャイロと加速度計はInvenSense製とのことです。

5.PEZYの1024コアプロセサ(続編)

  2014年9月17日のマイナビ9月6日の話題で紹介したPEZYの1024コアプロセサの詳細に関する記事を載せています。と言っても,PEZYの齊藤社長にインタビューして,私が書いた記事ですが。

  このプロセサを開発したPEZY社は従業員16名で,エンジニアは社長も含めて12名という少なさです。牧野先生の公開日誌では,IBMのWatson社長がCrayの研究所をみたら建物の管理人まで含めて34人で,なんでIBMはこんなに人が要るのかといったという故事を引いて,この人数だから革新的なプロセサができたと書いておられますが,正しい一面があると思います。

  アクセラレータ部分は,Out-of-Orderの面倒な制御や割り込みはないし,1024コアといっても4コアのVillage,4VillageのCity,16cityのPrefectureの各レベルにキャッシュ,上位の構造へのインタフェースを付ければできることになります。そして,SRAMやPCI Express,DRAMコントローラなどのIPは専業メーカーから購入すれば,純粋な設計量はそれほど多くはなりません。ですから,プロセサといってもテストの塊みたいなIntelのハイエンドXeonとは全く異なるプロセサで,優秀なエンジニアがいれば少人数でも作れます。

  それは兎も角,2コアのペアごとに2KBのL1D$を持ち,これを2つ集めて2KB のL1I$を持つVillageとなります。これが最低構成単位で,4つのVillageでCityを構成します。Cityは64KBのL2D$と32KBのL2I$を持っています。そして16cityがPrefectureを構成しPrefectureは2MBのL3D$と128KBのL3I$を持っています。


  この4つのPrefectureと8個のDRAMコントローラ,2つのPCI Express 3.0 x8コントローラを接続しています。合計1024コアで,733MHzクロックで動作し,FMAで1クロックあたり2DP演算を行うので,チップ全体では倍精度で1.5TFlopsのピーク演算性能を持っています。

  製造プロセスはTSMCの28HPMで,チップサイズは21mm×19.6mmとなっています。かなり大きなチップですが,各コアは0.3mm2程度と小さなコアとなっています。

  CPUとの接続はx8のPCI Express 3.0 2チャネルで行われ,PLX社のPCIスイッチを使い,1個のCPUに最大4個のPEZY-SCチップを接続できるボードを開発しています。

 また,同社は16FFや将来のプロセスを使って,2048コア,4096コアのプロセサを開発して行くとのことです。

6.OracleのLarry Ellison氏がCEOを辞任

  2014年9月19日のThe Inrquirerなどが,OracleのLarry Ellison氏のCEO辞任を報じています。

  Oracleを創業し,巨大企業に育てたカリスマ経営者で,Steve Jobs氏が亡くなり,Bill Gates氏も経営の第一線を退き,Ellison氏も70歳になり,CEO辞任と時代の変化を感じさせられます。

  後任のCEOはSafra Catz氏とMrak Hurd氏がco CEOとなり,Catz氏は財務や法務,製造を担当し,Hurd氏は営業,サービスとVirtical Industry Global Businessを担当するとのことです。そして,Ellison氏もCEOを辞めてリタイアするわけではなく,CTOとしてソフトとハードのエンジニアリングの責任を持ち,会長を兼任するとのことで,経営スタイルには大きな変化はないのかも知れません。

7.IBMがWatson Analyticsの30日無償トライアルを発表

  2014年9月14日のThe Inquirerが,IBMがWatson Analyticsの30日間無償提供を開始すると報じています。自然言語で質問すると,ビジネス上の色々な質問に応えてくれるとのことで,経営会議にアドバイザーが加わったような効果があるとのことです。

  そう言われても,にわかには信じられませんから,30日の無償使用で,役に立つかどうかを判断してもらおうというのでしょう。

  本当に役に立つとすれば凄いことで,Watsonを使っている会社と,そうでない会社では業績に差が出るというような世界になっていくのでしょうか?

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