最近の話題 2014年10月18日

1.富士通のPost FX10が遅延で,JAEAに罰金3億円を支払い

  2014年10月16日のIT Proが,2015年1月期限のJAEA(日本原子力機構)へのPost FX10スパコンの納入が遅延するため,JAEAとの契約は解除となり,本来の費用の30億円の1割の3億円を違約金として支払うと報じています。

  遅延の理由は,「製造上の問題で Post-FX10向けプロセッサの歩留まりを向上できず,必要な量のチップの製造が間に合わなくなったため」(富士通広報)とのことです。既に問題解決の目途はついているが,1月の納期は間に合わないので契約に基づいて解約ということになったとのことです。

  JAEAは,再入札を行う考えとのことです。また,同じPost FX10を導入するJAXA(宇宙航空研究開発機構)は2014年4月と2016年4月の2段階の調達で,現時点では計画に変更はないとのことです。

  同じTSMCの20nmプロセスを使うAppleのiPhone6は量産できているので,TSMCの20nmが全くダメということはないのでしょうが,マクロなどで歩留まりを落とすような設計が含まれていて,それが設計ルールで禁止されていないなどの問題があったのではないかと推測されます。

  但し,10月16日の牧野先生の公開日誌には「イールドのせいにしとる」と書かれており,真相は違うのかも。

2.Appleが新SoC A8Xを使用するタブレットを発表

  2014年10月16日のEE TimesなどがAppleのiPad air 2,iPad Mini 3,iMac,Apple Miniという次世代タブレットやPCの発表を報じています。

  タブレットは新開発のA8X SoCを使っています。A8Xは3B Trを集積し,A8と比較してCPU性能は1.4倍,GPU性能は2.5倍とのことです。そして,新iPadはM8 Motion Processorを搭載しています。また,802.11acをMIMOサポート付で搭載し,最大866Mbit/sの通信速度だそうです。さらに,150Mbit/sのLTEも搭載しています。

  Air 2は,A8X SoCに内蔵のイメージプロセサで,8Mpixelのカメラで1080pビデオをサポートしています。

  iMacは5120×2880の5Kディスプレイが売りです。CPUは,3.5GHzクロックの4コアi7プロセサを使い,GPUはRadion R9 M290Xを使っています。

3.ExaScalerが浸漬液冷装置を発表

  2014年10月15日のHPCwire Japanがエクサスケーラ社の液浸型冷却システムの発表を報じています。

  液浸は,現在,TSUBAME-KFCで採用されている合成オイルを使用するタイプと,香港のビットコイン採掘センターのASICMINERで採用されたフッ化炭素のNOVECを使うものが販売されています。合成オイルは安いのですが,油がなかなか切れないので,保守が面倒という問題があります。一方,ASICMINERの使っているタイプは気化熱で熱を運ぶので効率は高いのですが,蒸気を逃がさないように密閉型にする必要があり,これも保守が面倒です。

  これに対して,ExaScaler社のシステムは,完全開放型で保守がやり易く,合成オイルのように液体の切れに時間と手間が掛かるという問題もないとのことで,フッ化炭素系の冷媒を使っていると考えられます。

  今回発表されたのはESLC-8(ExaScaler Submersion Liquid Cooling-8)と呼ぶ,1Uサーバを8台収容するタイプで,2台の室外機を使って16kWまで冷却できるとのことです。1Uあたり2kWですから,空冷の場合の数倍の電力密度を扱えます。

  ExaScaler社は,より大型のESLC-16,ESLC-32の製品化も予定しており,HPC市場とデータセンター市場向けに事業展開する計画とのことです。

  この発表には書かれていないのですが,2014年10月15日の牧野先生の公開日誌には,ExaScaler社は,1024コアのPEZY-SCを発表したPEZYの関連会社であると書かれています。

4.Washington大とLockheed-Martinが経済的な核融合炉を発表

  2014年10月10日のEE Timesが,Washington大のDynomacと呼ぶ新しい構造の核融合炉について報じています。ロシアで開催されるInternational Atomic Energy Agency’s Fusion Energy Conferenceで論文発表が行われるとのことです。

  ITERのように高価な超電導のトロイダルコイルを必要としないので,サイズが小さくでき,1/10のコストで建設できるとのことです。現在のHIT-SI3と呼ぶプロトタイプは3つのトーラスからプラズマの閉じ込めと安定化を行う電流を注入するもので,この次はHIT-SIXと呼ぶ6トーラス版を作って,Dynomacの本番レベルのプラズマ温度での閉じ込めを実現する計画です。

  Dynomaは73MWの入力でギガWの出力が得られるとのことで,ITERと比べると格段に効率が高いとのことです。

  もう一つは,2014年10月15日にLockheed Martinが発表したCompact Fusion Reactorです。ITERなどと比較すると1/10のサイズで実現でき,大型のトレーラトラックに載せられるとのことです。つまり,空母や原潜の動力として使えるわけです。

  Lockheed Martinの発表では,構造などは分からなかったのですが,2014年10月15日のAviation Weekが,Exclusiveで開発者から聞いたという話を報じています。どんな構造かは,この記事の図を見て戴くしかないのですが,強いて言えば,2粒の豆のはいった殻つきの落花生といった感じで,豆の部分に超電導コイルがあるのですが,これが殻に相当する部分にも電流を誘起して,両方でプラズマを閉じ込めるようです。

  ITERでは磁力線の圧力の5%くらいの圧力のプラズマしか閉じ込められないが,このCFRの構造は磁力線と同じ圧力のプラズマを閉じ込められるので,小型にできるとのことです。また,ITERと同じサイズなら10倍の出力が得られるそうです。

  但し,現状はイオンの閉じ込めに成功した段階で,次にプラズマの閉じ込めに挑むとのことで,プロトタイプの完成までには5段階くらいの主要な技術開発が必要で,各段階を1年という超スピードで実現したとして5年,実用化には,更に5年が必要とのことです。

  トカマクで決まりかと思っていたのですが,色々とアイデアはあるのですね。

  核融合は,DutoriumとTritiumの核融合の際に出る中性子をブランケットという周りを囲む物質に吸収させて熱に変換してエネルギーを取り出します。その際,中性子が当たることにより,放射性同位元素が生成されますが,半減期が短いので10年〜100年貯蔵すればOKで,何万年もかかる核分裂原子炉の廃棄物に比べると,扱いやすく,廃棄物の量もずっと少ないとのことです。


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