最近の話題 2014年11月15日

1.米国のCORALスパコンはIBMが担当

  2014年11月14日のEE Timesが,米国の次期フラグシップスパコンであるCORALはIBMが担当することに決まったと報じています。エネルギー省は,Collaboration of Oak Ridge,Argonne,and Livermoreスパコンの開発者としてIBMを選択したとのことです。

  Oak RidgeとLawrence LivermoreはIBMのData Centricアーキテクチャのスパコンを採用します。Oak Ridgeの新Summit,Livermoreの新Sierraシステムは100PFlopsを超える性能のスパコンで,2017年に完成の予定です。Argonneのスパコンは異なるアーキテクチャで,どのようなものかは公表されていません。この3システム全体では400PFlopsを超えるとのことです。

  データ移動に必要な電力が大きな比率を占めるようになってきており,Data Centricアーキテクチャはデータを計算資源のところに運ぶのではなく,計算資源をストレージやネットワークなどの処理が必要な場所に配置してデータの移動を減らし,ひいては消費電力を減らすとのことです。

  演算処理についてはNVIDIA,インタコネクトについてはMellanoxを協力するとのことで,これまでのIBMスパコンとは異なる作り方になるようです。NVIDIAはVolta GPUをNVLINKでPOWER CPUに接続すると書かれています。

2.PEZY/ExaScalerが6月のGreen500 1位を超える性能を発表

  先週の話題で紹介したExaScaler-1スパコンですが,11月14日に,ExaScalerとPEZYは性能向上を発表しました。

  それによると,先週の153.7TFlopsに対して,HPL性能は191.0TFlopsに向上し,Green500のランキング指標であるGFlops/Wでは4.45GFlops/Wを達成したとのことです。6月のGreen500の1位は東工大のTSUBAME-KFCで,スコアは4.39TFlops/Wであったのを僅かに上回る結果となっています。

  また,先週,395TFlopsのピークに対して153.7TFlopsでは,ピーク性能比率が38.9%と低いと書いたのですが,実は,395GFlopsはPEZY-SCを定格の733MHzで動かしたときの性能値ですが,今回の測定では660MHzで動かしており,ピーク性能は357.3TFlopsでの測定の結果だそうです。191/357.3=53.5%で,TSUBAME-KFCの69.7%には及びませんが,まあまあの値です。

  来週,SC14で発表されるGreen500では,より性能/電力の高いシステムが出てくる可能性があり,1位になるとは限りませんが,かなり良いところまでは行きそうです。

  また,Green500にランキングされるためには,Top500の500位と同等かそれ以上のHPL性能でなければなりませんが,191TFlopsであれば,まあ,大丈夫と思われます。一方,TSUBAME-KFCは6月のデータでは151.8TFlopsであり,このままでは,11月のTop500にランクインできない恐れがあります。何等かの強化が行われていると思われますが,その結果がどうなるかは興味のあるところです。

3.Mellanoxが100Gbpsのアダプタの出荷の準備中

  2014年11月13日のThe Registerが,Mellanoxが100Gbpsのx4 EDR Infinibandのアダプタの出荷を準備中で,来週のSC14でデモを行うと報じています。現在,発売されているのはx4で56GbpsのFDRという規格の製品ですが,EDRが発売されると,ネットワークのバンド幅がほぼ倍増します。

  ConnectX-4 VPIアダプタは2ポートのEDR x4ポートを持ち,Ethernetポートして使うこともできるようになっています。そして,8mまではファイバーでなく銅線で接続できるとのことで,コスト的にも有利です。

  Mellanoxによると,1000ノードの場合,ファイバを使う場合と比べると,投資は$42万少なくて済み,消費電力も2.5kW少なくできるとのことです。

  なお,このアダプタのサンプル出荷は2015年1Qの予定とのことです。

4.チューリング賞の賞金を4倍の$1Mに増額

  2014年11月14日のThe Inquirerが,チューリング賞の賞金が4倍の$1Mに増額されると報じています。Alan Turingは万能コンピュータTuringマシンを考案し,計算アルゴリズムという概念を作り上げたコンピュータ分野の巨人です。

  Turingは米国での研究の後,2次大戦の開戦から,英国に戻り,Bletchley Parkでドイツ軍のEnigma暗号の解読に従事しました。Turng Bombと呼ばれる電気機械式の解読専用コンピュータを考案し,ドイツ軍の暗号の解読を行い,最大4年間,対独戦争の終結を早めたと見られています。

  なお,Turing Bombが行うのは,アルファベットの出現確率などから,暗号文を平文に戻すところまでですが,ドイツ軍の通信は,人名,地名などはコードネーム,日時や作戦行動なども言い換えられており,Turing Bombの出力の平文は普通の人が見てもまったく意味の分からない文章で,暗号解読の専門家が意味の分かる文章に翻訳していました。

  このように重要な業績を上げたのですが,暗号解読は極秘の仕事で,広く知られることは無く,また,当時違法であったゲイであったことで有罪となり,41歳という若さで自殺という悲劇的な結末となり,その業績は十分に評価されていませんでした。

  この度,Turingの伝記映画 Imitation Gameが公開され,その業績が広く一般の目に触れるようになりました。

  Turingの業績を記念するチューリング賞は,コンピュータサイエンスの分野では最高の賞の一つで,GoogleとIntelが折半して$250Kの賞金を授与していたのですが,チューリングを顕彰するため,賞金を4倍の$1Mに増額し,Googleが全額負担することになるとのことです。なお,受賞者は,毎年,米国の学会であるACM(Association of Computing Machinery)が選定しています。残念ならが,これまでに日本人の受賞はありません。

  ノーベル賞の賞金の800Mクローナは,今年のレートでは約1億2000万円で,チューリング賞の$1Mは1億1500万円程度なので,賞金額ではノーベル賞と並ぶことになります。



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