最近の話題 2015年1月17日

1.米国気象庁がスパコンの能力を10倍に増強

  2015年1月5日のNextGovが,米国の気象予報を行うNational Weather Serviceのスパコンを運用するNOAA(National Oceanic and Atomospheric Administrationは,IBMと$44.5Mに上るスパコンの更新契約を結んだと報じています。今年10月の完成時点では,NWSの計算能力は5PFlopsとなり,現在の10倍の能力となるとのことです。

  IBMはiDataplexなどのx86ベースのスパコンビジネスはLenovoに売却してしまったので,新規納入するシステムはCRAYから購入し,IBMは保守を担当するとのことです。

  2014年11月の報告では,NOAAの気象衛星と予報のシステムがハックされ,背後には中国政府がいると見られる事から,議会や政府はLenovoが新システムに関与することを非常に警戒しており,GAO(Goverment Accountability Office)の監査官がLenovoの関与がないことを監視するとのことです。

  既設のBG/Qの保守なども含まれているようですが,何で,CRAY直接じゃなくてIBMから買うのでしょうね。

2.NVIDIAがTegra X1を発表

  2015年1月4日にNVIDIAは,CESにおいて,Tegra SoCの新製品のTegra X1を発表しました。

  Tegra X1は,64bit ARM v8アーキテクチャの4個のA57コアと4個のA53コアと,Maxwellアーキテクチャの256CUDAコアのGPUを集積するモバイルSoCで,最大1TFlopsの演算能力をもっています。この性能は,画像認識などに威力を発揮するので,車載用途にも適しています。ということで,NVIDIAは,同時に自動運転をサポートするNVIDIA DRIVEを発表しています。

  Tegra X1に関しては,1月14日のPC Watchの後藤さんの記事が詳しく,こちらを参照して戴ければよいので,要点だけを書いておきます。

  製造プロセスはTSMCの20nmプロセスで,プロセサは高性能のA57コアと低電力のA53コアが4個づつですが,ペアのどちらか一方だけを使うbig.LITTLEではないとのことで,よりフレキシブルに使えるようになっているようです。

  GPUはTegra K1ではKeplerであったのが,X1では最新のMaxwell GPUに変わり,CUDAコア数ではK1の192コアから256コアに増強されています。CUDAコアは16bitのFP16をサポートしているのですが,K1ではFP32と同じ性能であったのですが,X1ではFP32の2倍の性能となりました。この結果,256コアで1TFlopsという計算になっています。画像認識など,FP16で済む計算も多くあるとのことで有効な機能とのことです。ただし,FP16は32bitのレジスタにパックして格納されるので,このペアはSIMD的に扱うことになり,SIMT的に演算することはできず,FP16をサポートできる命令は限られるとのことです。

  また,K1では192コアのSMX 1個であったのに対して,X1では128コアのSMが2個となったので,SMあたり128KBのL2$が,X1のチップあたりでは256KBと倍増しています。

  メモリはLPDDR4で,メモリバンド幅は,K1の14.9GB/sから25.6GB/sに向上しています。

  そして,X1搭載のビデオエンジンは4KのH.265 ,VP9形式のストリームを60fpsで処理することができます。

3.CESでAMDがCarrizoをデモ

  2015年1月8日のEE Timesが CESにおけるAMDのCarrizoの発表を報じています。Carrizoは,Excavatorと呼ぶ新x86コアを使うハイエンドチップと低消費電力系のPumaコアを使うCarrizo-Lの2種類のチップがあり,これらのCPUとVolcanic Island系のGPU,Southbridgeなどを集積したチップとなっています。

 しかし,CESでは,プロセサコア数,チップサイズなどは発表されず,殆ど情報はありません。追加の情報は2月22日から開催されるISSCCでの発表を待つしかありません。

 CESでのデモはグラフィックに関するものが中心で,Carrizoでは
5〜6%の性能を割くことで4Kのビデオストリームのデコードができることが示されました。一方,Carrizo-Lの製品レンジでは4Kのビデオのデコードは必要が低いとの見通しであるので,この機能は搭載されていないとのことです。

 消費電力は,Carrizoは10〜35W程度,Carrizo-Lは最大で25W程度とのことです。

 また,Carrizo,Carrizo-LともにARMコアを搭載し,TrustZoneをサポートしています。


4.IBMがz13メインフレームを発売

 2015年1月13日のEE Timesが,IBMの新メインフレームz13について報じています。z13は22nmプロセスを使う8コアのプロセサチップを使い,クロックは5GHzとなっています。シングルスレッド性能が命のメインフレームは,各種のマイクロアーキの改善でシングルスレッド性能を高め,更にクロックも業界最高の5GHzにクランクアップしています。しかし,消費電力は前世代と同じとのことです。

 また,大量のデータを扱うメインフレームですから,接続できるメモリは10TBとなっています。

 そして,各コアはデュアルスレッドをサポートしており,デュアルスレッド化で30%以上のスループット向上が得られているとのことです。また,z13は128bit幅の浮動小数点レジスタを32本持ち,SIMD演算で計算処理の性能を上げています。また,暗号処理の性能も2倍に引き上げられています。

 これまでのIBMのメインフレームは,MCMを使っていますが新メインフレームz13は,よりモジュラーになってシングルチップが増えMCMの数は減少したと報じられています。

 最大141個のプロセサを持つシステムの中で,共通メモリのシングルシステムイメージを保つという点で,物理的な距離などが大きく異なる環境で,アクセス時間などの一様性を実現するのに苦労したとメインフレーム部門のCTOのJeff Frey氏は述べています。

 また,z13は320チャネルのI/Oを持ち,この部分に640個のPowerPCプロセサが使われているそうです。

 なお,2月のISSCCのプロセサのセッションでは,このz13のプロセサが最初の発表で,Carrizoが最後の発表です。参加者を開始から終了まで足止めするために,最初と最後に注目の論文を持ってくるというのが,主催者側の伝統的な作戦です。 

5.TSMCの16nm FinFETは遅延か

  2015年1月14日のWCCF Techが,TSMCの16nm FinFETの量産は3〜6か月遅延かと報じています。1月13日のDigitimesは,QualcommがTSMCで始める予定であった16FFプロセスを使うSnapdragon 810のリスク量産を中止すると報じています。Samsungの方の歩留まりが大幅に改善したことが理由とのことで,Samsungに切り替えるようです。

  WCCF TECHによると,TSMCは量産の開始時期を,従来のQ1から6〜7月と3か月あまり遅らせたとのことです。

6.Tesla MotorsのElon Musk氏が$10MをFuture Life Instituteに寄付

  2015年1月15日のThe Inquirerが,Tesla MotorsのCEOのElon Musk氏がFuture Life Instituteに$10Mを寄付したと報じています。Musk氏は,PayPalの前身となる企業を創業し,ロケットを開発するSpaceXを創業した起業家で,Tesla Motorsに投資してCEOとして活躍しています。同氏は,人類の将来についても危惧を抱いており,折に触れて,人工知能ができ,それが人間を超えるレベルに発達すると,人類の取って代わってしまうという危険性を指摘しています。

  そして,このような危険を避けるための研究を行うべきであるとのアピールを行っています。

  そのため,MITのMax Tegmark教授が率いる
Future Life Instituteに$10Mを寄付するというものです。Future Life Instituteは,人工知能を人類にとって役に立つようにするための研究を行っている団体で,Hawking博士や,宇宙膨張の発見でノーベル賞を受賞したSaul Perlmutter博士,そしてElon Musk氏もScientific Advisory Boardとして参加しています。

  有名な未来学者のRay Kurzweil氏は,人類は脳のコプロセサとして人工知能を取り込んで能力を増して行き,人口知能と共存するという未来を述べています。しかし,自動的にこのような未来が実現するとは限らず,どのようにして共存するかを研究することは重要だと思います。

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