最近の話題 2015年4月25日

1.David KanterがIntelの10nmはQuantum Wellトランジスタと予測

  2015年4月21日にアナリストのDavid KanterがReal world technologiesにIntelの10nmプロセスでは,Quantum Well FETを使うという予測を書いています。Intelは10年くらい前からQWFETの研究論文を発表していますが,当初は使い物になるかどうかわからない研究でしたが,最近では完成度が高まってきており,特許の出願も行われているとのことです。

 Quantum Wellは,電子やホールを非常に薄い層に閉じ込めて2次元の電子ガスやホールガスの状態にすると,キャリアの状態が飛び飛びのエネルギー状態に限定されるようになるというもので,キャリア層の不純物を減らせることと相まって,非常に高い移動度が得られます。これはHEMT(High Electron Mobility Transistor)として超高周波の増幅器などでは以前から実用化されています。なお,HEMTは富士通研の三村氏の発明で,日本発の技術です。

 Davidのページには,2009年のIEDMでIntelが発表したプレナーのQWFETの図と2011年のIEDMで発表したQW FinFETの図が載っています。原典に当たっていないのですが,2011年のFinFETの方は,どこに2次元電子ガスができるのか私には理解できません。

  いずれにしても,このページでDavidは,FinFETになって,Vddを0.7V程度まで下げて低電力化することができたが,更に電源電圧を下げるには,QWFETにする必要がある。QWFETにすれば0.5Vまで電源電圧を下げられ,この電源電圧でも高いトランジスタ性能を実現できると書いています。

  N-TrはInGaAsなどのV-X族化合物,P-TrはStrained Geあるいは,
V-X族化合物がチャネルに使われると予想しています。

  そして,Intelの研究の進捗から見て,7nm世代を待たず,10nm世代でQWFETを取り入れてくると予想しています。一方,TSMCやSamsungはすぐには追従できず,周回遅れで7nm世代となると予想しています。


  なお,David Kanterは,この業界では技術的に一番すぐれたアナリストだと思います。

2.ARMのCortex-A72の詳細

  2015年4月24日のPC WatchマイナビがARMの新ハイエンドのCortex-A72の詳細を報じています。現在のハイエンドのCortex-A57は28nmプロセスですが,A72は14/16nmのFinFETプロセスをターゲットとした設計になっています。

 しかしプロセスの微細化だけではなく,A72は同じプロセスでも性能が高く,チップサイズも小さくなっているとのことです。マイナビの図では,A15を1.0としてA57の性能は2.6倍,A72の性能は3.5倍とかかれています。といことはA57と比べて35%の性能アップという計算になります。この図ではA57のクロックは2.3GHzでA72は2.5GHzに上がっていますので,同一クロックで見たマイクロアーキ的な性能は約24%アップとなります。

 また,サイクルあたりの性能比較のグラフがあり,Analyticsでは1.16倍,Cryptでは1.38,Memoryでは1.50倍,Floating Pointでは1.26倍,Integer Computeでは1.16倍となっています。ただし,これらはシミュレーションの結果で,実物は,まだ,できていないようです。

 A72は3命令デコード,8本のパイプラインのO-o-Oマシンという点ではA57と同じですが,分岐予測機構の改良,TLBのタグの付け方の改善,Early IC の採用によI$のアクセス電力の削減,イシューされた3命令を5μ命令にクラックしてディスパッチすることによりパイプラインの利用効率の改善,ポートの共用によるレジスタファイルのポート数の削減など多くのマイクロアーキの改善が盛り込まれています。

 実行パイプラインはシンプル命令用が2本,分岐が1本,乗除算などが1本,SIMD/FPUが2本,ロードとストアが各1本の合計8本ですが,FMULのレーテンシが5→3サイクル,FADDは4→3,Radix16のFP Divが新設され2倍の速度と演算器の性能が改善されています。FMACは9→6となっていますが,FMULとFADDを直列につないでいる構造は変わっていないようです。

 ロードストアユニットではL1とL2を一体化してプリフェッチを行うように変更されました。

 このCPUコアは,TSMCの16FF+プロセスで作ると1.15mm2で出来るとのことです。

 また,Accelerator Coherency Portも大幅に作り直されたとのことですが,なにが良くなったのかは書かれていません。

3.AMDがSeaMicroの高密度サーバビジネスから撤退

  2015年4月16日のThe Registerが,AMDのCFODivender Kumar氏が,SeaMicroブランドの高密度サーバビジネスから即時撤退すると述べたと報じています。

  2012年に$334Mを投じて買収したのですが,売り上げが前年同期から26.3%ダウンし,$180M赤字のAMDとしては,メインストリームでない(多分)赤字のビジネスは整理せざるを得ないところでしょう。

  なお,CEOのLisa Su氏は,SeaMicroのfabricのテクノロジは保持すると述べています。


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