最近の話題 2015年6月13日

1.HPがThe MachineのロードマップからMemristorを除外

 2015年6月11日のHPC Wireが,HPがThe MachineのロードマップからMemristorを除外したと報じています。

 The Machineは,各種の専用プロセサ群と巨大容量,高速の不揮発性メモリを光リンクで結ぶというハードウェアアーキテクチャを持ちます。メインメモリがSSDを兼ねるので,バイト単位でストレージにアクセスできるなど,ファイルシステムが簡単になり,性能が上がるとのことです。また,専用プロセサは汎用プロセサに比べて大幅に高い性能を持つことから,処理性能も大幅に改善されるとのことで,このようなハードウェアに最適化されたOSの開発と相まって,大量データ処理時代の新たなコンピュータアーキテクチャであると言っています。

 このアーキテクチャは高速のNVRAMを構成するMemristorの実用化に大きく依存すると思うのですが,New York Timesの記者のインタビューにおいて,HPのEVPでCTOであるMartin Fink氏が,「Memristorに依存しすぎていた。既存のテクノロジで実現する努力を行っている」と述べたとのことです。具体的には,プロトタイプでは大容量の共通メモリとしてはDRAMを使い,将来は相変化メモリなどの不揮発メモリで置き換えるというアプローチです。

 ただし,Memristorを完全に諦めたわけではなく,5年後に実用化されていれば使うとのことです。

 HP Labは全力を挙げてMemristorの実用化に取り組んできたのですが,経済的に量産するレベルには,まだ,持って行けていないようです。

2.金融関係のベンチマークでPOWER8がXoenを圧倒

 2015年6月9日のHPC Wireが,金融シミュレーションのベンチマークであるSTAC-A2で,Power8 2ソケットのサーバが,Xeon 2ソケットのサーバの2.3倍の性能を達成したと報じています。この発表を行ったのは,5月23日の話題で,NVIDIAからIBMに移ったと紹介したSumit Gupta氏です。

 デリバティブなどの商品の値動きやリスクを分析する方法としては,ブラックショールズ 方程式が有名ですが,これは古典で,現在はもっと複雑なモデルが使われており,計算量が多くなっているとのことです。そして,この複雑な計算を速く実行で きるシステムが求められます。そして,このようなシミュレーションを実行する場合のコンピュータの性能を測定する目的で開発されたベンチマークが STAC-A2です。

 12コア,3.52GHzクロックのPower8を2ソケット搭載するサーバと,18コア,2.3GHzクロックのXeon E5-2699 v3を2ソケットのサーバのSTAC-A2ベンチマークでの比較では,Power8サーバがXeonサーバの2.3倍の性能を達成したとのことです。E5-2699 v3 2ソケットにXeon Phi 7120Aを1台追加したシステムと比較しても1.7倍速いとのことです。

 Gupta氏は,Power8がXeonより速いのは,3.52GHzとクロックが速く,ソケットあたり192GB/sという大きなメモリバンド幅を持つこと,コアあたり8MBと大量のL3$を持っていることなどが効いていると述べています。

 しかし,Xeon Phiではなく,NVIDIAのK80を付けたシステムと比べると,10%程度負けているそうです。

3.CaviumがMIPSコアを最大48コアを集積するSoCを発表

  2015年6月11日のThe RegisterがCaviumの最大48コアを集積するOCTEON III CN7XXX SoCの発表を報じています。Caviumは通信用のコントロールプレーンのプロセに強いメーカーで,OCTEON IIIは4G/LTEなどの100Gbps以上の速度の通信をワンチップで処理できるとのことです。OCTEON IIIは,現在のOCTEON IIに比べると4倍の性能とのことです。

  メモリは4チャネルのDDR3/4をサポートし,IOは500Gbpsを超える性能で,40G,10G,GBなどのSERDESを搭載しています。そして,OCTEON Coherent Interconnectと呼ぶ,複数チップをキャッシュコヒーレントに接続するインタフェースを備えています。また,The Registerの記事の図にはありませんが,Caviumの発表には,高速でサーチを行うNeuron Searchというエンジンが描かれています。

  CN71XXは最大4コア,CN72XX,73XXは4〜16コア,最上位のCN78XXは24〜48コアと多種の製品を作るとのことです。製造プロセスは28nmで,クロックは最大2.5GHzとかなり高速です。消費電力は8Wまで下げて構成できると書かれていますが,多分4コアチップの場合でしょう。

  組込みのコアと言えばARMが人気ですが,その分,ARMの64ビットコアのライセンス料がお高いという難点があります。それに乗じて,Imagination Technologiesは,MIPS64コアをお安くライセンスしてシェアを取ろうといういう作戦です。

4.PEZYがKEKにES-1.4スパコンの設置を開始

 2015年6月12日にPEZY Computingは,KEKにおいてExaScaler-1.4を使う青睡蓮(Suiren Blue)システムの設置を開始したと発表しました。前回Top500で2位となった睡蓮はExaScaler-1ですが,ES-1.4は約4倍高密度になり,1つの液浸槽に64個のXeon CPUと256個のPEZY-SCアクセラレータを収容します。ES-1.4に関しては,6月10日のマイナビに私の記事があります。

 ES-1.4はCPUがXeon E5-2618L v3,メモリがDDR4となり,PEZY-SCのクロックも引き上げられて最大800MHz(ES-1は733MHz)となっています。また,ES-1ではInfiniBandのスイッチは液浸槽の外に置かれていたのですが,ES-1.4ではこのスイッチも液浸するように変更されています。

 ピーク性能は,395TFlopsから428.3TFlopsに上がっていますが,この程度では前回のTop500の369位を維持するのは難しそうです。問題はGreen500で,どの程度電力効率を改善でき,前回,惜敗したドイツのL-CSCを超えられるかどうか,また,ダークホースが出てこないかが気になるところです。

 6月10日のマイナビの記事を書いた時点では,2ノードを液浸して動かし始めた程度で,とても64ノードが短期間でできる雰囲気ではなかったのですが,齊藤社長のマジックで,青睡蓮が仕込まれていたようです。


5.ロンドンで携帯電話の偽基地局が見つかった

 2015年6月10日のThe Inquirerが,ロンドンでは,偽の携帯基地局が設置され,盗聴が行われていると報じています。英国のSky Newsという新聞が,ドイツのGMSK Cryptphoneという会社のシステムを使って独自に調査した結果,Stingrayと呼ぶInternational Mobile Subscriber Identity (IMSI)をキャッチする装置が動いていることを示す信号を20か所以上で検出したとのことです。

 基地局のアンテナが立っても,通信状況を改善するために建てたのだろうと思い,気にすることは無いのですが,日本でも,実は盗聴用のアンテナが立てられているのかも知れません。

 ただし,IMSIキャッチャは,全ての通話を拾い上げてしまうので,その中から,目的の通話を拾い上げるのは簡単ではなく,
GMSK Cryptphoneの関係者は,その情報をどのように使っているかは分からないと述べています。

 Stingrayシステムを運用しているのがロンドン警察なのか,政府の情報機関なのか,はたまた,私企業かわかっていませんが,データの処理には相当な情報処理能力が必要と思われます。


6.SC15のStudent Cluster Competitionの出場校を発表

 2015年6月11日のHPC Wireが,SC15でのStudent Cluster Competitionの出場校が決まったと報じています。それによると,今年は出場は以下の9校となっています。
なお,昨年は12校であったので,3校減っています。

 昨年3連覇を達成したテキサス大,そして総合2位となったテネシー大は,今年の出場校から漏れています。しかし,イリノイ工大,オクラホマ大などは昨年に続いて出場を果たしています。

 アジアの予選であるASC15(Asian Student Supercomputer Competition)には152チームが参加し,Tesla K80を使った精華大が優勝しました。今年の中国の代表は,この精華大です。しかし,LINPACKで11.92TFlopsとこれまでの10.1TFlopsの記録を20%近く伸ばしたシンガポールの南洋理工大はSCC15には選ばれていません。そして,台湾の強豪である国立精華大はずっと連続出場です。

 残念ながら,今年も日本からの出場はありません。


inserted by FC2 system