最近の話題 2015年6月20日

1.Stanford大のHenessy学長が,2016年に辞任すると発表

  2015年6月12日のReutersが,Stanford大のJohn Henessy教授が,2016年に学長を辞任し,研究や教育を行う教授に専念すると報じています。

  Henessy教授はMIPSアーキRISCの創始者であり,ヘネパタ本の著者としても有名ですが,2000年に学長に選出され,大学の運営に力を注いできました。しかし,62歳になり,本来の教授職に戻りたいということで辞任を発表したとのことです。

 Stanford大は,9月から次期学長を探す委員会を立ち上げるとのことです。

2.ISC16のプログラムチェアに東工大の松岡教授を選出

  2015年6月17日にISC(International Supercomputing Conference)は,東工大の松岡教授が,来年6月に開催されるISC16のプログラムチェアに指名されたと発表しました。米国のSCと並んで,年2回のTop500の発表が行われるスパコン関係の主要学会で,大会委員長になることは大変名誉な大役です。

  ただし,現在でも,米国から帰ってきた翌日にヨーロッパに発つというようなスケジュールで毎週海外に出張する松岡先生が,更に忙しくなって健康を害されないかと心配です。くれぐれもお体にお気をつけて!

3.BaiduがDeep Learningの上級研究者を解雇

 2015年6月12日のEnterpriseTechが,BaiduのRen Wu氏の解雇のいきさつを報じています。Ren Wu氏は,BaiduのDeep Learning研究所の上級研究員で,画像認識のコンペであるILSVRCへの結果の登録に不正があったというのが解雇の理由です。

  ILSVRCは,1000カテゴリ10万枚の画像を認識して,何が写っているかを識別するもので,誤答率が最も少ない結果を出したチームが優勝となります。今年のコンペの締め切りは11月13日なので,途中結果ですが,2月にマイクロソフトが4.94%,その5日後にGoogleが4.8%を達成と発表し,5月11日にBaiduが4.58%を達成と発表しました。

  Deep Learningの色々なパラメタをいじって結果を出しなおせば,必ず,誤答率は減って行くので,ILSVRCのルールでは,結果の提出は1週間に2回以内と決められています。それに対してBaiduのRen Wu氏のグループは6か月間に200回,多い時は1週間に40回の登録を行っており,これがILSVRCのルール違反として,結果の登録を取り消し,12か月間,Baiduのコンペへの参加を禁止する処分を受けたとのことです。

  ルールには「you cannot make more than 2 submissions per week」と書いてあり,Wu氏は,グループには5人の研究者が居るので,一人が週に2回の登録を行うと,半年では260回の登録が許され,その範囲内に収まっているので違反ではないと反論しています。しかし,これは苦しい言い訳で,youはチーム全体を指すと解釈するのが妥当だと思います。

  Baiduのポリシーは,このようなルール違反に対してはZero Toleranceであり,Ren Wu氏を解雇したとのことです。

  Ren Wu氏は2013年8月にHPから移ってきた研究者で,早く成果を上げなければというプレッシャーが強かったのでしょうか。

4.AMDがHBMを使うFiji GPUを発表

  E3におけるAMDのFiji GPUの発表を6月16日のEE Timesを始めとして,メディア各社が報じています。28nmプロセスで製造されるFury X GPUは64Compute Unit(4096ストリームコア)を搭載し,1.05GHzクロックで動作し,単精度で8.6TFlopsのピーク演算性能をもっています。

  そして,このGPUチップに4個のHBMが2.5D実装で接続されています。合計の信号数は4096で1Gbit/sの伝送ですから,メモリバンド幅は512GB/sとGDDR5の1.5〜2倍のメモリバンド幅となります。メモリ容量は発表されていませんが,4GbitのDRAMの4枚積層のHBMとすると,4個で8GBの容量という計算になります。

  Radeon R9 Fury Xというハイエンドの製品は水冷で,GPU側にコールドヘッドが付き,2本のパイプでファン付きの12cm×12cmのラジエータに接続されています。消費電力は発表されていませんが,従来の空冷のGPUよりは大きいのでしょう。

  また,空冷のRadeon R9 Furyというモデルも発表されています。HBMの採用でプリント版面積が小さくなったので,6インチサイズの小型のRadeon R9 Nanoという製品もあります。

  発売時期は,Fury Xが6月24日,Furyが7月14日で,Nanoは今年の夏,そして2個載りのDual Fiji(仮称)という製品を秋に出すとのことです。Fury Xのお値段は$649,Furyは$549とのことです。

  ゲーム関係のE3ですから当然ですが,倍精度浮動小数点演算性能は発表されず,サーバ用のGPU製品についても言及されませんでした。

5.東大物性研がSGIの2.65PFlopsスパコンを導入

  2015年6月18日のInside HPCが,東大の物性研(Institute for Solid State Physics )にSGIが2.65PFlopsのSGI ICE XAスパコンを納入すると報じています。物性研のホームページでは,このシステムは7月1日から稼働開始とのことです。。

  クロック2.5GHzの12コアXeon CPU 2ソケットに128GBのDDR4-2133メモリを付けた計算ノードを1585,そして,このノードにTesla K40 2台を付けたアクセラレータノード288個で構成され,ノード間の接続は4x FDR IB×2でトポロジはenhanced hypercubeとなっています。

  これに加えて,2.6GHzクロックで10コアのXeon 4ソケットに1TBのメモリを付けたFatノードを19ノード持っています。

  ファイルシステムはLustreで,/homeが157TB,/workが1137TBとなっています。

6.PEZYグループが理研に1PFlops級のスパコンを設置

  KEKにES-1.4ベースのSuiren Blueを設置していることを発表したPEZY/ExaScalerですが,6月19日に発売された日経エレクトロニクスに寄稿したPEZYの齊藤社長の記事で,理研に1PFlops級のES-1.4システムの設置を行っていることが明らかになりました。これは,先週の話題で紹介したKEKのSuiren Blueの4倍以上の規模です。

  京,東工大のTSUBAME2.5に加えて,核融合研,東大物性研など2PFlops以上のシステムが発表され,その他にも1PFlops以上のシステムは国内だけでも数多くあるので,この理研のシステムがTop500でどの程度のランキングになるのかは分かりませんが,PEZYグループという私企業が自前で作ったスパコンとしては空前の規模です。

  また,今後の性能向上の柱として,(1)独自の液浸冷却システム,(2)大規模MIMD型メニーコアプロセッサー,(3)3次元積層超広帯域DRAM,(4)磁界結合インターフェースを用いたインターコネクト技術を挙げ,2018年〜2020年には1ExaFlopsを超えるシステムを実現できる見込みと書かれています。

  長期のロードマップも示されており,2020年末を目標とするExaScaler-4は,16Kコアを集積して50TFlopsの性能を持つPEZY-SC4を使い,4液浸槽で30〜36PFlopsとなっています。

  そのほかにも色々と詳しい情報が書かれていますが,詳細は日経エレクトロニクスの7月号を見て下さい。また,この記事は連載で,続きは次号に掲載されるとのことです。


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