最近の話題 2015年7月18日

1.京コンピュータがGrapht500の1位に返り咲き

   今週発表されたGreen500で,京コンピュータが1位に返り咲きました。前々回1位だったのですが,前回は,Sequoiaに抜かれて2位に後退していました。京コンピュータのハードは変わっていないのですが,アルゴリズムの改善で,スコアを前回のほぼ2倍の38621.4GTEPSに引き上げました。一方,Sequoiaの方は昨年11月から23751GTEPSとスコアが変わっていないので,それ以降はチューニングを行っていないようです。その結果,京コンピュータが大差で1位に返り咲きました。

  この改善は九大の藤澤先生をリーダーとして,九大,東工大,理研AICS,富士通などが参加するJSTのCRESTの研究の一環として行われたものです。なぜ,2倍になったのかと藤澤先生に質問すると,処理の途中で出てくるDegreeがゼロのノードを削除して,処理するデータ量を減らす事で実現できたとのことでした。

2.Top500とGreen500

  Top500の方は7位にKAUSTのShaheen Uが入った程度で,殆ど順位に変動がありません。500位の性能は2008年6月から伸びが鈍っており,2013年6月からはTop500の合計の性能の伸びも鈍化しており,大型のスパコンの伸びが鈍っているのは明らかです。この原因は,ムーアの法則の行き詰まりなどで,マシンの性能向上が鈍り,更新の意欲が鈍っているため,あるいは,電力など維持費が高く,予算が取れないことが原因など色々の説がありますが,はっきりしたことは分かりません。また,Top500に載せない企業などのスパコンやTop500以下の規模のスパコンを含めると,設置されているスパコンの性能の伸びは維持されているのではないかという意見もあります。

  一方,ExaScaler/PEZYが理研に設置した菖蒲は,フルシステムではピーク性能が2PFlopsを超える計算ですが,今回は,ピークが843TFlopsで,LINPACKが412.7TFlopsで162位という結果で登録されています。ピーク性能の値から見ると,フルシステムの1/3程度の構成と見られます。

  そして,Green500は,今回のISC2015の会期中には発表されませんでした。主催者のWu Feng先生が,お取込みがあり作業する時間が取れていないようです。

3.天河二号のアップグレードはDSPを自主開発

  現在,Top500の1位の天河二号は,IntelのXeon CPUとXeon Phiアクセラレータを使用しています。しかし,中国が,天河一号,二号を,輸出の条件に反して軍事目的に使用しているとの懸念から,今年5月に米国商務省が,IntelとNVIDIA(天河一号のアクセラレータ)に輸出禁止を命じました。このため,中国がこれらの後継のチップを輸入してアップグレードを行うことが出来なくなっています。

  今回のISC 2015で,中国の国防科学技術大学のYutong Lu教授が基調講演を行い,その中で,DSPをエンハンスして汎用DSPを作り,現在のXeon Phiの代わりに使うという計画を明らかにしました。これについては,2015年7月15日のマイナビが報じています。

  天河二号は16,000ノードですが,それを18,000ノードに増やし,各ノードのCPUはそのままで,Xeon Phiの部分だけを汎用DSPに置き換えるという作戦です。この汎用DSPはMatrix2000と呼ばれ,1GHzクロックで,倍精度で2.4TFlopsで,消費電力は200Wとのことです。天河二号ではXeon CPUに3台のXeon Phiが付いているので,同様にMatrix2000を3台付けると,DSP部のピーク演算性能は129.6PFlopsで,これにCPUが加わると134PFlops程度になりますが,天河二号のRmax/Rpeak比で考えると,LINPACKで100PFlopsはちょっと難しいかもという感じです。

  また,システムとしては,3年前のXeon E5-2692を使い続けなければならないので,シングルスレッド性能という点では,最近のE5のv3プロセサに見劣りするという問題もあります。当然,中国としてはCPUも自主開発するのでしょうが,先ずはDSPということなのでしょう。国防科学技術大学では以前からDSPの研究開発を行っており,その成果を利用することで,来年には作れる見込みとのことです。

  禁輸を決めた時,中国の自主開発を促進するだけという懸念があったのですが,どうもその通りになりそうです。

4.精華大の投資部門がMicronの買収に名乗り

  2015年7月13日のEE Timesが,精華大の投資部門であるTsinghua Unigroupが,米国のMicronに対して $23Bで買収を提案と報じています。Micronは米国ではIntelに次ぐ第2位の半導体メーカーで,$23Bでは買収価格が安すぎとか,Micronが中国の手にわたるのは国益上問題なので,政府が許可しないだろうとか色々な見方があります。

  しかし,中国はアグレッシブですね。

5.Intelの10nmプロセスが遅延し,14nmのKaby Lakeが登場

  2015年7月16日のThe Registerが,Intelの10nmプロセスの完成が遅れており,その結果,10nmプロセスを使うCannon Lakeが遅れ,出荷を2017年にを遅らせました。結果として2016年の製品が無くなってしまうので,2016年には14nm製品であるKaby Lakeを出すと報じています。

  14nmプロセスでは,2014年にBroawell,2015年にはSky Lakeを出しているので,2016年のKaby LakeはTickでもTockでもない製品ということになります。

  IBMが7nmプロセスでテストチップを作ったと発表していますが,試作と量産の立ち上げは大違いで,10nmプロセスの量産立ち上げは難しく,難航しているようです。この遅延で,他社に追いつかれるのではないかという点に関しては,Intelは,他社も苦労するだろうから同じと述べています。

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