最近の話題 2015年8月1日

1.Intel-Micronが3D Xpoint NVRAMを発表

  2015年7月28日にIntelとMicronは3D Xpoint(3Dクロスポイント)と呼ぶ不揮発性の新型メモリを開発したと発表しました。発表にポンチ絵がありますが,記憶素子はメモリ層とスイッチ層を重ねた角柱で,これをXとY方向それぞれの配線層の交点の部分に造ります。上側がY方向とすると,更にその上にX方向の配線を作り,この2層の間に2階のメモリ素子を作るように,メモリ素子を3次元積層できます。この構造で2階建てとして,128Gbitの容量のメモリチップを作ったという発表で,記者発表の場で300mmウエファを見せました。

  NAND Flashのようにトランジスタを直列にするのではなく,上下のメタル配線の間に記憶素子が1個という構造であり,基本的に,DRAMのようにビット単位のランダムアクセスができ,読み出しはDRAMと同じ程度のアクセスタイムが得られる可能性があります。発表ではNANDの1000倍速いと言っています。そして,密度はDRAMの10倍とのことです。また,書き込みに対する寿命も問題ないとのことです。

  記憶素子の詳細については発表されていませんが,メモリ層の一部の変化ではなく,メモリ層の物質の性質が変わると述べていることから,広義にはPhase Change Memoryと考えられます。2端子のデバイスですから,上下の配線の間の電圧がある程度以上になると,スイッチ層が導通し,メモリ層に電圧が掛かり,流れる電流値を読めば0か1の記憶したデータが読め,さらに大きな電流の書き込みパルスを与え,パルスの幅などの違いで0を書くか,1を書くかを決められるようなものではないかと推測されます。

  しかし,このようなスイッチや記憶層の物質の相変化には,DRAMセルよりも高い電圧が要るのではないかと思われ,リフレッシュ動作は不要であるものの,頻繁にアクセスする場合にどの程度の電力を消費するかが気になります。

  記者発表の時のウェファのビデオはそれほど鮮明ではなく,チップの個数を正確に数えられませんが,横方向には30個かもう少し多い程度のチップが並んでいる感じで,10mm弱の幅と思われます。チップが正方形とすると80〜100mm2のチップではないかと思われます。

  高速の不揮発性RAMは色々なものが開発されており,その点では今回の発表は珍しくないのですが,STT-MRAMにしろ,ReRAMにしろ,64Mbit程度の容量のものは商品となっているものがありますが,DRAMを超える容量を実現したものは有りません。多くのReRAMやHPのMemriterなどはフィラメント状の導電パスの形成を利用しており,材料のごく一部が変化するというもので,均一に歩留まり高く作ることが難しいようです。また,STT-MRAMは薄いトンネル接合を歩留まりよく作ることが難しいなどの問題があるようです。

  と書いた後で,2015年7月29日のThe Registerが,より詳細な分析記事を載せているのを見つけました。Micronのこれまでの発表を集めて,今回の3D Xpointメモリの内容を探っています。この記事は,メモリセル,スイッチともに色々なやり方があることが書かれており,参考になります。

  ただ,The Registerは,MicronとSonyが2014年のIEDMに連名で発表したConductive Bridge RAMではないかと推測していますが,CBRAMはメッキで電流通路を形成するもので,バルクの物性を変えるという発表と一致しません。この点で,私はカルコゲナイトなどを使っているのではないかと思います。

  他の高速NVRAMは,試作レベルはともかく,大容量のチップの商品化が出来ていないのですが,Intel−Micronは128GbitというNANDと同レベルの容量のサンプルを見せたという点が大きな違いです。Intel-MicronのJVのLehi工場で量産の準備を進めており,2016年には両社から製品を出すと言っているので,この規模のチップの量産に自信があると見られます。Intel-Micronが言うように原理的な新奇性があるのかどうかは分かりませんが,量産技術を確立したとすると,それは大きなインパクトです。

  サーバではDRAMのメインメモリとHDDの間にSSDの階層を設けるというのが増加していますが,HPCやIn Memory Data Baseの分野ではDRAMとSSDの間の性能ギャップは大きくその間を埋めるものが強く求められており,このメモリはその需要に応えるものになると期待されます。

2.オバマ大統領がNational Computing Strategic Initiativesを発表

  2015年7月30日のHPC Wireが,オバマ大統領のNational Computing Strategic Initiativeの発表を報じています。

  NCSIの4つの原則は,

  1. 経済的競争力と科学的発見のために,新しいHPCテクノロジを広汎に使用すべきである
  2. HPCの利益を最高に利用するため,政府,産業界,学界の強味を結集し,公的団体と私的団体の協力関係を育成すべきである
  3. HPCに関する経験や投資を持つ政府のすべての機関が協力し,業界や学会との協力も含めて,政府横断的なアプローチを行うべきである。
  4. ハードウェア,システムソフトウェア,開発ツール,アプリケーションの効率的な開発と稼働を行うため,HPCの研究を変革する包括的な技術的,科学的アプローチを開発すべきである。

  であり,5つの目的は,

  1. 現在,10PFlops程度のシステムを100倍の性能を発揮するハードウェア,ソフトウェアを持つExascaleの計算システムの実現を加速する
  2. モデルとシミュレーションと,データアナリティックに用いるテクノロジの一貫性を増加させる
  3. ムーアの法則後を含めて,今後15年間のHPCシステムのロードマップを確立する
  4. ネットワークテクノロジ,ワークフロー,下方スケーリング,基本アルゴリズムとソフトウェア,HPC資源へのアクセス可能性,人材育成などを含めた包括的なアプローチを用いて,永続性のある国家的HPCエコシステムの量的,質的な増強
  5. 研究や開発の成果が米国政府と業界や学会で共有されるよう,公的団体と私的団体の永続的な協力関係を開発する

となっています。

  この方針を具体化する政策は,今年末までに立案される予定とのことです。

  この60年間,HPCをリードしてきた米国ですが,中国の追い上げも激しくなっており,安全保障,産業競争力の強化のためには,HPCに力を入れて,他国を引き放す作戦です。

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