最近の話題 2015年9月26日

1.フォルクスワーゲンのクリーンジーゼル車が排ガステストで不正

  2015年9月22日のWashington Postが,フォルクスワーゲンの排ガステストの不正について,技術的な記事を載せています。

  米国の排ガス規制は,5万マイル(約8万km)と12万マイル(約19万km)走行した状態でのNoXとかCO,微粒子などの1マイル 走行当たりのグラム数を規定しています。しかし,発売前に,これだけ長距離を走った車で実測することは不可能ですし,使い方によってばらつきもでるでしょ うから,どのような車を何台測定すれば良いかという問題もあります。

  このため,実際には,市街地や高速道路などの走行の典型的な使用状態を模擬した走行状態を実現するテスト用のローラーの上で車を走らせ,排気の測定を行い,その結果から5万マイルと12万マイル走行後に規制値を満たすかどうかを判定することになります。

  当然,フォルクスワーゲンの車も測定では規制を満足していたわけですが,どうも実走行ではNOxなどが多いという噂があり,International Council on Clean Transportationの依頼を受けて,West Virginia大の研究者が詳細な実測を行ったところ,最大では,(1〜2万マイルの車であるのに)12万マイルの規制値の35倍の有害物質を排出していたとのことです。

  どのように測定するかを決める必要があるのは当然ですが,これは,自動車メーカーに,どのような条件で排ガスの測定が行われるのかは良く分かっているということになります。

  このため,フォルクスワーゲンはハンドル,アクセルやブレーキの操作情報から,排ガスの測定中であることを認識して,その場合はNOx などを減らすようにエンジンをコントロールし,それ以外の場合は排ガスをクリーンにする設定をオフにして,燃費や加速性能を改善していたとのことです。こ れは,故意にテストをすり抜けるという意図があったと考えられます。その結果,規制値を上回る有害物質を排出していたとすると,この点でも有罪と言えると 思います。

  いずれにしても,今回は,フォルクスワーゲンも不正を認めているので,責任ははっきりしているのですが,対象の1100万台のリコールには膨大な費用が掛かります。また,ユーザが燃費や加速性能の悪化を招く改造を受け入れるかどうかは問題です。ユーザに改造を強制すれば,性能低下の損害賠償という話も 出てきますし,虚偽広告だから返品という話だって出かねません。さらに,NOxによる肺へのダメージや,酸性雨による植物への被害を補償しろという訴訟も 起こされる可能性があります。

  フォルクスワーゲンのMartin Winterkorn社長は辞任を発表したわけですが,後任の社長になる人は大変でしょうね。

  問題は,テストが完全でないということで,傾向と対策を頑張れば,良い得点が採れるという点です。自動車業界では,この手の不正は過去に何回も行われているとのことです。しかし,テストがあれば,受験する方は傾向と対策を頑張るのはどこでも同じで,排ガステストに,より長い時間を掛けて長距離の実走行 などを追加すれば,ごまかしは難しくなりますが,ディープラーニングで強化学習を使って排ガス,燃費,加速などの得点を最大化するように学習させれば実力 より良い得点を実現できると思われます。

  個人的には,固定のルーチンでの運転状況で測定を行うのではなく,運転状況をランダムに変えてテスト中であることを検出されないようにするような工夫が必要ではないかと思います。そうすることで測定精度は多少悪化するとは思いますが,多少のマージンを許容すれば,そのようなテストは作れるのではないかと思います。

2.Appleは自動運転車を開発するのか?

  2015年9月21日のWall Street Journalが,Appleが電動自動車を2019年に出荷するという目標を設定したと報じています。Appleが自動車関係のエンジニアを集めていることは周知の事実ですが,Titanというプロジェクト名で600人のチームが存在するとのことです。

  そして最近,カリフォルニア州のDMV(Department of Motor Vehicle)の幹部とのミーティングを持ち,本格的な開発に進むことを決定して,Titanチームを3倍に増強する許可が出されたとのことです。

   2015年9月21日のThe Registerによると,カリフォルニア州で自動運転車の路上テストを行うライセンスを取得している会社は,Volkswagen,,Audi,,Mercedes Benz, Google, Delphi,,Bosch,TeslaとNissanとのことで,Appleは,まだ,ライセンスを取得していません。

  また,技術的には,2019年に人間のドライバと同等かそれ以下の事故率の自動運転車を作ることは可能かも知れませんが,事故の場合,誰が責任を取るのか,どのような条件で保険会社が保険を引き受けるのか,などなど,の問題を解決して2019年に自動運転車が販売できる環境が整うのは難しいと見られます。従って,Appleが2019年に出すとすれば,ドライバ不要の完全自動運転車ではないと見られています。

3.北米のIPv4アドレスが枯渇

  2015年9月24日のThe Registerが,北米のIPv4アドレスが完全に枯渇し,割り当てを希望する人は誰かがIPアドレスを返納するのを待たなければならない状態になったと報じています。なお,世界的にはIPv4のアドレスの97.52%が割り当てられた状況になっています。

  ただし,IPアドレスの割り当ては1個ずつ行うのではなく,256個とか512個とかまとめて割り当てるので,割り当てを受けたけれど,まだ,使っていないIPv4アドレスは相当数残っていると見られます。

  IPアドレスはインタネット上の住所のようなもので,それが無いとアクセスができません。しかし,家庭や事務所内では192.168ではじまるローカルアドレスが使われるので,プロバイダのIPv4アドレスにアクセスできれば,内部の機器の間の通信には影響がありません。ということで,IPv4アドレスが枯渇しても一般ユーザには殆ど影響はありません。

  一方,グローバルなIPアドレスに関しては128bitのIPv6というアドレスが作られており,多くのネットワーク機器が,すでにIPv6アドレスでのルーティングができるようになっており,IPv6アドレスに移行すれば,アドレスは十分にあります。このため,IPv4アドレスの枯渇で,IPv6の採用に拍車がかかることになると見られます。


4.AMDのチーフアーキテクトJim Keller氏が辞職

  2015年9月20日のThe Registerが,AMDのJim Keller氏の辞職を報じています。Keller氏は現在の土木機械シリーズの次のZenと呼ばれる高性能CPUコアの開発を担当していました。Zenは2016年登場の予定で,中身については,まだ,公表されていませんが,現在のExcavatorコアと比べてIPCが40%向上すると言われています。

  Keller氏は,2012年にAppleから移ってきたのですが,それ以前にはAMDで64bitのOpteronなどを開発したという経歴を持っており,今回は2回目のAMDからの辞職ということになります。

  辞職の理由は明らかにされていません。また,AMDは製品やロードマップに影響はないとコメントしています。

5.ディープラーニングマシンがチェスを72時間でマスター

  2015年9月23日のHPC Wireが,9月14日のMIT Technology Reviewに掲載されたチェスマシンに関する記事を掲載しています。IBMのDeep BlueがKasparovを破ったのは1997年のことで,それ以来,多くのチェスマシンが開発されてきましたが,基本的な原理は同じで,コンピュータのパワーを使ってできるだけ長く先読みすることで,良い手を見つけています。

  これに対して,Imperial College Londonの修士課程の学生であるMatthew Lai氏は,ディープラーニングの手法でポジションを評価して,上位の少数の手だけを先読みするというGiraffeと呼ぶシステムを開発しました。

  Lai氏のニューラルネットワークは,(1)双方の持ち駒の種類や数,次はどちらの番か,キャッスリングの権利があるかなどの全体的な評価,(2)駒ごとに駒の位置,(3)各コマが攻めるマス,守るマスの位置といった情報を入力として,盤面を評価して次の手を計算します。

  Lai氏のCNNは4層という単純な構造ですが,72時間の学習後は,46%のケースでは最良の手を示し,上位5個の候補の中に最良の手が含まれている確率は70%になったとのことです。つまり,人間と同じように,良さそうな幾つかの手を直感的に選び,その先を詳細に読むというアプローチが出来ます。

  学習は過去のコンピュータチェスの棋譜から500万局面を抽出し,それにランダムな次の手を加えて,17500万局面の学習データを作り,システム同士を戦わせて,その勝敗や引き分けといった結果で強化学習をさせたそうです。使ったマシンは, 2×10-core Intel Xeon E5-2660 v2 CPUとのことで,それほど高性能というものではありません。

  そして,Strategic Test Suiteという1500種の局面での判断を評価するテストスイートを使って評価した結果,短期間の学習で15,000満点で6,000点に達し,72時間の学習後には9,700点に達したとのことです。これはFIDE(World Chess Federation)のトップのグランドマスターに次ぐインタナショナルマスターのレベルだそうです。しかし,学習のヒストリを見ると9700程度で飽和していて,まだ,何か抜けているものがあるような感じがします。このディープラニングと深い先読みを組み合わせるとか,もっと入力や層数を増やしたりして局面の評価を良くするとかすれば,もっと強くなるのではないでしょうか?

  この手法は他のゲームでも使えますから,Lai氏は,選択肢が多すぎて,コンピュータが人間に追いついていない碁への適用に興味を示しています。

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