最近の話題 2016年1月16日

1.バベッジのDifference Engine No2の展示が1月末で終了

  ディファレンスエンジンは,高次の多項式を計算する機械式のコンピュータです。産業革命の時代には蒸気機関などの機械が多く開発されましたが,当時の数表は多数の人間が分業して計算して作ったもので,多くの誤りが含まれており,それが原因でボイラーが爆発してしまったり,鉄橋が崩れたりするという恐れがありました。

  この計算を機械にやらせて,間違いのない数表をつくろうということでバベッジが提案したのがディファレンスエンジンです。英国政府も予算を付けた,1830年頃のスパコン開発の国家プロジェクトですが,結局,予算が尽きてしまって,ディファレンスエンジンは完成しませんでした。

  1991年にロンドンの科学博物館が,バベッジの設計に基づき,当時の製造技術の精度で,ディファレンスエンジンを作り,多少のミスは修正したものの,バベッジの設計でマシンが正しく動作することを証明しました。これがDifference Engine No1ですが,その後,MicrosoftのCTOなどを務めたNathan Myhrvold氏が注文して作られたものが,Difference Engine No2です。

  2008年に完成したのですが,当初は自宅に置く準備が整っていなかったこともあり,シリコンバレーのComputer History Museumに貸与されて展示が行われました。当初は2010年末までという予定だったのですが,延長されて展示が行われていたのですが,いよいよ,1月31日が最後の動作デモで,これでお別れになるとのことです。

  残り2週間ですが,まだ,見てなくて,シリコンバレーに行くことが出来る方は,ご覧になることをお勧めします。

2.TSMCの2016年の投資は$9B〜10B

  2016年1月14日のEE Timesが,TSMCの決算発表での幾つかの発表を報じています。それによると,2016年の投資は$9B〜$10Bを計画しているとのことです。これは2015年が$8.1Bであったのと比べると1割〜2割の増加で,TSMCは10nmとそれ以降のプロセスでのシェア拡大を狙っています。

  また,10nmプロセスについては,今年の1Qのクオリフィケーションを終わり,テープアウトの受付を開始するとのことです。そして,7nmプロセスの製造を2017年に開始するという計画は順調に進んでいると述べています。さらに,5nmを2019年のどこかで出すとのことです。

  EUVは500枚/日のスループットを達成しており,5nm世代ではEUVが量産に使える(量産では100枚/時程度が必要)ようになる見通しとのことです。


3.3D XPointtメモリはカルコゲナイト

  IntelとMicronのジョイントベンチャーのIM FlashのcoCEOのGuy Blalock氏が,カルコゲナイトとOvonyxスイッチが3D XPoint技術のマジックパートと発表したと2016年1月14日のEE Timesが報じています。まだ,細かい改善が必要であり,量産の開始には,12〜18か月必要とのことです。Ovonicのメモリは1960年代から研究されていますが,何がブレークスルーになったのかは明らかにされていません。

  3D XPointメモリの製造には100種に上る新しい物質を必要とし,新しい物質の中にはコンタミネーションを惹き起こすものもあり,それを防止するために多くの層を必要とする。ということで,3倍から5倍の製造装置が必要となる。その結果,クリーンルームの面積が3〜5倍,装置のコストが3〜5倍になるとのことです。

  プロセスのステップが増え,製造装置が3倍〜5倍必要となるのは3D NANDでも同じであるが,3D NANDは第2世代以降はかなりコストが下がるが,XPointはあまりコストが下がらない見通しと言っています。

  コストダウンのため,IM Flashは製造装置メーカーにスループットの大幅向上を要求しているとのことですが,Wetのプロセスはかなり改善できそうですが,ドライプロセスの方は大幅な改善は難しそうです。

  また,新物質の中には供給者が1か所しかないというものもあり,顧客に受け入れられるためには,複数のソースを確保する必要があるとのことです。

4.AMDがARM A57コアを使うA1100の出荷を開始

  2016年1月14日のEE Timesが,A1100の出荷開始を報じています。2GHzクロックのARM A57を8コア搭載し,消費電力32WのAMDのA1100(開発コード名Seattle)は,最初の発表は2013年6月で,これから2年半が経っています。

  EE Timesは,アナリストのDavid Kanter氏の分析をひいて,A1100はたった3社の小さな会社がユーザとして名前が挙がっているだけと書いています。それも2社はStorageやNetworkをSoftware Definedにするコントローラとして使い,もう1社はWebホスティング用のサーバと言う使い方で,ARMサーバの上に各種のアプリが載るというAMDが期待するエコシステムができるという使い方ではないとのことです。

 Seattleは,28nmプロセスであり,22nmや14nmのFinFETプロセスを使うIntelのXeon E3やXeon Dと比較して競争力が無い。コアあたりにすると4Wという消費電力も魅力が無い。また,Applied Micro,CaviumなどのライバルがFinFETプロセスを使い,コア数も多いARMサーバチップを計画しており,それらと比較すると採用する魅力に乏しいなどが採用が増えない理由と分析しています。

  また,サーバではx86のエコシステムが強く,HPEのMoonshotもARMプロセサを搭載したものは,汎用サーバ向けには殆ど出ていない。AMDはIntelに対抗する唯一のx86サーバチップのサプライヤとして頑張るのが一番成功の可能性が高いとDavid Kaner氏は述べています。

5.2015年のPCの出荷は2億7600万台

  2016年1月13日のEE Timesが,IDCのレポートを引いて,2015年のPCの出荷は276.2M台で,これは4年連続の減少と報じています。2015年4Qの出荷は71.9Mで,これは前年同期から10.6%の減少で,年間で見ても2014年から2015年は10.4%の減少です。

  2015年は,メーカー別では,Lenovoが20.7%のシェアで1位,HPが19.4%で2位,3位は14.1%のDELL,4位は7.5%のApple,5位は7.1%のAcerとなっています。

6.SC15でのIntelのKnight Landingの展示

  Knights Landingは,まだ,Intelは正式発表していないのですが,ベータレベルのチップは色々な会社には配られているようです。昨年の12月28日のMynaviNewsが,SC15での展示場の様子をレポートしていますが,あちこちでKnights Landingを搭載したプリント板が展示されています。

  Mynaviの記事でレポートされているのは,CrayのXC40用のブレードに4個搭載,ロシアのRSCグループの水冷サーバのボードに1個搭載,富士通のHPC用のアクセラレータボードに1個搭載と言ったところですが,Intelの発表前なので,Knights Landingとは書いて無くて,何の説明もなく,プリント板が置いてあり,LSIのパッケージの印刷を見るとKnights Landingと書いてあるという展示なので,レポートされた以外の会社の展示ブースにも,置かれていたけれど,見逃したという可能性も大です。

7.ASC16の予選の要綱の発表

  SCやISCでは,学生チームによるクラスタスパコンでのHPC処理能力を競うStudent Cluster Competition(SCC)が行われますが,アジアではAsia Student Supercomputer Challengeが行われます。昨年は160チームの参加があったとのことで,SCCと違って予選があり,これをパスしないと,本選に進めません。

  この予選の要綱が2016年1月15日に発表されました。今年の課題アプリはDeep Nueral NetworkのDNN,海洋のシミュレーションを行うMASNUM-WAMとHPCGです。

  予選に参加するには英文のプロポーザルと,最適化したこれらのアプリのコードと実行結果(正確には,HPCGの出力ファイル,MASNUM-WAMのログファイル一式,最適化したDNNのソースと実行したログファイル)を3月2日までに主催者に送る必要があります。そして,主催者が審査して,本選に進むチームを選ぶことになります。本選の日時は決まっていませんが,5月中頃の予定です。

  なお,DNNの最適化はCPU+MICという環境で行う必要があります。

  詳細は予選の要綱を見て下さい。


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