最近の話題 2016年2月6日

1.カリフォルニア大などが光入出力のRISC-Vプロセサを製作

  2016年2月1日の日経テクノロジーが,カリフォルニア大学バークレイ校,コロラド大学,マサチューセッツ工科大学が光で信号を入出力するRISC-Vプロセサを製作したと報じています。この記事は2015年12月のNatureに掲載された論文に基づくものです。

  このチップは45nmのCMOS SOIプロセスで作られ,チップサイズは6mm×3mmでトランジスタ数は70M個とのことです。このチップにRISC-V CPU 2コアと1MBのSRAMと光のI/O回路が集積されています。RISC-Vのクロックは1.65GHzです。

  光源のレーザーは集積されておらず,外部から供給する必要がありますが,変調器と光受信機は集積されており,集積されている光部品の数は851個となっています。また,最大11波長の光多重ができるそうです。変調器はリングで,PN接合を使って電子密度(ひいては屈折率)を変化させて変調を行っています。

  チップ間の伝送は2.5Gbit/s,チップ間は5Gbit/sで,送信回路は約0.8pJ/bit,受信回路は0.5pJ/bitの消費エネルギーとのことです。チップ全体では約110対の光送受信回路があり,最大伝送容量は,送信側は550Gbit/s,受信側は900Gbit/sとなっています。

  UCBのゼロチェンジ戦略に基づき,基本的に標準のCMOS SOIプロセスで作れるようになっており,SiGeは,歪シリコン用のものを使っている。このプロセスではGe濃度が低く,光通信に用いられる1300nmや1550nmの感度が低いため,1180nmの短めの赤外線を使っているという。また,薄いBOX層を越えてシリコン層に光が漏れるのを防ぐために,光導波路の部分のBOX層の下のシリコンをエッチングで取り除いているという。

  ほぼ標準のCMOS SOIプロセスで光入出力を集積したプロセサが作れることを実証したという。

  なお,このチップにはDRAMコントローラは搭載されておらず,1MBのオンチップSRAMを主記憶として使っています。

2.ISSCCでのNext Generation Processingセッションの発表

  2016年2月5日の日経テクノロジーが,ISSCC2006での次世代プロセッシングのセッションでの発表について書いています。

  韓国のKAISTは14.1,14.2,14.3と14.6と一つのセッションで4件の論文発表を行ないました。14.1は,ジェスチャーと音声による自然なUI/UXを実現するプロセッサで,Dropout Deep Learning Engineと真の乱数発生器をもち,乱数でエンジン内のレジスタをゲートすることにより消費電力を45.9%削減し,1.6%という低い誤認識率を達成したと書かれていますが,具体的に,どこのレジスタをどの場合に止めるのかは,この記事では不明です。

  KAISTはこのプロセサを搭載した眼鏡型のウェアラブル端末の試作機を会場でデモしたとのことです。

  14.2はドライブの補助を行うADAS向けのSoCの発表で,ドライバの意図を予測するエンジンを搭載しているとのことです。このSoCは認識にはSemi Global Matchingを採用し,意図の予測には「Recurrent Neural Networkとファジー推論機能を搭載しています。

  14.3はマイクロロボット向けのAIプロセサの発表で,強化学習用のアクセラレータを搭載しています。障害物の数で必要な処理能力が変るため,サブスレッショルド電圧まで電源電圧を可変できるようにして低消費電力を実現しているとのことです。

  そして,MITが論文14.5で再構成可能なDeep CNN向けのプロセサを発表しています。14.6はKAISTのイベント駆動を想定した低消費電力のDCNNアクセラレータの発表です。

  KAISTの存在感は圧倒的です。

  このセッションでは,論文14.7で早稲田大学が8KのH.265/HEVCのデコーダーICを発表していますが,次世代プロセッシングという感じではありません。

3.ISSCCでSamsungが10nm FinFETプロセスのSRAMを発表

  2016年2月4日のEE Timesが,ISSCCでのSamsungの10nm FinFETプロセスで製造したSRAMの発表を報じています。それによると,高密度セルのサイズは0.04um2,高電流の高速セルのサイズは0.049um2とのことです。この高密度セルの面積は,昨年のISSCCでのチャンピオンデータよりも38%小さいとのことです。

4.Microsoftの潜水データセンタ

  2016年2月2日のInformation Weekが,潜水データセンタを開発するMicrosoftのProject Naticについての記事を掲載しています。Project Naticは,巨大な円筒型のコンテナを作り,その中にデータセンタの機器を収容して海に沈めた状態で運用するというものです。

  波力発電でデータセンタの消費電力を賄い,発熱は周囲の海水に放出するというもので,マクロに見れば環境ニュートラルで,運転コストも安いとのことです。また,設置場所が海岸に近く,世界の人口の50%以上は海岸線から200km以内に住んでいるので,データセンタとの通信遅延も小さくなるとのことです。

  5年程度は密閉して潜水した状態でメインテナンスフリーで動作させ,5年経ったら,浮上させて機器を最新のものと交換するとのことです。コンテナの寿命は20年程度と見込んでいます。

  昨年8月から105日間プロトタイプを運転し,結果が良かったので,次は3倍のサイズの潜水データセンタを作るとのことです。通常,新しいデータセンタを建設するには数年かかるのですが,この潜水データセンタは,沈めて係留するだけで設置できるので,90日という短期間でデータセンタが作れるというのも大きなメリットとしています。

  実験を行ったプロトタイプは,写真で見ると,直径が2m,長さが2m程度と思われます。

5.人工知能の創始者のMarvin Minsky氏が逝去

  2016年1月25日のニューヨークタイムズがMarvin Minsky氏の逝去を報じています。88歳だそうです。

  MITの教授であったMarvin Minsky氏は,マイクロプロセサやスーパーコンピュータが発展するより前に,コンピュータが常識をもって判断する可能性を示し,Artificial Intelligenceという研究分野を始めました。

  最近のDeep Learningの成功も,Minsky氏の始めた人工知能研究の流れを引くものであり,氏の影響は非常に大きなものがあります。ご冥福をお祈りいたします。


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