最近の話題 2016年3月26日
1.半年で劇的に強くなったAlphaGo
AlphaGoが李世ドル9段に4-1で勝った件は,先週の話題で紹介しましたが,調べてみると,AlphaGoは昨年10月にFan Hui氏と対戦した時より,劇的に強くなっているようです。拙著ですが,2016年3月25日のマイナビが報じています。
Google DeepMindの論文では,昨年10月の時点でのElo Ratingは3140であったのに,最近のGo RatingsサイトではAlphaGoのElo Ratingは3584と劇的に強さが上がっています。なお,このRatingは中国のKe Jie氏の次いで世界第2位にランクされています。
プロ棋士たちの前評判は,Lee Sedol氏の圧勝というものでしたが,これは昨年10月の試合を見ての判断で,半年足らずで,ここまでAlphaGoが強くなるというのは夢にも思わなかったのでしょうね。しかし,Google DeepMindにしてみれば,対局をやるなら勝てる強さまで性能を引き上げようと考えるのは当然でしょうね。人間の棋士の場合は,短時間で性能を上げるのは無理ですが,AlphaGoの場合は,コンピュータの能力向上などで実現できてしまうところが恐ろしいところですね。
2.元Intel CEOのAndrew Grove氏が逝去
2016年3月21日にIntelの元CEOのAndrew Grove氏が亡くなりました。行年は79歳で,80歳以上が珍しくない最近では,早死にと言えます。死因は発表されていませんが,2000年からパーキンソン病を患っており,それが寿命を縮めた可能性もあります。
Grove氏は,1979年にIntelの社長,1987年にIntelのCEOとなり,1997年から2005年に掛けて会長を務めました。Grove氏は,IntelがDRAMを諦め,マイクロプロセサを主要製品とした戦略変更にカギとなる役割を果たし,在位中に,年間売り上げを$1.9Bから$26Bに伸ばしました。
また,Grove氏は,パーキンソン病の研究を加速するために多大な寄付を行い,City College of New YorkにGrove School of Engineeringを設立するために$26Mを寄付するなど多くのチャリティーを行いました。
3.Intelが2拍子のTick-Tockを放棄し,3拍子に変更
2016年3月22日のThe Registerが,ムーアの法則の微細化のペースがTick-Tockの2拍子を維持できなくなり,ワルツのような3拍子に変更されると報じています。
Intelは,最初は以前の設計はそのままで,微細化で性能を向上させるTickを行い,翌年は,プロセスはそのままで,アーキテクチャなどを改良して性能向上や機能追加を行うTockを繰り返してきました。しかし,プロセスの微細化が限界に近付いて困難になり,2年ごとに新世代のプロセスに移行することが難しくなり,更新期間が伸びてきています。
しかし,新学期商戦やクリスマス商戦の時期には新製品を出せるようにすることは必須です。そこで,プロセス縮小,新アーキテクチャの後に,最適化(Optimization)を追加することになったそうです。これは,証券取引委員会(SEC)に提出する10-Kというドキュメントに書かれているとのことで,信用がおける情報です。
4.自動運転車は,まだ,実用にできない
2016年3月22日のEE Timesが,自動運転車はまだ実用にならない7つの理由という記事を掲載しています。これは先週行われた上院の公聴会でのデューク大学のロボット関係が専門のMary Cummings教授の証言をまとめた記事です。
Cummings教授が,自動運転車は,まだ,実用にできないと主張する理由は,原則と事実に基づく自動運転車の評価手順が無い,政府が規制を作るためのリーダーシップを殆ど取っていないからというもので,Googleなどの自動運転の開発者は,厳密なテストを行わず,デモを行うことでそれを代替しようとしていると非難しています。
自動運転がまだ実用にできないとする第1の理由は,事実を基にしたテストや評価が行われていないという点です。車がある状態でうまく運転できるとしたら,どうすればそれが失敗するかと言う状況を色々と作り出して,意地悪テストを行う必要がありますが,自動運転車にはそのレベルのテストが行われていません。
第2の理由は,悪天候です。Googleはカリフォルニアとテキサスで走行試験を行っていますが,この地域では,路面に水が溜まっている,雨が降っている,突然の豪雨,雪などの悪天候はあまり起こりません。また,何らかの事情で,警官が出て交通整理を行っているような環境に,現在の自動運転車は対応できません。
第3はハッキングなどへの対応です。2015年にFiat Chryslerの車へのハッキングが可能であることが示され,140万台をリコールして改造したことは記憶に新しいところです。自動運転車は,このような危険がないようにしなければなりません。また,自動運転車のGPU受信を妨害したり,GPUをだましてコースをそれさせてしまうのは難しくありません。自動運転車を実用化するには,この問題を解決する必要があります。
第4は,悪戯をする人間の存在です。本当に衝突回避がちゃんと働くのかを試そうとする人も出てくるでしょう。レーザを照射してLIDARスキャナを混乱させたり,GPUの受信を妨害するということもあり得ます。悪意がなくとも,自分の居場所を知られないようにGPSを妨害する電波を出す機器を装備している車が近くを走っている場合は問題です。
第5は,自動運転車が走ると,何時,どこからどこに移動したかなどに関する膨大なデータが得られてしまいます。このような個人情報を誰が,どのように管理するのかという問題を解決する必要があります。
第6は自動運転車を規制する当局の役割が未定の部分が多く残っていることです。トヨタの車がバグで突然加速して,ブレーキも効かない状態になることを見つけるのは,NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)は外部の専門家を雇って18か月間調査をすることになりました。このような発生頻度の低いバグを見つけるには,当局は能力もスタッフも不足しています。これでは自動運転車の安全を確保するリーダシップを持つ政府機関の設立はできません。
第7は,Google Xは2万マイルを走行して実績を積んでいると言いますが,実績は厳密なテストを置き換えることはできないという点です。2万マイルと言いますが,ニューヨークのタクシーは1.5日で2万マイルを走っています。どのようにテストが設計されており,誰が結果を確認し,他の専門家がプロセスをレビューするという明確な認証プロセスが必要です。
このCummings教授の指摘はもっともなものと思います。
5.ASC16のStudent Supercomputer Challenge出場校
2016年3月18日のHPCWireが,ASC16のStudent Supercomputer Challenge出場16チームの発表を報じています。今年は,6大陸の148大学から175チームの応募があり,2か月間の評価と予選の結果,以下の16チームが本選に出場することが決まりました。予選通過率は10%弱という狭き門です。
- Shanghai Jiao Tong University
- Sun Yat-sen University
- Dalian University of Technology
- Beihang University
- National Tsing Hua University
- Zhejiang University
- Northwestern Polytechnical University
- Huazhong University of Science and Technology
- National University of Defense Technology
- Tsinghua University
- Hong Kong Baptist University
- Boston Green Team (Boston University and Northeastern University)
- Nanyang Technological University
- Universidad EAFIT
- University of Miskolc
- Ural Federal University
ASC16では,LINPACK,HPCGと海面の波の解析のMASNUM,第一原理計算で物質をシミュレーションするABINITとミステリーアプリが出題されます。また,Deep Learningによるスピーチ認識もe Prizeの課題として出題されるとのことです。本選は4月18日から22日に掛けて中国の武漢の華中科技大学で開催される予定です。
ルールはStudent Cluster Competitionとほぼ同じですが,機器はInsper Groupが提供するとのことです。
6.Mellaoxが50Gbpsのシリコンフォトニクスをデモ
2016年3月22日にMellanoxは,50Gbpsの光変調器と光検出器のデモを発表しました。4レーンを束ねると200Gbpsとなり,次世代のHDR InfiniBandを実現する技術を開発したことになります。
次世代の速度をいち早く提供することで,IntelのOmni Pathの追撃をかわそうといういう作戦です。