最近の話題 2016年4月2日

1.米国司法省がAppleに対するiPhone解読に対する協力の訴えを取り下げ

  San Bernardino郡で発生した乱射事件の犯人のiPhoneのメールの解読が捜査上必須という理由で,FBIがAppleに対して解読可能なOSの作成を求めて,Appleを訴えていました。しかし,それは多数のiPhoneユーザの不利益になるということでAppleは拒んでおり,裁判になっていました。

  これに対して,2016年3月28日のEE Timesが,FBIがAppleの助けなしに解読に成功したので,米国司法省が訴えを取り下げたと報じています。

  しかし,2016年3月29日のFortuneは,米国政府は,どのようにして解読したかを公表しないと報じています。

  この解読ですが,多くのメディアでは,日本のサン電子の子会社でイスラエルにあるCellebrite社が解読方法を提供したと報じています。しかし,Cellebriteの幹部は関与を認めていません。もちろん,協力したとしてもFBIから口止めされているのでしょう。

  The Inquirerは以前に報道したアンチウィルスのMcAfeeの創始者のJohn McFee氏の提案の方法を使っているのではないかと書いていますが,私としては,iPhoneのメモリをコピーするという方法が使われたのではないかという推測の方が正しいのではないかと思います。

  iPhone解読の問題は,間違ったパスワードを一定回数入力すると,メールデータ自体が消去されてしまうという点です。従って,メモリの内容を吸い上げて置いて,正しそうなパスワードを試し,メモリが消されてしまったら,吸い上げたデータでメモリを復元して,また,別のパスワードを試すというトライアルを繰り返せば,その内には正しいパスワードが見つかります。iPhoneを1000台使って,並列にサーチすれば,それほど時間はかからないと思います。

  Cellebrite社はモバイルデバイスの鑑識技術に優れた会社とのことですから,iPhoneを物理的に開けて,メモリの内容を吸い上げて,必要に応じて復元するくらいはお手の物ではないかと思うのが,私が,Cellebrite説を信じる理由です。

2.LLNLが16チップのTrue Northシステムを運用開始

  2016年3月30日のThe Registerが,LLNL(ローレンスリバモア国立研究所)が,IBMから16個のTrue Northチップを使うシステムを受け取り,研究での使用を始めると報じています。

  TrueNorthは,IBMがDARPAの助成金などを受けて開発したニューロンチップで,ワンチップに256M個のニューロンとニューロン間をプログラマブルに結合する4B個のシナプスを集積したチップです。チップのトランジスタ数は5.4Bと発表されています。

  神経系と同様に,入力パルスの量が一定値を超えるとパルスの出力を出すというタイプの回路を使っており,チップ1個の消費電力は70mWと非常に小さくなっています。そして,16チップのシステム全体の消費電力は2.5Wとのことで,チップが半分,それ以外の部分の消費電力が半分程度となっています。

  
IBMは,昨年のHot ChipsでTrue Northを発表し,画像認識のデモを見せましたが,これなら多くのDeep Learningシステムでもできそうな感じで,何ができるのか,あるいはGPUなどを使うDeep Learningに比べてどのような長所があるのかなどを研究しようということだと思われます。

3.最大22コアのBroadwell-EPが登場

  登場が遅れていたBroadwellラインの最上位のBraodwell-EPがXeon E5-2600 v4として発表され,2016年3月31日のThe Registerが 詳細を報じています。前世代のXeon E5-2600 v3(Haswell-EP)は最大18コアであったのに対して,Broadwell-EPは,14nmプロセスに移行して最大22コアを集積します。そして,LLCの最大容量が45MBから55MBに増加しています。それからDRAMはDDR4-2400をサポートしています。

  なお,22コアで2.2GHzクロックのE5-2699 v4は,消費電力145Wとなっています。一方,高クロックの製品では4コアで3.5GHzクロックで135Wと言う製品があり,低電力では10コア1.8GHzクロックで55Wという製品があります。

  ブロック図を見ると,6コアの列が4列あり,2列12コアを単位としてリングバスで接続しています。そして2つのリングの間を2つの双方向のバスブリッジで繋いでいます。24コアを搭載しているのですが,不良コアを許容して歩留まりをあげるため,2コアはスペアになっています。メモリやI/Oとの接続は12コアのグループごとに持っているという図になっています。

  また,ここでは割愛しますが,色々な性能改善アーキテクチャが組みこまれています。

4.IoT用のオープンソースコアPULPino

  2016年3月31日のEE Timesが,スイスのETH Zurichとボローニャ大学が開発しているPULPinoと呼ぶオープンソースのプロセサコアについて報じています。PULPinoはその名が示すように,PULP(Parallel Ultra Low Power)プロセサの小型の派生版で,PULPが4コアであるのに対してPULPinoは1コアです。また,コアは4段のインオーダパイプラインで命令やデータメモリの構造も簡単になっています。

  この仕様からわかるように性能ではなく,消費電力を抑えてバッテリ動作させるプロセサを目指しています。PULPinoの演算命令はUC Berkeleyが開発しているRISC-Vと一致させているとのことです。RI5CYというこのコアは,1IPC程度の性能で,ARMのCortex-M4と同レベルの性能とのことです。

  PULPinoは65nmのCMOSプロセスで作られ,今年の1月にテープアウトしています。このチップは,電源1.2V,400MHzクロックで動作させた場合の消費電力は32.8mWとのことです。FreeRTOSなどのOSが動かせるように,それに必要な特権命令をもっています。

  PULPinoのライセンスは非常に自由度が高く,ライセンス料も無料ということから,linuxのように広く使われる可能性を持っています。また,オープンソースということから,独自の拡張も可能です。

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