最近の話題 2016年4月23日

1.論理回路のソフトエラー対策が必要か?

  2016年4月21日のPC Watchに,福田さんがQualcommらがIPRSで論理回路のソフトエラー対策を発表したというレポート記事を書いておられます。IPRSは信頼性関係では最も格の高い学会で,与太な論文が通る筈もない学会ですが,このQualcom等の論文は,ちょっと解せません。

  論理回路のエラーと言いながら,代表的な論理素子のDフリップフロップのエラーを調べています。NANDやNORなどの組み合わせ回路の場合は,出力ノードに放射線が当たって状態が反転しても,入力は変わらないので,徐々にOnになっている方のトランジスタを通して充電されて元の電位に戻ってしまいます。このため,組み合わせ回路の放射線ヒットがエラーになるのは,その一時的なエラーが伝播して次の段のFFにラッチされた場合で,FFが入力をサンプルしてラッチするタイミングで,ヒットによるノイズがラッチの入力に到着しなければなりません。

  しかし,D-FFはSRAMセルなどと同様,記憶回路で,ヒットとラッチのタイミングには無関係にヒットによるノイズがある閾値より大きければエラーを記憶してしまいます。これが組み合わせ回路に比べて記憶回路のソフトエラー率が高い理由です。

  純粋な組み合わせ回路の場合,ヒットによるノイズの発生タイミングから,充電による回復までの時間の長さが問題になります。また,ヒットでノイズが発生したゲートから何段もゲートを通過するとノイズ波形がなまってきて,ノイズのピーク値が閾値を下回ってしまってエラーになりません。この2つのマスキング効果があり,組み合わせ回路のソフトエラー率は,その分低くなります。

  この論文で言っている違いは,SRAM内部のインバータはサイズが小さく衝突断面積は小さいけれど,寄生容量も小さいので,小さい電荷でも反転する。論理回路のインバータはサイズが大きく,衝突断面積が大きい。しかし,寄生容量は大きく,大きな電荷でないと状態が反転しない。この電荷の発生と,エラーになる電荷量のバランスがSRAMとINVで作ったFFで違うという話で,純粋な組み合わせ回路でソフトエラーがどの程度問題かという話にはなっていません。

  論理回路で作るD-FFのソフトエラーを防ぐという話なら,1ノードだけで状態を保持するのではなく,2ノードで状態を記憶し,一方がヒットでエラーになっても,もう一方のノードの状態から正しい値を回復できるという回路がいろいろと発表されていますので,これを使えばよいという話と思います。多少,オーバヘッドはありますが,この論文で言われているほど大きくはありません。

  これって,何か私が誤解しているのでしょうか?

.Samsungは14nmの低コスト14LPCプロセスを提供予定

  2016年4月22日のEE Timesが,Samsung SemiconductorのファウンドリマーケティングのシニアディレクタのKelvin Low氏の話を報じています。

  それによると,14 LPCというローコストの14nmプロセスの開発を進めており,今年中には提供されるとのことです。具体的にどの部分でステップを省いて低コスト化しているのか,どの程度,安くなるのかなどは明らかにされていません。14LPCのPDK(Process Design Kit)は14LPPと同じとのことですから,14LPPと同じ設計で,同じ性能が出るものと思われます。14nm FinFETのプロセスが安くなれば,使い易くなります。

  そして,10nm世代では,最初の10LPEに続く10LPPを提供するとのことです。10LPPはLPEに比べて10%の性能向上としています。TSMCは10nmプロセスは中継ぎ的な位置づけで短期間で7nmに移るというロードマップですが,Samsungは10nmプロセスは,もっと長期間使われるものになるとしています。

  また,SamsungはFD-SOIの生産も拡大するとのことです。

3.AMDがZenコアを中国にライセンス

  2016年4月21日のEE Timesが,AMD がx86サーバ用のZenコアを中国のTianjin Haiguang Advanced Technology Investment Co., Ltd.(THATIC)に$293Mでライセンスすると報じています。この金額には,中国のJVが次世代のサーバ用SoCを製造するためのデザインサービスの費用も含まれています。

  しかし,それ以外の契約の詳細は明らかにされていません。

  AMDはIntelとx86に関するクロスライセンス契約を結んでいましたが,2015年の更新が行われていないそうで,THATICへのライセンスにIntelが文句を付ける可能性もあります。

  AMDは赤字で,中国からお金が入り,中国本土への足掛かりができることは望ましいことでしょう。

4.Qualcommは韓国と中国へのライセンス契約を獲得

  Qualcommのライセンスについて2016年4月21日のEE Timesが報じています。3月27日締めのQualcommの2Qの決算は収入が$1.2Bで,これは前期と比べると19%減ですが,前年同期比では11%増で,好決算です。。

  加えてQualcommは,韓国のLGとの契約紛争を調停で決着をつけ,ライセンス料が入るようになりました。また,中国のHisenseとのライセンス交渉をまとめました。中国のメーカーはQualcommの通信技術をライセンスを払わずに使っているところも多く,大手の一つであるHisenseがライセンスの支払いに応じたことで,これらのメーカとの交渉も有利に進められることになります。

5.ASC16は華中科技大学が優勝

  2016年4月22日のHPC WireがASC Student Supercomputer Challenge 2016の結果を報じています。ASC16には175チームが参加し,予選を勝ち抜いた16チームが武漢に集まり,4月22日に本選が行われました。

  優勝は,ASC16をホストした武漢の華中科技大です。華中科技大はディープラーニングでスピーチ認識を行うという課題のe Prizeも獲得しています。ASC16の第2位は上海の交通大学です。LINPACK最高性能は,浙江大学で,12.03TFlopsをマークしています。

6.フランスが産業界の強化のため,1.4PFlopsのスパコンを設置

  2016年4月20日のHPC Wireが,フランスのCEA(原子力庁)がフランスを代表する13社と協力して,研究開発を加速するCOBALTと呼ぶスパコンを設置すると報じています。

  COBALTはXeon E5-2680 v4プロセサを使うスパコンで,約1.4PFlopsのピーク性能を持ちます。稼働時期は2016年の中頃となっています。

  COBALTには2304個のXeon E5-2680 v4が使われ,2.4GHzクロックのコアが32,256個あることになります。さらに,NVIDIAのPascal GPUを持つ18個のノードが付けられ,これらはリモートコンピューティングと可視化に使われます。また,France Génomique projectに使われるXeon E5 4032コアのパーティションと3TBのメモリを持つ大メモリノード4ノードが接続されます。システムのノード間接続には100GB/sのEDR Infinibandが使われます。

  ストレージはSeagate製で,容量は2.5PB,スループットは60GB/sとのことです。

7.Intelが12,000人の人員削減を発表

  Intelが全従業員の約11%にあたる12,000人の人員を2017年の半ばまでに削減するというニュースは一般紙でも報道されていますが,ここでは2016年4月20日のPC Watchを引いて紹介します。Intelのビジネスの中心はパソコン用のプロセサであるのですが,伸びが鈍化してきており,ビジネスを転換しないと,この先は危うい。ということで,データセンターおよびIoTを含むクラウドに接続された各種コンピューティングデバイス全体に変えるという戦略に転換するという方向性を打ち出しました。

  これにより,余剰となる12,000人を削減するとのことで,第2四半期に12億ドルのリストラ費用を計上します。また,これにより,2017年半ばまでに14億ドルの経費削減が見込めるとしています。

  2016年4月4日のWall Street Journalが,PC プロセサ部門を担当していたKirk Skaugen SVPの辞任を報じています。また,IoT部門の責任者であったDoug Davis SVPも辞めるとのことです。直接の関係があるとは言われていませんが,当然,今回の大量リストラと関係があるものと思われます。


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