最近の話題 2016年11月19日

1.第48回Top500

  2016年11月14日に第48回のTop500が発表されました。1位の太湖の光から4位までは前回から変動はありません。第5位にはローレンスバークレイ国立研究所のColiが入り,第6位に東大と筑波大が共同で運営するOakforest-PACSが入り,京コンピュータは7位に後退しました。ということで,京コンピュータは国内でも2位となっています。

  そして,8位には,スイスのPiz Daintが入っています。Piz Daintは前回も8位だったので,そのままでは10位に下がる筈ですが,CPU,GPUともに入れ替えて性能を引き上げて8位をキープしています。

  5位のMiraと6位のOakfprest-PACSは,どちらもIntelのXeon Phi 7250を使うスパコンです。Oakforest-PACSはピーク演算性能が24,913.5GFlopsに対して,LINPACKが13,554.6TFlopsとなっており,ピーク比率が54.4%と低いので,何故と関係者に聞いてみると,Top500のリストに載っているピーク性能は,定格の1.4GHzクロックでAVX2の演算器が動いた場合の値になっているのですが,実際は,AVX2は消費電力が大きいので,クロックを下げて動かすようになっている。このため,もともと,実際のピーク性能が20%くらい下がっているとのことでした。

  5位のMiraも同様ですが,Miraの方がピーク比率は若干高めです。一方,Xeon Phi 1個あたりの消費電力は,Miraの方が高くなっています。Miraの方はCrayのXC40であるのに対して,Oakforest-PACSは富士通のPRIMERGY CX1640 M1とメーカーが違い,インタコネクトも違うことから,この差が出ていると思われます。

  8位のPiz Daintと28位のSATURNVはNVIDIAのP100 GPUを使っています。SATURNVはNVIDIAのDGX-1クラスタで,ディープラーニングでガンの治療法を見つけるなどのMoonshot級の目標を狙うということから,月着陸船を打ち上げたSaturn Vロケットの名前が付けられています。このSATURNVは性能/電力が9.46GFlops/Wで,Green500の1位となりました。Piz Daintの方は,7.45GFlops/WでGreen500 2位となっています。その結果,前回1位の理研の菖蒲は3位となりました。

2.今年のGordon Bell賞は中国チームが受賞

  今年のGordon Bell賞は,Top500でぶっちぎりの性能の太湖之光を擁する中国チームが,3件の候補論文を出し,受賞の可能性が高かったのですが,やはり,中国チームが受賞しました。論文発表を聞いてみて,金属の凝固などをシミュレートするPhase Fieldの論文と,気象解析のImplicitソルバの論文のどちらかと思ったのですが,Implicitソルバの方がGordon Bell賞を受賞しました。

  Phase Fieldの方が,50PFlopsという実効性能を出していて,派手だったのですが,8PFlops程度でしたが,計算の難しいImplicitソルバの方が,高く評価されたようです。

  天河2号の時は,Gordon Bellの候補論文は出なかったのですが,今回は3件ということで,アプリの開発でも,中国が急速に力を付けていると感じられます。また,発表の英語は,日本人より上手かったと思います。

3.Microsemiが同社のFPGAにRISC-Vソフトコアを提供

  2016年11月17日のEE Timesが,Microsemiが同社のFPGAのRISC-Vソフトコアを提供すると報じています。

  RISC-Vは,U.C.Berkeleyの先生が作ったRISC命令セットで,コミュニティーでプロセサIPの設計が行われえています。ARMやMIPSはライセンス料を払う必要があるのに対して,RISC-Vはライセンスフリーで使えます。また,Microsemiの場合,RTLの形で提供されるので,改造することもできます。

  FPGA向けに提供されるRV32IMコアは5段のパイプラインを持ち,MicrosemiのSmartFusion2 FPGAを使って100MHzクロックで動くものを合成すると,1.1 Dhrystone MIPS/MHzの性能が得られるとのことです。このコアは,12Kロジックエレメントで作れるそうです。

4.QualcommがSamsungの10nmプロセスの使用を発表

  2016年11月17日のEE Timesが,QualcommのSamsungの10nmを使ってSnapdragon 835を量産すると発表したと報じています。既に量産を開始しており,2917年の前半に製品として出荷されるとのことで,AppleやMediatekを抜いて,10nmプロセスを使う最初のモバイルフォンSoCになりそうです。

  また,Qualcommは,Snapdragon 835やLTEなどのチップのセキュリティーホールを最初に見つけた人に,$15,000を払うと発表しました。

5.IC Insightsが2016年の半導体売り上げの予測ランキングを発表

  2016年11月17日のEE Timesが,IC Insightsの2016年の半導体売り上げ予測の上位20社のランキングを報じています。それによると,1位はIntelで$56.3B,2位はSamsungで$43.5B,3位はTSMCで$29.3Bとなっています。4位はQualcommで$15.4B,5位はBroadsomの$15.3Bと続いています。

  売り上げが大きく伸びたのはNVIDIAで,2015年から35%増えて$6.3Bという予想です。データセンタへのGPUの売り上げやADAS(運転補助)などの分野で売り上げが伸びていると見られます。その次に伸びが大きいのはMediaTekで,29%の伸びで,$8.6Bになると見られています。中国のスマホメーカーへの売り上げが伸びていると見られます。2015に比べて,両社ともにランキングを2つ上げています。

  一方,落ち込みが大きいのはSKHynixで,15%の減少で,4位から6位と2つランクを落としています。

6.自動車向け半導体の開発力の争奪戦

  2016年11月14日のEE Timesが,SiemensがMentor Graphicsを$4.5Bで買収し,SamsungがHarmanを$8Bで買収すると報じています。

  Mentor GraphicsはEDAの会社ですが,Siemensは,市場拡大が見込まれる,半導体の設計,シミュレーション,製造能力の強化のために,Mentor Graphicsを買収すると見られています。

  Samsungは,自動車向けの半導体は殆ど作っておらず,次の巨大市場と見られる車載の分野に進出しようということで,Harmanを買収しようとしています。Harmanは,年間の売り上げが$7Bの車載のインフォテイメントの大手で,車のインタネット接続機器も手掛けています。

  Harmanは,ジープに搭載された同社の装置から,ハッカーの侵入が可能であることが示されてから,セキュリティー会社の買収も行って能力を蓄積しています。

  というところから,新市場への進出を狙うSamsungが買収に動いていると見られます。


  

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