最近の話題 2017年5月6日


1.2017年度の米予算は,科学技術関係の支出を維持

  2017年3月18日の話題で紹介したように,トランプ大統領は科学予算を大幅にカットする予算案を示したのですが,2017年5月4日のHPC Wireが,議会で合意が成立した予算は,科学技術関係の支出を維持し,エクサ関係の予算は増額と報じています。

  まず,DOEのOffice of Scienceの予算は昨年度から$43M増えて$5.39B,Exascale Computing Projectは合計で$259Mの予算がついています。トランプ大統領がカットを提案したARPAのエネルギー関係の予算は5.2%増,NSFの予算は微増ですが,$9M増えて$7.46B,NASAは1.9%増えて$19.65B,$6Bの削減であったNIHは6.2%にあたる$2Bの大幅増で$34.1Bとなっています。

  割を食ったのが,トランプ大統領に目の敵にされたEPAで,約1%に当たる$81Mの削減です。しかし,$2.6B削減というトランプ大統領の提案に比べれば,ずっと少ない減額です。

  この予算案は下院,上院を通過し,トランプ大統領も署名する意向とのことです。

2.ImaginationがMIPSとEnsigmaの切り売りを検討

  2017年4月8日の話題で紹介したように,AppleがImaginationのPowerVR GPUのライセンスを止めて自社開発に切り替えるといういうことで,Imaginationは色々とAppleと話し合っているようですが,はかばかしくないようです。そのため,ImaginationはプロセサのMIPSと通信関係のIPをライセンスするEnsigmaを売却することを検討していると2017年5月4日のEE Timesが報じています。

  MIPSは,John Hennesy教授が創立者の一人になっているプロセサ界では由緒正しい名門ですが,ARMなどに押されて,Imaginationに買収されていました。ImaginationはMIPSとEnsigmaを加えてライセンスするIPの幅を広げてARMを追撃する作戦だったのですが,背に腹は変えられず,業績が向上してきたとは言え,まだ赤字のMIPSとEnsigmaを売却しようということです。

  MIPSの買手ですが,長い歴史があり,ツールなども揃いエコシステムが出来ているプロセサですから,Cadence,Mentor,Synopsysなどの大手IPベンダーが買う可能性がありますし,MIPSを使っている中国勢が買うという可能性もあると見られています。

  なお,MIPSはBridge CrossingというIT関係の大手企業が出資して作られた特許管理会社に特許の大半を売却しており,特許と言う面では殆ど価値は無いとのことです。

  2017年度前半のMIPSの売り上げは64.4Mポンドで,内訳は,PowerVRが43.3Mポンド,MIPSが16.7M,Ensigmaが4.4Mで,利益はPowerVRが16.3M,MIPSは0.8Mポンドの赤字,Ensignmaは2.2Mの赤字です。前年同期は2.3Mと5.5Mの赤字であったので,ロスは減っているのですが,この2つのビジネスは,まだ,赤字の状態です。

  この2つのビジネスの売却はImaginationの財務にとってプラスですが,これだけで済むと見る向きは少なく,いずれImagination本体の身売りが必要という見方が多いようです。


3.SiFiveが有料のサポート付きのRISC-Vを発表

  2017年5月4日のEE Timesが,SiFiveのサポート付きのRISC-Vの発表を報じています。RISC-VはU.C. Berkeleyの開発したRISCアーキテクチャで,無料で,コアの設計などがライセンスされています。SiFiveはRISC-Vの普及の中心的な存在ですが,このほど,32bitアーキのE31コアをサポート付きで$300Kでライセンスし,新設計の64bitアーキのE51コアを$600Kでライセンスするというプランを発表しました。

  E31は既に公開されており,引き続き,同社のWebサイトから無料でダウンロードできます。

  しかし,無料のコアの場合はドキュメントもしっかりしていないので,有料でもサポートが安定したライセンスに対する需要があるとのことで,今回のプランを発表したとのことです。

  Linuxは無料で配布されていますが,有料もでサポート受けられるRed HatのLinuxも使われており,両方の需要はあると思います。

  E31はARM Cotrtex M3クラスのコアで,E51はA53クラスのコアとのことです。どちらもLinuxは使えないのですが,SiFiveは今年中にLinuxを動かせるU54をリリースする計画となっています。

4.IntelがXeonファミリーを見直し

  2017年5月4日のEE Timesが,IntelがXeonを再定義すると発表したと報じています。発表したのは,vice president and general manager of the Intel Xeon Products and Data Center Marketing Groupの肩書のLisa Spelman氏です。

  光リンク,Omni-Pathなどのファブリックからネットワーク,NervanaのDeep Learning向けやXeon Phiアクセラレータ,SSD,FPGA,まで,各種のコンポーネントがより良くXeonと繋がって動作するようにするとのことですが,具体的な話は無く,どこまで実態があり,どこまでがマーケティングなのか良く分かりません。

  はっきりしていることは,Xeon E5とE7という区分は無くなり,Xeon Platium,Xeon Gold,Xeon Silver,Xeon Bronzeになるという点だけです。

  2017年5月5日のSemiAccurateでCharlie Demergian氏は,巨大データセンタの顧客への売値をつりあげる目的でしかないと述べています。これらのティア1の顧客は,Intelが発表する定価の数分の1しか払っておらず,Intelとしては実質値上げして利益を増やそうという魂胆のようです。

  また,IntelのData Center GroupのGroup PresidentのDiane Bryant氏が6~8か月休職するのに伴い,Client Computing GroupのGMのNavin Shenoy氏がDCGのGMを務めると発表されました。


5.Facebookが傘下のVRフィルムスタジオを閉鎖

  2017年5月5日のThe Registerが,Facebookの傘下のOculusがVRフィルムを作成するStory Studioを閉鎖すると報じています。

  Oculusは3月に,Riftヘッドセットとタッチコントローラを$798から$598に値下げしていますが,どんどん売れているならば,値下げで販売量を増やすという動きは考えにくく,VRゴーグルは売れていないようです。

  また,VR関係のスタートアップもバタバタと潰れており,Best Buyの売り場も閉めているようです。そして,調査会社も2016年に2M台と言うゴーグルの出荷量予想を,1.2M台に切り下げたそうです。

  VR酔いという技術的な問題もありますが,筆者は,VRフィルムを作るコストは高いので,それでペイするアプリケーションでないとVRは使われないと思っています。ジェットエンジンの保守とか,外科手術の手順検討とか,VRフィルムの作成にお金を掛けられる分野は良いのですが,開発コストを回収できるだけのボリュームが出るアプリケーションはあまりなく,特に,ゴーグルが出回っていない現状では,鶏と卵の関係です。

  その点では,表示はスマホを使い,ボール紙でゴーグルを作るようなアプローチでユーザを増やすことは必須のように思います。それでも立体TVのように,普及しないかも知れません。


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