最近の話題 2017年9月16日

1.GMOインターネットが7nmチップを開発しマイニング事業に参入

  2017年9月14日の日経テクノロジーonlineが,GMOインターネットがマイニング用チップを開発し,マイニング事業に参入すると報じています。

  ビットコインなどのマイニングはSHA256という1方向ハッシュ関数を使って,トランザクションのブロックヘッダをnonceを変えてハッシュして,その値がある値以下になるとマイニング成功となり成功報酬が与えられます。マイニングに成功するかどうかはランダムですから,コインを得られる確率はSHA256関数を計算する回数に比例します。従って,SHA256関数の計算速度が問題になります。

  そこで,GMOインターネットは,7nmプロセスを使ってSHA256関数を,高いエネルギー効率で速く計算するASICを作り,巨大なマイニングデータセンターを電力費や冷却コストの安い北欧に建設して,マイニングの単価を下げて他社より優位に立とうという作戦です。

  このSHA256関数を計算するLSIですが,日本国内の提携企業で開発するとのことです。7nmのLSIは8Tハッシュ/s以上の性能を持ち,消費電力は300Wとのことです。このLSIを使って,システム全体の規模は400ラックで500Pハッシュ/秒という巨大サイズです。

  国内開発・国内製造と書かれていますが,設計はともかく,ウエファの製造は国内では難しいと思われます。提携企業ですが,日経テクノロジーは,7nm LSIの開発計画を持ちTSMCと顔の繋がっている富士通とPEZYが候補と推測しています。

  富士通は京コンピュータで,この規模のシステムの開発実績があり,ポスト京の受託企業でもあり,このシステムを作る力があるのは明らかですが,筆者は,富士通が国策でもないこのようなシステムを引き受ける可能性はほぼゼロだと思います。一方,PEZYグループですが,JAMSTECに国内トップクラスのスパコンを建設中ということを日経テクノロジーが報道しており,引き受ける可能性はあると思います。そして,48V直流給電はPEZYグループのExaScaler社がZettaScaler 2スパコンで開発している技術です。また,ブレードという単位は160TH/sで8kW以下で,ラックには8ブレード搭載とのことで,64kWラックとなると,空冷での冷却は難しく,PEZYグループの液冷を使うという可能性も考えられます。すべて状況証拠ですが,PEZYグループが提携企業である可能性は高いように思われます。

  それから日経テクノロジーも書いていますが,SHA256関数を計算するLSIは単純なゲートだけで作ることができ,DRAMインタフェースや高速シリアル通信などの難しいマクロは必要ありません。また,SHA256の計算は独立に行うことができるので,ブレードやラック間の通信はほとんど必要ありません。従って,スパコンのように強力なノード間通信ネットワークも不要です。また,スパコンのように各種のアプリはおろかコンパイラを開発する必要もありません。ということで,比較的少人数で開発でき,PEZYグループの手に負えるレベルの開発で収まる可能性があります。

2.TSMCがロードマップのアップデートを発表

  2017年9月14日のEE Timesが,TSMCの半導体プロセスロードマップのアップデートの発表を報じています。今回のアップデートの目玉は,N7+という7nmプロセスの発表です。TSMCは,既にN7という7nmプロセスを発表しているのですが,N7+は露光にEUVを使うというところが新しいところです。TSMCはEUV露光でデザインルールは簡単になり,移行は容易としています。このN7+プロセスは2019年にも量産とのことです。

  そして,N7+はこれまでのN7に比較して20%高い密度,8-10%速い速度,15-20%低い消費電力が得られるとのことです。また,現在主力の16FFCプロセスと比較すると,ARM72コアの場合,30%高速,50%低い電力になるとのことです。

  TSMCは12FFCプロセスも開発しており,このプロセスは6トラックのセルライブラリを開発しており,この効果も含めると,16FFCに比べて面積で14-18%縮小,スピードで5%の改善が得られるとしています。量産は2019年の予定です。しかし,NVIDIAのVoltaは12FFCを使っており,一部ユーザのリスク量産はすでに始まっているようです。また,N7プロセスも今年中には10種以上のチップのテープアウトを受け付ける予定とのことです。

  また,TSMCは22nmのUltra Low Leakage(ULL)プロセスを発表しました。これは今年の3月に発表されたもので,5Gの無線やIoTの低電力化を狙ったプロセスです。

3.AppleがiPhone Xを発表

  2017年9月12日のEE Timesが,AppleのiPhone Xの発表を報じています。今回は,新本社のSteve Jobs Theaterで発表会が開催されました。

  iPhone Xに加えて,iPhone 8,iPhone 8 Plus,さらに,第3世代となる新しいApple Watchも発表されました。iPhoneの3機種とも,新しいA11 Bionic SoCを使っています。A11 Bionic SoCは現在のA10 Fusionに比べてかなり性能が上がっており,加えてAIをサポートするニューラルエンジンを搭載し,内蔵GPUはImagination Technologiesの設計ではなく,Apple社内開発のGPUを搭載しています。

  A11のCPUは64bitアーキテクチャのコアを6個集積し,総トランジスタ数は4.3Bとなっています。2個の高性能コアはA10のコアと比べて25%高速で,4つの高効率コアは70%効率が高いとのことです。そして,顔認証を行っているニューラルエンジンは,600Gopsの演算性能とのことですが,演算精度は不明です。

  Tim Cook CEOはiPhone発売以来の最大の飛躍と述べていますが,どうもそのメインは,これまでの液晶に替えて,OLEDディスプレイを採用したことを指すようです。コントラストが100万対1とのことで黒が冴える表示になると思われます。そして,ヒューマンインタフェースは,指紋から顔認証に変わり,ホームボタンがなくなり,全面がディスプレイになった点が大きな変更です。顔認証ですが,iPhone Xは,通常のカメラ以外に,Structured Cameraなど各種のセンサーを搭載しており,写真を見せて騙すような手は通用しないようです。

  iPhone 8は$699,iPhone 8 Plusは$799とこれまでの製品と同程度の値段ですが,iPhone Xは$999からというお値段です。iPhone 8と8 Plusは9月22日から,iPhone Xは11月3日からの発売です。Appleは高価格プレミアム路線を貫く考えです。

  Apple Watch Series 3は,携帯網に直接接続できる機能が新しく,お値段は$399です。なお,携帯網との接続機能がないバージョンは$329です。


4.AppleのiPhone Xは,Qiワイヤレス給電を採用

  2017年9月12日のThe Resiterが,AppleのiPhone XとiPhone 8,8 PlusのQiワイヤレス給電システムの採用を報じています。ワイヤレス給電では,Airfuel AllianceとWireless Power Consortiumがデファクトスタンダードの地位を争っています。どちらも多数のメンバーを抱えているのですが,スマホメーカーはWireless Power Consortiumの方が多い感じです。

  ここで,AppleがiPhoneでWPCのQiシステムを採用したことは,WPCにとって大きな勝利で,デファクトスタンダード争いに決着がつくことになるかも知れません。


5.DARPAがポストムーア時代に向けた開発に$300Mの拠出を決定

  2017年9月14日のHPC Wireが,DARPAがElectronics Resurgence Initiativeに$300Mの拠出を決めたと報じています。ポストムーアの時代のエレクトロニクスの開発の方向を探るという研究です。初年度の予算は$75Mで,4年間で$300Mという見込みですが,後年度の支出はプロジェクトの進行によります。

  研究分野は,物質とインテグレーション,デザイン,新規コンピューティングアーキテクチャの3分野で,物質とインテグレーションでは,3DモノリシックSoCと新規コンピュートに必要な基礎という2つのテーマが上がっています。デザインでは,エレクトロニック アセットのインテリジェントな設計というテーマは,ミックスドシグナルのSoCを無人で24時間でレイアウトするというテーマが上がっています。そして,デザインのもう一つのテーマは,Posh Open Source Hardwareで非常に複雑なSoCを効率的に設計する方法を研究します。

  新奇コンピューティングアーキテクチャでは,Software Defined HardwareとDomain Specific System on Chipというテーマが上がっています。Software Defined Hardwareでは,コンパイラが問題を解析した結果に基づいて,ハードウェアを密行列の計算用に作るか,疎行列の計算用に作るかを変えるような,問題に適したハードウェアを生成するようなことが考えられています。Domain Specific SoCの方は,一つのプログラマブルなハードウェアで問題のドメインに適したハードウェアを作るということで,似ている気がしますが,実際,どんな研究が提案されるかは,これからの応募ということになります。

6.確認情報:Oracleが元Sunのキャンパスから964人をレイオフ

  2017年9月12日のThe Regiserが,元Sunのサンタクララのキャンパスから964人がレイオフされたと報じています。これは,カリフォルニア州のWorker Adjustment and Retraining Notification(WARN)に基づく申請として出されたもので,公式な情報です。また,サンディエゴのオフィスからもレイオフがあり,合計では1008人のレイオフが通知されています。

  また,レイオフのニュースの後にOracleが発表したプロダクトロードマップでは,2017年に予定されていたSolaris.nextが2018年に遅れているとのことです。また,Oracle Open Worldのプログラムでは,Lift and Shift Your Oracle Solaris Workload to the Oracle CloudとかVirtual SPARC on x86: Your Legacy Solaris Apps Survive on an x86 SPARC emulatorなどという発表が並んでおり,クラウド上のSolarisアプリの実行と,x86上のSPARCエミュレータに誘導しようという意図のように見えます。

  また,9月12日のThe Registerの別の報道では,Oracleのヨーロッパのハードウェアサポートはルーマニアに集約され,その他の国のサポートスタッフは,今年の末までに,大量に解雇されるとのことです。


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