最近の話題 2017年9月23日

1.天河2号が94.97PFlopsにアップグレード

  2017年9月20日のTop500 Newsが天河2号の94.97PFlopsへのアップグレードを報じています。天河2号は,現在,54.9PFlopsで太湖の光に次ぐTop500 2位のシステムですが,このほど,ほぼ2倍の性能の94.97PFlopsにアップグレードされたとのことです。

  元々,天河2号は,使用しているKnights Cornerアクセラレータを次世代のものに替えてアップグレードすることが予定されていたのですが,システムが軍事目的にも使用されているという理由で,米国からのチップの輸出が禁止されてしまいました。このため,中国は自力でアクセラレータを開発するという計画に切り替えました。

  そうして作られたのがMatrix 2000というGPDSP(General Purpose Digital Signal Processor)です。Matrix 2000は,128コアからなり,各コアは1サイクルに16DP演算を行うと書かれています。そして,Knights Cornerが1TFlopsであったのに対し,Matrix 2000は2.4576TFlopsとのことですから,クロックは1.2288GHzということになります。

  なお,アクセラレータはMatrix 2000チップを使うものと置き換えられたのですが,Xeon CPUの方は,これまでのものを継続して使います。

  そして,アップグレードされた天河2Aは,ノード数を16,000から17,792に増やしています。また,インタコネクトがTH-Express-2+となり,速度が10Gbpsから14Gbpsに向上し,レーテンシは1.57usから1usに短縮されています。メモリ量は1.4PBから3.4PBに増加しており,演算性能の増加より大きい伸びとなっています。

  エネルギー効率は1.9GFlops/Wから5GFlops/W以上と大幅に改善していると書かれています。しかし,システムの消費電力はほぼ同じで,GFlops/Wが2.6倍ということはHPL性能が2.6倍になっていないといけないのですが,現在,33.86PFlopsの2.6倍は約88PFlopsですが,ピークが95PFlopsのマシンにしては少し高すぎる感じがします。

  仮にHPLで88PFlopsが正しいとしても,93PFlopsの太湖の光には届かず,Top500 2位というランキングは変わらないと見られます。

  なお,松岡先生のブログにMatrix 2000のボードなどの写真が載っています。

2.Preferred Networksが4.7PFlopsのディープラーニング用スパコンを設置

  2017年9月20日にPreferred Networksが,4.7PFlopsの演算性能を持つディープラーニング用のスパコンを自社に設置し,9月から稼働と発表しました。NVIDIAのP100 GPUを1024台使用するシステムです。P100はFP32で10TFlopsで,それが1024個ですから,ピーク演算性能は10.24PFlopsですが,ピーク性能が4.7PFlopsというのはFP64での計算でブーストなしということでしょうか?

  システムの構築は,NTT ComとNTTPCが受け持っているようです。

  それはともかく,この規模のスパコンを私企業が設置するのは画期的です。PFNはChainerの高速化を進め,大量の計算資源を必要とする交通システム,製造業,バイオ・ヘルスケア分野の研究開発を加速するとのことで,クラウドサービスで商売にするという使い方ではないようです。

  また,現在使っているGPUはPascal P100ですが,Volta V100の導入も検討予定としています。


3.TeslaがマシンラーニングチップをAMDと共同開発か

  2017年9月21日のEE Timesが,CNBCの報道を引いて,TeslaがAMDと共同開発したマシンラーニングチップをテスト中と報じています。

  AMDでZenコアを開発したJim Keller氏は2016年1月にTeslaに移り,TeslaのAutopilotグループを率いているとのことです。このチップは,Teslaが現在使っているNVIDIAのGPUを置き換えることを意図しているとのことです。TeslaのAutopilotグループは,現在,50人くらいのチームだそうです。

  50人のチームを社内に持ち,なぜ,AMDと提携したのかは良く分かりませんが,AMDのGPUのノウハウを使って開発を加速する可能性があることは考えられます。一方,AMDから見れば遅れているマシンラーニングへの取り組みが加速できるという点で魅力的と思われます。

4.Hewlett Packard Enterpriseが5000人をレイオフか

  2017年9月22日のThe Registerが,Hewlett Packard Enterpriseが5000人のレイオフの発表を準備していると報じています。これはMeg Whitman CEOが6月に発表したHPE Nextイニシアティブに沿ったもので,米国だけでなく,英国などの多くの従業員がいる地域も含むとのことです。この5000人は,HPEの従業員の10%に当たります。

  Meg Whitman氏が2011年にCEOになってから,これまでに10万人を解雇し,PCとプリンタビジネスをHP Inc.として切り出し,アウトソーシング部門やソフトウェアビジネスをDXCとMicrofocusにスピンオフしてきており,HPE Nextはそれに続くものです。

  ソフトウェアとクラウドサービスが利益を上げられるビジネスという業界の常識に反して,SimpliVityやSGIと言ったハード会社を買収するというWhitman氏の経営が問題という指摘もあります。

  50年くらい前,まだ,HewlettさんとPackardさんが経営していたころは,HPは従業員を解雇しないというので有名でしたが,全く,様変わりしてしまいました。

5.東芝はメモリ子会社の売却先としてベインキャピタルを始めとする米,日,韓連合を選択

  2017年9月21日のThe Registerが,東芝がメモリ子会社の売却先としてベインキャピタルを始めとする米,日,韓連合を選択した件を報じています。もちろん,日本のメディアも大きく報道していますので,The Registerをリンクするのは変かも知れませんが,日本のメディアを読んでも分からないことが多いので,多少は違った見方が書いてあるという点でThe Registerを見る意味があると思っています。

  私の理解では,東芝とSandiskは長年NAND Flashについては協業してきて,ほぼ対等に設備投資し,開発も両者が協力してきたと思っています。ということは,東芝メモリの工場は東芝の敷地に建っているとは言え,設備については,Sandisk,ひいてはSandiskを買収したWestern Digitalがそれなりの所有権を持っていると思うのですが,違うのでしょうか?そうだとすれば,Western Digitalが持ち分を売却しないとすると,東芝の持ち分だけで製造が続けられるのでしょうか?

  NAND Flashの半導体プロセスは東芝のエンジニアが中心を担っているのかも知れませんが,相当数のSandiskのエンジニアが開発に参加していた筈です。その人たちが居なくてもNAND Flashの開発を継続することができるのでしょうか?また,このような状態で,東芝のNAND Flashのエンジニアの流出が進んでいるという噂も聞きます。2兆円の都合は付いたけれども開発を行う人が居なくなってしまったということにならないように祈ります。

 Western Digitalが気に入らないというのは分かりますが,長年のSandiskとの協業を反故にするのは難しいのではないかという気がします。


6.AIでパスワードをクラックする

  2017年9月20日のThe Registerが,Stevens Institute of Technologyの研究者の,GAN(Generative Adversarial Network)の手法を使ってパスワードを見つけるという手法の開発を報じています。

  2010年のミュージックサイトRock Youのパスワード流出のケースでは,PassGANというこのAIツールは46.85%のパスワードを正しく推測できたとのことです。また,Linked Inのパスワードも11.53%を当てることができたとのことです。パスワードをクラックするツールとしてはHashCatやJack the Ripperが良く知られていますが,Linked Inのパスワードの正解率はJohn the Ripperでは6.37%で,HashCatが22.9%であるので,PassGANの成績はHashCatには劣るものの,Jack the Ripperよりは良い成績です。

  そして,HashCatとPassGANを組み合わせると,正解率は27%まで向上しています。この結果を得るためには,PassGANは528M個のパスワードを生成しています。しかし,リークしたパスワードのデータがもっとたくさんあり,それを学習すれば,もっと正解率はあがると開発者は述べています。

  覚えやすいパスワードで,それを使いまわすということをしたら,もっと簡単にクラックされそうな気がします。PassGANのようなAIに解読されないようにするには,異なるパスワードを使えば良いのでしょうが,そうするとパスワードを思い出せないという問題があります。PC側で覚えさせてしまえば,思い出せない問題はそのPCではなくなりますが,全ての端末に覚えさせるのか?覚えさせたパスワードのセキュリティーは大丈夫かという懸念があります。

7.オウムがAmazon Echoを使ってギフトボックスを注文

  2017年9月21日のThe Inquirerが,オウムがAmazon Echoを使ってギフトボックス 6個を注文したと報じています。オウムのBuddyは飼い主の女性の会話を聞いていて,飼い主が不在の間にEchoを使って,飼い主の声を真似て注文し,Echoはその声を飼い主と認識して注文を受け付けたとのことです。

  初めは,女性はご主人か8歳の息子が注文したと思ったのですが,調べてみるとオウムが注文したと分かり,大笑いになったそうです。

  オウムは注文したギフトボックスを手に入れ,飼い主の女性は,イギリスの大衆紙Sunからオウムの写真撮影などでお金をもらって,話はハッピーエンドになったとのことです。しかし,The Inquirerは,EchoにちゃんとしたPINを設定しておくことを勧めています。

  


  

  


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