最近の話題 2017年12月23日

1.RISC-V Day in Tokyo

  2017年12月18日に東大で,RISC-V Day in Tokyoという催しが行われました。RISC-VはUC.Berkeleyが開発したオープンでライセンス無し,ローヤリティ無しのプロセサアーキテクチャです。基本部分は出来ているのですが,ベクタ命令やハイパバイザサポートのアーキテクチャなどは現在開発中です。

  基本アーキテクチャのアドレス空間は,32bit,64bitと128bitのものが定義されています。汎用レジスタは32個ですが,32bit空間の場合は汎用レジスタを16個にした縮小版があります。これは非常に軽いコントローラまで視野に入れているからです。

  基本アーキテクチャは整数演算だけで50種以下の命令しか持っていません。この基本アーキテクチャにアトミックメモリアクセス命令の拡張,整数の乗除算拡張,短精度浮動小数点演算の拡張,倍精度浮動小数点演算の拡張,将来は,ベクタ命令の拡張やハイパバイザサポートの拡張などの各種の拡張を選択して付け加えて必要な機能セットを実現するというアプローチをとっています。

  基本セットでもマイクロコントローラとして使える機能があり,一方,倍精度浮動小数点演算やベクタ命令の拡張を付け加えればスーパーコンピュータの命令セットにもなるということで,マイクロコントローラからスパコンまでカバーできる命令セットを目指しています。

  現在のSoCにはいろいろな専用プロセサが集積されていますが,それぞれが異なる命令セットを使っています。しかし,RISC-Vを使えば,一つの命令セットで済み,エンジニアは各種の命令セットを覚える必要が無くなり,開発ツールも1種類で良いというメリットがあります。

  それからRISC-Vには128ビットアドレスの命令セットが,すでに定義されています。Flashを使うストレージにバイトアドレスをつける時代になると,64ビットアドレスでは足りなくなる時代が遠からず来るからです。

  NVIDIAはFALCON(FAst Logic CONtroller)という自前のコントローラを,GPUに使っているのですが,性能も拡張性も不足ということで,先をどうするかを長らく検討してきたのですが,5月の第6回RISC-VワークショップのキーノートでRISC-Vを使うことを発表しました。また,11月末に開催された第7回のRISC-VのワークショップでWestern DigitalのMartin Fink CEOが,HDDやSSDの内蔵コントローラをRISC-Vに切り替えていくことを発表しました。

  NVIDIAのGPUには,現在は10個程度のFALCONコアが使われており1年間の総使用量は500Mコアとのことです。Western Digitalの方は,年間1Bコア程度を使っており,将来的には2Bコアに増えるとのことです。

  両社ともにRISC-Vのコミュニティーに貢献していくと言っており,IPやツールの充実が加速されることが期待されます。

2.IBMが量子コンピュータIBM Qを商用化

  2017年12月14日のHPC Wireが,IBMが量子コンピュータを商用化すると報じています。IBMは20Qubitの量子コンピュータをクラウド環境で使わせていますが,これを商業的に使わせる契約を,JP Morgan Chase,Daimler AG,Samsung,JSR(旧日本合成ゴム),Barclays,日立金属,ホンダ,ナガセと結んだとのことです。

  また,IBMは50Qubitのプロトタイプシステムを完成しており,これも商用化していくと見られます。

  50Qubit程度までは何とか全部のQubitのコヒーレンシを取っているのでしょうが,Qubtの数が増えると全てのQubitのコヒーレンシを取るのは難しくなります。どこまでQubit数を増やすことができるのでしょうね。

  お金をとって使わせるので商用化ですが,まだまだ,ビジネスの規模は非常に小さいと見られています。

3.Jülichスパコンセンターの研究者が46Qubitの量子コンピュータのシミュレーションに成功

  2017年12月18日のHPC Wireが,Jülichスパコンセンターの研究者がJUQUEENと太湖の光スパコンを用いて,46Qubitの量子コンピュータをシミュレートするのに成功したと報じています。

  Quantum MonteCarlo法でのシミュレーションと思われますが,Qubitが1ビット増えると必要なメモリ量が倍増するので,非常に大規模なスパコンでないと46Qubitの量子コンピュータのシミュレーションは出来ません。

  量子コンピュータのソフトの開発には,実機がない状態でも,このようなシミュレータを使って行うことが可能です。しかし,シミュレーションの方法が現在の延長とすると,50Qubitを超えるのはかなり難しそうです。それ以上はIBM Qのような実機が必要でしょうが,前述のように本物のQubitを増やすのも難しい点があるので,これからどのように進むのかは見ものです。

4.AIを騙すFoolbox

  2017年12月18日のThe Registerが,ドイツの研究者がブラックボックスのAIをアタックするFoolboxというツールの論文を発表したと報じています。

  これまでもAIを騙す方法はいろいろと提案されてきたのですが,AIの内部構造の知識を必要とするもので,また,評価関数を非連続にするとアタックできなくなるというような防御ができるアタック法でした。

  これに対して,今回提案された方法は,内部構造に関する知識を必要とせず,入力に対する認識結果だけからAIを騙すことができる方法となっています。

  そして,Clarifaiを使った画像認識の場合では,人間には気が付かない程度のピクセル値を変えるだけで,判定結果を変えることができるとのことです。論文には誰もが知っている商品のロゴの写真を認識するシステムを騙して,これはロゴではないと判定させるという例が載っています。もう一つの例は,俳優などの有名人の写真を認識して誰であるかを判断する例で,別の人名を答えるように誤らせるというものです。

  前者は,何に使えるのか分かりませんが,後者の方は,自分の写真を他人と認識させられれば,他人に成りすましてチェックを潜り抜けることができるかも知れません。

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