最近の話題 2018年1月13日

1.投機実行とその影響の訂正

  しかし,誤って実行した命令がロード命令であると,そのアドレスのデータを読んで,レジスタに格納するという動作は行われてしまいます。そして,そのロード命令の後にそのデータを使うストア命令があると,キャッシュへの書き込みが行われます。誤った実行であることが判明すると,ロード命令によって書き込まれたレジスタは復元され,次のストア命令のデータがメモリに書き込まれることは起こりませんが,キャッシュへの書き込みは実行されてしまいます。

  と書きましたが,「次のストア命令」は間違いです。投機的なストア命令でキャッシュに書き込みを行うと,コヒーレンス機構で他のコアでもアクセスできるようになってしまうので,アーキテクチャとして,キャッシュへの書き込みは投機的には行われず,セキュリティー上の問題は発生しません。

  問題は,そのロード命令の後にそのデータを使うストア命令ではなく,後の命令がロード命令の場合です。この場合は,読むだけですから,投機的な実行を行うことができます。しかし,その時にアクセスした番地がキャッシュに読み込まれ,次のロード命令でヒットする場合は短時間の応答,ミスの場合は長い応答時間という情報抽出は可能です。

  つまり,前に書いたロード,ストアの命令列では問題は起きませんが,ロード,ロードの場合は情報を盗み出せることになり,MeltdownやSpectreは問題ということになります。

2.株主がSpectreとMeltdownを隠していたとIntelを訴訟

  2018年1月11日のThe Registerが,昨年7月27日にIntelの株を買ったElvis Alvira氏が,SpectreやMeltdownの問題を隠して不当に株価を高めていたとして,Intelに対して値下がりによる損失の補償を求めるクラスアクション訴訟を起こしたと報じています。

  Spectreは2017年6月1日,Meltdownは7月28日にGoogle Project ZeroからIntelに通報されていたのですが,確認や対策の検討が秘密裏に行われ,公表は2018年の1月3日になりました。そして,The Registerの報道で,Intelの株がかなり下がりました。

3.AMDが12nm CPUと7nm GPUを含む新ロードマップを発表

  2018年1月8日のEE Timesが,CESで発表されたAMDの新ロードマップを報じています。従来,14nmプロセスで作られていたRyzen CPUをGlobal Foundriesが昨年発表した12nmプロセスにアップグレードするとのことです。また,Ryzen 2の設計が完了したと述べましたが,Ryzen 2の製品化時期は明らかにされませんでした。

  7nmのGPUはマシンラーニングをターゲットとするVega GPUとのことで,NVIDIAのVoltaを追いかけ,追い抜こうという製品と思われます。

  AMDは2月中頃にRyzen CPUとVega GPUを載せた2種のAPUを出荷するとのことです。CPUクロックは3.7-3.9GHzで4コアを集積し,消費電力は45-65Wです。そして,6月にはハイエンドノート向けの3種のAPUを出すとのことです。クロックは3.4-3.8GHzで消費電力は15Wとなっています。これらはIntelのi7-7500Uや-8550Uと比較すると25%-50%高いグラフィックス性能を持つとのことです。

  ノートPCは,CPUとGPUをワンチップに集積したSoCの使用が主流ですが,AMDはこの製品が無く,2017年は苦戦したのですが,これらのAPUが登場するとIntelに対して戦えるようになります。

  AMDのRyzenはプロテクションハードウェアがIntelとは異なり,Meltdownの影響を受けないとのことで,これも多少はAMDのAPUの販売を後押しすると見られます。なお,AMDのプロセサもSpectreの影響は受けます。

4.IntelがHBM2を搭載するFPGAを発表したが…

  旧聞に属しますが,昨年の12月20日のTop500 Newsが,IntelのStratix 10 MX FPGAの発表を報じています。HBM2を2個搭載しているので,従来のFPGAの10倍のメモリバンド幅を持っているというのが売りです。

  しかし,12月19日のSemiAccurateは,弁護士によって,リース文はよく検討されており,嘘は言っていないが,真実を隠すものであると非難しています。書き出しは,Intel unveiledで,ベールを上げたけれども出荷を開始とは言っていません。一部の顧客の手に渡っていると書かれていますが,SemiAccurateが可能性がありそうな各社に問い合わせたが,誰も入手した人はいなかったと書いています。また,Intelは注文を受け付けると書いていますが,納期が何時になるかは明らかにしていません。

  そして,FPGAにHBM2をEMIBで接続しているように受け取れる表現がされていますが,Intelの14nmプロセスはアナログ特性が悪く,HBM2用のSerdesが作れないとのことです。このため,ライバルのTSMCの20nmプロセスを使ってFPGAとHBM2をつなぐチップを作っていると書いています。このチップが付くため,完全なHBM2仕様ではないからか,パッケージの図ではHBM2ではなく,単にDRAMと書かれています。これも嘘ではないという配慮でしょうか?

  そして,FPGAチップの周りに4個のトランシーバチップと2個のDRAMチップが置かれた図が提供されましたが,誰が見てもCGで作った偽物というイメージで,SemiAccurateは,写真を撮るサンプルも無いのかと皮肉っています。

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