最近の話題 2018年3月24日

1.Uberの自動運転車に轢かれて歩行者が死亡

  2018年3月19日のThe Registerなどが,Uberの自動運転車が49歳の女性の歩行者を轢き,女性は死亡したと報じています。

  本来,自動運転の機能のないレベル3のTeslaが前方を横切ったトレーラトラックに突っ込んで,運転者が死亡したことがありましたが,自動運転車が歩行者が死亡する事故を起こしたのは初めてです。

  事故は,3月18日の午後10時ごろにArizona州のTempeで発生したとのことで,現場は中央分離帯もある幹線道路で,被害者は,横断歩道でないところを自転車を押して渡ろうとしていたとのことです。現場の速度制限は35マイルで,Uberの車は38マイルで走っており,自動操縦モードで走っていましたが,運転席には人間のセーフティードライバが乗っていたとのことです。

  車載のカメラの記録を調べたTemp警察署長は,被害者が暗いところから道路に飛び出してきており,自動運転でも,人間のドライバが運転していても,被害者を避けるのは難しい状況であったと述べたとSanfrancisco Chronicleは報じています。但し,これはSF Chronicleの特ダネで,後のTemp警察のスポークスマンの記者会見では,調査が終わるまで,事故の詳細やどちらに責任があるかなどは発表できないと述べられています。

2.John Hennessy氏とDavid Patterson氏が2017年度のチューリング賞を受賞

  ACMは2017年度のチューリング賞をJohn Henessy氏とDavid Patterson氏に授与すると発表しました。両氏は,定量的なコンピュータ設計のパイオニアであり,その考えに基づいて,Henessy氏はスタンフォード大でMIPS RISCプロセサを開発し,Patterson氏はカリフォルニア大バークレイ校でSPARCの元になるBerkeley RISCを開発しました。現在,使われているプロセサの99%は内部構造としては,RISCを使っています。

  そして,ヘネパタ本で知られるテキストを執筆し,定量的コンピュータ設計の考え方を定着させるのに貢献したことが評価されたものです。

  コンピュータ業界や私たちの生活に与えた影響という点では,並ぶものがない業績であり,チューリング賞の受賞は当然で,おめでとう御座います。

  なお,Hennessy氏は最近までスタンフォード大の学長を務め,2018年の2月1日からGoogleの親会社のAlphabetのExcecutive Chairmanを務めています。Patterson氏はU.C.Bの教授を2016年に退職し,現在は,RISC-Vファウンデーションの副会長を務めています。

3.XilinxのAdaptive Computing

  2018年3月19日のEE Timesが,Xilinxの新CEOとなったVictor Peng氏のAdaptive Computingの発表を報じています。

  XilinxのFPGAは汎用ロジックのLUTとBRAMやDSP用の演算器,そして各種の高速I/Oが作れるSERDESなどを集積しています。そして,ARMコアを集積したZyiqを製品ラインとして持っていますが,Adaptive Compute Acceleration Platform(ACAP)は,より大きな処理ブロックをFPGAファブリックで結合できるようになっています。

  掲載されたブロック図では,アプリケーションプロセサ,リアルタイムプロセサ,HW/SWプログラマブルエンジン,HBM,RF ADC/DAC,高速I/Oなどが描かれています。そして,これらのブロックを次世代プログラマブルロジックで結合するという図になっています。しかし,詳細については発表されていません。

  Everestというコードネームで開発されてきたこのデバイスはTSMCの7nmプロセスで製造され,テープアウトは今年の遅い時期となっています。Everestの開発ツールは,すでに主要顧客には提供されているとのことです。製品の出荷は2019年の予定です。

  ゲートレベルでプロセサなどを作ってデバグを行うというFPGAの伝統的な使い方には向きませんが,データセンタのサーバにアクセラレータとして搭載する場合には,より広範な処理のアクセラレーションに使えそうです。

4.データセンタでPOWER 9 CPUを採用の動き

  2018年3月21日のTOP500 Newsが,データセンタでのPOWER9の採用の動きが出てきていると報じています。Las Vegasで開催されたOpen Power Summitで,GoogleはZaiusと呼ぶPower9ベースのサーバを展示し,基調講演を行いました。また,中国の大手のAlibabaやTencent,米国のPaypalなども検討を行っているとのことです。

  Power9ベースのサーバは,内部データの持ち方をx86と同じLittle Endianに変え,ソフトの移植が容易になり,メモリをIBM独自のものから普通のDIMMに変えるなど標準部品の採用で,コストを下げています。これに加えて,NVLinkをサポートしてNVIDIAのVolta GPUが高バンド幅で接続できるようになります。更に,OpenCAPIでアクセラレータボードをキャッシュコヒーレントに繋ぐことができ,OpenCAPI対応のボードも出始めています。GoogleのTPUもOpenCAPI対応にすれば,Power9 CPUとキャッシュコヒーレントに使えるようになります。

  このように,ディープラーニング対応を考えると,XeonよりPower9の方が優れています。

  そして,Power9は96スレッドを並列に実行することができ,Intelのサーバチップが最大56スレッドであるのと比較すると70%多いハードウェアスレッドを実行できます。Googleのデータセンタなどでは,多数のスレッドを実行することが多く,スレッド数が多く,スループットが高いことは大きなメリットです。Tencentは,Power9にすることで30%台数を減らすことができたと述べています。

  Intelの牙城であるデータセンタにどこまで入り込めるかは分かりませんが,Power9も頑張りそうな気配です。もちろん,AMDのEPYCやARMも頑張っており,データセンタプロセサの市場も競争が激化すると思われます。

5.Seagateが2020年にHAMRで20TB+のHDDを出す

  2018年3月21日のThe Registerが,2020年にHeat-Assisted Magnetic Recording技術を使う20TB+のHDDを出すといロードマップを発表したと報じています。

  HDDの容量の増大は続いていますが,1bitを記憶する磁区が小さくなると,熱雑音で磁区が反転してエラーが起こりやすくなります。磁化が反転しにくい磁性材料を使えばよいのですが,今度は,書き込みが難しくなってしまいます。これを解決するために,書き込みを行う部分だけを加熱して磁区が反転しやすくするのがHeat-AssistedのMagnetic Recordingです。

  これにより,1bitを更に小さくして20TB以上のディスクを作ろうという計画です。

  大容量化のもう一つの問題は,アクセス性能で,1回転で読めるビット数が増え,1回転で読めるデータ数が多くなります。回転数が同じとすると,平均的なアクセス速度が遅くなります。このため,大容量HDDのIOPSは低下傾向にあります。

  これを補う方法として,ディスクの上側のプラッタをアクセスするヘッドを駆動するアームと下側のプラッタをアクセスするアームを別に持つというのがマルチアクチュエータという方式です。1周のビット数や回転数は変わりませんが,2台のHDDを並列に動かすような形になるので,平均的なアクセス時間が短縮できます。

  Seagateは2018年に14TBのHDDを出す予定ですが,2019年には,これのマルチアクチュエータ版を出す予定です。そして,2020年のHAMRの20+TB HDD以降は,数か月程度の短い時間差で,マルチアクチュエータ版がでるというロードマップになっています。

6.AIチップ開発のスタートアップのSambaNovaが$58Mを調達

  2018年3月21日のEE Timesが,AIチップを開発するスタートアップのSambaNovaが,シリーズAファンディングで,$58Mを調達したと報じています。SambaNovaは昨年に創立された会社で,何が特別かというと,創立者の二人がスタフォード大のKunle Olukotun教授と,Chris Ré教授で,もう一人の創立者はOracleでプロセサ開発のVPを務めていたRodrigo Liang氏という豪華メンバという点です。

  Olukton教授は,マルチコアプロセサの草分けで,プロセサ関係では高名な教授です。Ré教授はデータベースの専門家です。

  さらに,Cadence Design SystemsのCEOのLip-Bu Tan氏が会長を務めるとのことです。SambaNovaには,Walden InternationalとGoogle Ventures,Redline Capital,Atlantic Bridge Venturesなどが投資するのですが,Lip-Bu Tang氏は,Walden Internationalの会長でもあります。

  スタンフォードの両教授は,スタンフォードの研究者を連れてくると見られ,高い技術力を持つスタートアップになると見られています。なお,SambaNovaのチップがどのようなものになるかは,発表されていません。

7.Google Docsの音声入力をトライしてみた

  Virtual Audio Cableをが使って,メディアプレイヤーの出力をGoogle Docsにつないで,音声でのテキスト入力をトライしてみた。

  個人的に落語のデータベースを作るというプロジェクトにちょっと首を突っ込んでいます。演題や演者などの情報は入れるのですが,同じ落語家が同じ噺をやっている場合は区別が付きません。口演した日にちで区別は出来るのですが,どんな口演だったかを日にちだけで思い出すことは難しいので,喋り出しの部分をテキストにして,データベースに付けています。

  これは人間が聞いて,テキストを作っているのですが,これを省力化できないかというのがGoogle Docsをトライしてみた動機です。

  なお,テストには三遊亭圓生の百川の喋り出しを使っています。次の結果ですが,自動認識として見ると,まあまあ,という感じですが,人間のレベルに修正するには,かなり手間がかかりそうです。「四神剣」という辞書にもない言葉が出てくるとか,圓生の江戸弁の発音が今の標準語と違うとか,がネックになっているという事情も効いているように思われます。圓生は上野の初代パンダと同じ1979年9月3日に亡くなったために新聞の扱いが小さかったという悲劇の名人で,語り口は理解し易いのですが,30年以上前の録音ですから,言葉の使い方は,ずれているところがあります。

  MicrosoftのDictateも試してみたのですが,認識率が低く,現状では使い物にならない感じでした。ただ,Google DocsがVACではなかなか繋がらず,Dictateで一旦繋いでから,Google Docsに繋ぐとうまく行くことが多いので,接続のためだけにDictateを使っています。

三遊亭圓生(故人)の百川の喋り出し 
Google Docsの音声認識で作った文章

ようこそを運びでございます昔からこの祭り自慢という言葉がありますがお祭りというものはどちら今入りましてもよく二番を伺いますが私の国公有祭りがありましたらもう他には是非してみてもらいたいなんという色々お時間がございますと申しました2代にやはり松井という男の江戸っ子の自慢のひとつでございます三社祭あるいはさんのお祭り神田まつにという将軍様がご覧になるというの名前どこの地盤のひとつでございますがお祭りには必ず市人権というものが出ます上に鍵がついてる秦でございますがあれは四方の神様を祀ったものだそう東小清流西尾白虎南が衰弱したら全部黒い壁で話題ますこれをその子人気というのが本当だと言いますが江戸では鍵がついているというので通称これ女市人権と言いましたこれはその年版預けになりましたものコト市河野兄弟で預かりますと翌年はオスと腸内その翌年はまたへいへ行くというような理由でそのも千葉町内を塗るぐるぐるぐる子持ち回ろうというわけでそういう祭りの相談などによく使われました

データベースに入っている人間が作った文章

えー、ようこそ、ァーッ、お運びでございまして。えーこ(カット)昔からこの『祭自慢』と言う、ゥッ言葉がありますが、お祭りと言う物はどちらへ参りましても良く、ゥッ自慢を伺いますが「あたしの国にはね、こういう祭がありましてね、エッヘこらァもう他には無い、アッ、えー是非ひとつ見て貰いたい」なんと言う。色々お自慢がございますが。えー、江戸と申しました時代に、やはり祭りと言う物はこの江戸っ子の自慢の一つでございます。三社祭あるいは、えー山王の祭神田祭と言う。えー将軍様が御上覧になると言うのがこらァもう江戸っ子の、自慢の一つでございますが。あのお祭りにはこの必ず四神剣と言う物が出ますが、上に剣が付いている旗でございますがあれは、四方の神様を奉ったものだそうで。

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