最近の話題 2018年4月7日

1.Tesla Model Xが高速道路の中央分離帯に衝突し,ドライバが死亡

  2018年3月23日(金)の午前9時27分に,TeslaのModel Xが,Mountain ViewのUS101の区間で,高速道路の中央分離帯に衝突して,運転者が死亡するという事故が発生しました。運転者はWei Huangという38歳のAppleのエンジニアとのことです。実は,その翌々日,私は,GTCに出るために現場を通過したのですが,そんな事故があったことは全く知りませんでした。この場所は何度も走ったことがありますが,自動運転が難しい危険な道路という印象は全くありません。ただ,US101は交通量が多く,傷みが激しいところもあります。

  TeslaのWebサイトでは,オートパイロットはオンになっていたのですが,衝突の直前6秒間は,運転手はハンドルに触っていなかったと書かれています。また,事故による車の破損が大きかったのは,中央分離帯に取り付けられている緩衝材が以前の事故で潰れていたのが修理されていなかったことが影響していると述べています。

  しかし,TeslaはLevel3の運転機能を持ち,高速道路で普通に走行する場合は,自動で走れる筈です。そして,午前9時27分なら,カメラで迫ってくる中央分離帯が容易に検出できた筈です。ハンドルから手を放していてもそれが中央分離帯に突っ込んだ主要な原因ではあり得ません。なお,US101は道幅に余裕がなく,中央分離帯が垂直のコンクリート板になっている区間があります。もっと余裕のある作りの中央分離帯だったら死亡事故にはならなかったと悔やまれます。

  Teslaの説明は,初期のオートパイロットでも人間のドライバより事故は少ないとか,この場所は8万5000回以上オートパイロットで通ったとか言い訳に終始しているのは残念です。

2.理研AICSが理研R-CCSに改組し,松岡先生がセンター長に

  京コンピュータを擁する理研AICSが,2018年4月1日から理研R-CCS(理化学研究所計算科学研究センター)と名称を変更されました。また,人事も変わり,これまでの平尾 公彦機構長は退任され,東工大のTSUBAMEスパコンを率いていた松岡聡教授が,新センター長に就任されました。そして,副センター長に筑波大名誉教授の佐藤三久氏,東大の中島研吾氏と理研の副理事の岡谷茂雄氏が就任しました。

  その下に,各種の研究チームがついています。また,次期フラグシップスパコンを開発するフラグシップ2020プロジェクトや京コンピュータの運営チームもセンター長にレポートする体制です。フラグシップ2020のリーダーは石川先生で変更はありません。

  次期スパコンは基本的な設計は終わっている段階なので,松岡先生がセンター長になって,これがひっくり返ることはないと思われますが,センター全体の運営は変わってくるのでしょうね。

  なお,松岡先生は,特任教授として東工大の籍は残るようです。

3.NVIDIAのDGX-1も32GBのV100を使用

  先週,DGX-1には32GBのV100が搭載できないと書いたのですが,これは(ある意味)誤りでした。既に販売されたDGX-1にはDGX-2のV100を搭載できないというのは正しいのですが,新しいNVIDIAのDGX-1のカタログを見ると,DGX-1のGPUメモリ容量は256GB(32GB V100×8)となっており,これまでの128GBという製品は消えています。。

  推測ですが,NVIDIAはDGX-1も48V電源に変更して,DGX-2の32GB版のV100を搭載することにしたか,あるいは12V電源の32GB版のV100を開発したと思われます。しかし,従来のDGX-1は32GBのV100は搭載できないと言っているので,前者の可能性が高いと思われます。

  いずれにしても,新たにDGX-1を買う人はHBM2メモリが倍増するわけで望ましいことです。

4.SiFiveがRISC-V開発クラウドを構築

  2018年4月2日のEE Timesが,RISC-Vコアを使うSoCの設計サービスなどを提供するSiFiveが,RISC-V設計用のクラウドを構築すると報じています。シリーズCファンディングで$50.6Mを調達したSiFiveは,今年中にRISC-Vコア,来年にはRISC-VベースのSoCの設計環境をクラウドで提供するとのことです。

  SiFiveのNaveed Sherwani氏は,現在,SoCぼ開発には9-18か月かかるが,1年から1.5年以内に,開発期間を,ファブの製造期間を除けば15-20日に短縮すると述べています。これはカスタムのブロックの開発が無く,RISC-Vコアと,適合性が確認されたIPブロックをレゴのように組み合わせれば良いというSoCの場合と思われます。

  SiFiveはパートナーのIPブロックも,量産に入る前は,無料か安い値段で提供し,SoC開発の入り口のハードルを下げています。これをクラウドで設計環境を提供して,更にハードルを下げて,顧客を増やす作戦です。

  なお,SiFiveは既にMicrosemiから$1Mを超える受注があるとのことで,コアサポーターからのビジネスは動き出しているようです。

5.Intelが一部のプロセサのSpectre対策を諦めた

  2018年4月4日のHPC Wireが,Intelが一部のプロセサに対しては,Spectre Variant 2に対するマイクロコードの修正パッチを作ることはできないとあきらめたと報じています。

  https://newsroom.intel.com/wp-content/uploads/sites/11/2018/04/microcode-update-guidance.pdfに一覧表がありますが,Production StatusがStoppedになっているものが,お手上げという品種です。第8世代のCoffeeLakeは,Intelがマイクロアーキテクチャを修正してセキュリティーホールを塞いだと発表した製品です。

6.HEPの設計者のBurton Smith氏逝去

  2018年4月4日のHPC Wireが,Burton Smith氏が2018年4月3日に亡くなったと報じています。享年77歳だそうです。ご冥福をお祈りいたします。

  Burton Smith氏はDenelcorで,多数のスレッドを切り替えながら実行するHEPというアーキテクチャのスパコンを開発したことでスパコンの歴史にその名を刻んでいます。その後,Tera社の創立者の一人となり,Tera社の会長にもなりました。Tera社は2000年にCrayを買収したのですが,より知名度の高かったCrayを社名として使うことにして,今日に至っています。

  Smith氏はCrayのプリンシパルアーキテクトとして,MTA-2を開発し,MTAシリーズは現在もCrayの製品となっています。しかし,社長と対立して2005年にCrayを去ってMicrosoftに移り,MicrosoftのHPCの立ち上げに貢献しました。Smith氏は1991年にEckert-Mauchly賞,2003年にSeymour Cray賞を受賞しています。

  


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