最近の話題 2018年6月16日

1.Oak RidgeのSummitスパコンが稼働

  2018年6月9日のTop500 NewsOak Ridge国立研究所のSummitスパコンが稼働を開始したと報じています。Summitは米帰国の時期フラグシップマシンで,ピーク演算性能は200PFlopsを超え,(中国の隠し玉が無ければ)6月25日に発表されるTop500でトップになると見られているスパコンです。

  Summitは,POWER9 CPU 2基に6基のVolta V100 GPUを接続するIBMのAC922サーバを計算ノードとして,4608ノードをMellanoxの200Gbit/sのEDR InfiniBandで接続するシステムです。倍精度の浮動小数点演算性能は,GPU部分だけで215PFlopsで,ディープラーニングに使うFP16とFP32の混合精度演算では3.46EFlopsとなります。建設中の部分システムで,すでに1.88EFlopsの遺伝子比較の計算を行った実績があるそうです。

  HPL性能は,6月25日のTop500の正式発表の時に発表されることになりますが,同じV100を使うPiz Daint並みのピーク比率とすると160PFlops程度と予想されます。

2.SpectreやMeltdownを防ぐSafeSpecマイクロアーキテクチャ

  2018年6月16日のThe Registerが,SpectreやMeltdownを寄せ付けない投機実行メカニズムを提案するSafeSpecという論文の発表を報じています。

  投機実行は,本来は実行されない命令を実行してしまった場合は,その命令の実行によるアーキテクチャレジスタの内容の変更などは元に戻すのですが,キャッシュに読んでしまったデータは残ってしまいます。SpectreやMeltdownは,それをサイドチャネル攻撃で読み出すことで,本来は保護されて読めないメモリ領域のデータを盗んでしまいます。

  ArXiVに発表されたこの論文が提案するのは,L1命令やデータキャッシュ,L1 TLBにShadowキャッシュを設け,投機実行で読み込まれたデータはこちらに格納するという方法です。そして,メモリからの読み込みを行った命令がコミットされて確定した時に,本当のキャッシュにそのデータを移動します。

  そして,投機実行される命令はShadowキャッシュを参照出来ますが,投機実行ではない命令はShadowキャッシュは読めないようになっています。

  このようなメカニズムをSkylake相当のCPUモデルに組み込み,サイクル精度のシミュレータで検証を行い,SpectreやMeltdown,更にはその後見つかった新たな攻撃にも耐えられることを確認したとのことです。しかし,この方法で本当に大丈夫かについては,他の研究者も検証を行う必要があり,この方法が認められるまでには,ある程度,時間が必要になると思われます。

  このメカニズムを組み込んでも,性能的なロスは殆どないとのことです。しかし,Shadowキャッシュなどを追加する必要があり,CPUコアの面積は20%程度増加するとのことです。まあ,なんとか我慢できる程度の面積増加でしょうか?

3.Wave ComputingがMIPSを買収

  2018年6月13日のEE Timesが,AIチップを開発するスタートアップのWave Computingが,マイクロプロセサの老舗のMIPSを買収すると発表すると報じています。CPU メーカーがアクセラレータの会社を買収するのは普通ですが,AIアクセラレータの会社がCPUメーカーを買収するのは初めてのケースです。

  Wave ComputingのDerek Meyer CEOは,かつてMIPSのSales & MarketingのVPを務めたことがあるように,Waveの幹部にはMIPSで働いた経験がある人も多く,人的なつながりがあるとのことです。そして,Wave Computingに出資しているTallwood Venturesは昨年10月にImaginationからMIPSを買収しており,どちらもTallwoodのDado Banatao氏が後ろ盾となっている会社です。

  Meyer CEOがMIPSの買収を提案したとき,Banatao氏は最初は驚いたのですが,その後は,賛成してくれて,今回の買収に繋がったとのことです。なお,MIPSの買収価格は公表されていません。

4.Intelが2020年にディスクリートGPUを発売

  2018年6月13日のThe Registerが,IntelのKrzanich CEOが,Intelが2020年にディスクリートGPUを発売するという報道を認めたと報じています。Intelは並列計算にはXeon Phiというアプローチだったのですが,どうもXeon Phiは旗色が悪く,このところ路線を見直すような情報が出てきています。

  一方,NVIDIAはGPUで大成功を収めており,AMDのGPUも仮想通貨のマイニングなどに大量に買われています。ということで,IntelもGPUに進出して儲かる商品を作ろうという訳です。しかし,どんなGPUを作るのかについては,全く,明らかにされていません。

5.ニューヨーク州議会がディープフェイク防止法を提案

  2018年6月12日のThe Registerが,ニューヨーク州議会がディープフェイクを罰する法律を検討しており,Disneyやユニーバーサルなどの映画会社が反対していると報じています。ポルノ映画の俳優に,著名人などの顔をAIを使って貼り付けて,その人を貶めようとするのは悪いことで,映画会社もそのようなフェイクを取り締まることには賛成なのですが,例えば,チャーチルの伝記映画を作る場合,俳優がその人物に扮して演技するのもこの法律に引っかかってしまう。この法案は,表現の自由を保障した米国の憲法修正にも違反すると反対しています。

  確かに,人を騙すためのフェイクは悪いとしても,伝記映画などでは,似せて伝記の本人という感じを出すことが重要で,それは表現の自由の範囲内という議論も頷けます。できた画像だけから線引きをするのは難しいという感じがします。

  一方,2018年6月14日のThe Registerは,ニューヨーク州立大の研究者が,フェイクビデオを見分ける方法を開発したと報じています。この方法は,ビデオの人物の瞬きを検出するニューラルネットを作り,瞬きの頻度を調べるというものです。話をしているときはより頻度が高い,本を読んでいるときは頻度が低いという違いはありますが,平均的には人間は毎分17回の瞬きをするとのことです。

  これに対して,フェイクビデオの張り付けられた顔は瞬きをしないので,瞬きの頻度で,フェイクと見破れるという訳です。

  現在は,貼り付ける顔の写真は目を開いている場合の写真で,瞬きをしているものを学習していないので,瞬きをさせることが難しいのですが,技術が進化すれば,瞬きする顔を貼り付けることが可能になってしまうかも知れません。しかし,それに必要な手間は,大幅に増えると思われますので,抑止力にはなると思われます。


  

inserted by FC2 system