最近の話題 2018年8月4日

1.産総研のABCIスパコンが正式運用を開始

  Top500の5位で,国内では成功性能の産総研のABCIスパコンが7月30日に運用開始式典を行い,正式稼働に入りました。2018年7月17日のマイナビニュースがISC 18での取材を基にABCIについて報じていますが,このシステムはXeonGold 2チップとV100 GPU 4チップからなる計算ノードを使い,1088ノードからなるシステムです。正確には,これに加えてGPU無しでメモリ3倍という汎用ノードを10ノード持っています。

  ピーク演算性能はFP64では37.2PFlopsで,Top500のスコアは19.88PFlopsで4位を獲得しています。そして,V100 GPUを使っているので,FP16のAI演算では550PFlopsという高性能を誇ります。

  ABCIは温水による冷却を使っています。これは東工大のTSUBAME3.0と同じなのですが,TSUBAME3.0の記者発表ではコンピュータルームは見せてくれなかったのですが,ABCIの取材では詳細に見せて戴きました。東工大も隠す意図は無いと思いますが,東工大のコンピュータルームはとにかく狭いので,数十人の記者が来ると身動きがとれなくなるからでしょう。

  ということで,温水冷却スパコンの初体験となったのですが,冷却水のインが32℃,アウトが40℃なので,35℃の猛暑の外気温と同じ温度の暑いコンピュータルームでした。普通,コンピュータルームと言うと20℃程度で涼しいのですが,あてが外れました。

  40℃に温まった水は(Rack CDU内の水―水の熱交換機を通して)冷却水を40℃近くに温め,それをクーリングタワーで32℃に冷却して,Rack CDUに戻して,熱交換機を通してCPUやGPUを冷やすラック内の冷却水を冷やします。クーリングタワーはコンプレッサーなどを使わないので,非常にエネルギー効率の良いグリーンスパコンとなっています。

  また,2トンの荷重に耐える床は上げ床ではなく,コンクリートです。ラック間をまたぐ信号ケーブル,給電や冷却水の給排水は全てラックの上に配置されており,センターは1階建てですが,天井の高さは6mというのも初めての経験でした。

2.中国のYMTCが来週,新しいFlash Memoryを発表する

  2018年8月2日のEE Timesが,来週のFlash Memory Summitで,中国のYMTC(Yangtze Memory Technology Co.)が新しい3D NANDチップを発表すると報じています。同社がXtackingと呼ぶアプローチで,速度はDDR4 DRAMに迫り,ビット密度は業界トップレベルとのことです。

  YMTCは,昨年は32層の3D NANDを発表しましたが,歩留まりは低いとのうわさで,その延長で考えると,Samsung,Micron,東芝/WDなどと比べると,まだ,差がありそうですが,どのようなものが発表されるのか興味が持たれます。

  なお,今年はSamsungはFlash Memory Summitには出ないそうです。

3.Broadcomが7nm AIチップの設計でWaveに協力

  2018年8月1日のEE Timesが,Wave ComputingがBroadcomの協力を得て,7nmプロセスを使ってWaveのDPUを開発すると報じています。このチップは,Waveの製品に組み込むために開発するのですが,需要が在れば,外部にも販売する可能性があるとのことです。

  Broadcomが開発する7nmのDPUの完成時期は明らかにされていませんが,AIチップを開発しているスタートアップは数多くありますが,7nmプロセスでチップを設計できる技術を持ったスタートアップは殆ど無いと思われ,Wave社はBroadcomのASIC設計者の助けで7nmのチップを作り,競争の先頭に立とうとする作戦のようです。

  WaveはMIPS Technologiesも買収しており,懐は豊かなようです。

4.BrainChipがスパイク型のニューロチップを開発中

  2018年8月1日のEE Timesが,BrainChip社のスパイク型のニューロチップの開発について報じています。

  現在のディープラーニングは行列の積和計算でニューロンの働きをモデル化するものが多いのですが,BrainChipは,人間の脳の働きを真似て,スパイクでニューロン間のデータを送り,スパイクの頻度で情報を伝達するという方式を取っています。そして,スパイクの到着頻度で,その入力に掛ける重みを調整して,自動的に学習をしていきます。このため,学習に大量の教師データを必要としないとのことです。

  BrainChipはAkidaという名前のニューロチップを開発しており,現在はx86の上で動くシミュレータと入力からスパイクに変換するツールなど,ソフトウェアの開発環境を提供していますが,今年の9月にはハードウェアのチップを発表する予定とのことです。なお,現在はチップの仕様は公開されていませんが,NDAベースで顧客には,既に詳細な情報を提供しているのだそうです。

  この手のチップは,重みをアナログメモリに格納することで,コンパクトで性能が高いと謳うものもありますが,BrainChipは相変化メモリなどの特殊なテクノロジは使っておらず,純粋なディジタルロジックで作られているとのことです。

  BrainChipはオーストラリアのシドニーに本社があるのですが,開発は,南カリフォルニアのオレンジ郡とフランスのツールーズで行われているようです。

5.AmazonはOracleの使用を止め,TeslaはNVIDIの使用を止める

  2018年8月2日のThe Inquirerが,Amazonが2020年までに,Oracleのデータベースの使用をやめると報じています。Amazonのビジネスの急拡大にOracleのDBがスケールできなくなったという見方もありますが,代わりに何を使うのでしょうね?

  また,2018年8月2日のThe Inquirerは,TeslaのElon Musk CEOが,現在のTeslaの車にドロップインで搭載できる自動運転用のAIチップを開発していることを明らかにしたと報じています。GPUはAIの計算をエミュレーションしているが,Teslaが開発中のAIチップは,直接計算すると述べており,Wave Computerのようによりニューロンに近い動きをするのかもしれません。


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