最近の話題 2018年9月1日

1.Global Foundriesが7nmプロセスの開発を停止

  2018年8月27日のEE Timesが,Global Foundriesが7nmプロセスの開発を停止したと報じています。大株主のUAEのMubadara Investment Companyから業績の改善を要求され,7nmプロセスの開発の停止と従業員の5%にあたる900人をレイオフするとのことです。

  GFのCaulfield CEOは,GFの殆どの顧客は7nmチップの開発計画はなく,14/16nmの需要も28nmの半分程度, 7nmはさらにその半分と述べ,2022年の予測でもGFの顧客の需要の2/3は12nmかそれ以上のノードであると見ている。従って,今,7nmプロセスの開発にお金を掛けるのは適当でないという判断です。

  GFはASIC部門を持っているのですが,この部門がTSMCの7nmプロセスを使うと設計ルールなどが筒抜けになってしまう懸念があるので,GFはASICビジネスを分社しました。これでGFの子会社ではあるけれど,GFとは独立の会社ということになりTSMCも秘密保持の点ではOKということになります。

  しかし,すぐに困るのが,AMDです。元々AMDの半導体部門を買収して作られたのがGFで,AMDとGFの関係は深いのですが,7nmプロセスが無ければIntelやNVIDIAと競争になりません。従って,AMDはTSMCに行くしかないのでが,Apple,Qualcomm,NVIDIAなどが門前に市を為している状況で必要なだけのウエファを確保できるかは難しいところです。

  IBMもGFに半導体部門を売却しており,GFが先端プロセスの開発を停止するとPOWER10などの開発に差し支えることが考えられますが,まだ,POWER9の出荷が始まったところなので,時期的には,AMDほど差し迫った状況ではないと思われます。

  代替としてはSamsungが考えられますが,SamsungはTSMCに比べると規模が小さく供給能力には限りがあります。また,Samsungは7nmプロセスをEUVに切り替える動きをしており,ファブレス各社はむしろTSMCに向かっている状況だそうです。

  いずれにしても,7nmプロセスのキャパシティーの95%がTSMCになってしまえば,キャパの奪い合いが熾烈になり,値段も下がらないという状況になるのではないかと予想されます。

2.BlueWater後継機はTACCのFrontera

  2018年8月29日のHPC Wireが,NSFのTrack-1はテキサス大学のAdvance Computing Centerが獲得し,Fronteraというスパコンが2019年から稼働すると報じています。システム設置のために$60Mの予算が付いたとのことです。なお,5年間の運用費は,今後,予算措置が決まるとのことです。

  Fronteraの主サプライヤーはDell EMCで,16,000個以上のXeon CPUを使い,ピーク演算性能は35-40PFlopsとのことですが,ピーク性能は,Cascade Lakeの品種を選ぶかに依存するとのことです。NVIDIAのGPUも搭載されるようですが,単精度GPUで,分子動力学とマシンラーニングに使うと書かれています。Turing GPUでしょうか?

  とすると,35-40PFlopsという倍精度のピーク演算性能はそれほど高くはありませんが,実アプリケーションを実行するときの実力は高そうなシステムです。米国の大学のスパコンとしては,最大となる見通しです。

  ストレージはDDN製で50+PBのディスクと3PBのFlashで1.5TB/sのIO能力とのことです。

  Xeon側はCoolITの水冷,GPU側はGRCのオイル浸漬冷却が使われるとのことです。ピーク負荷の場合の消費電力は6MWとなっています。

  また,今回のシステムはToward a Leadership-Class Computing Facility計画のPhase-1ですが,2023-2024には,このシステムの10倍の性能をもつスパコンを導入するPhase-2が検討されているとのことです。

3.中国が超電導コンピュータの開発に$145Mの予算

  2018年8月28日のHPC Wireが,中国のSouth Chine Morning Post紙の報道を引いて,$145Mの予算を確保し,中国科学院が超電導コンピュータの開発に乗り出すと報じています。早ければ,2022年にもプロトタイプが稼働するとのことです。

  記事によると,超電導で量子ビットを作って量子コンピュータを作ろうという話ではなく,超電導素子で超高速のスイッチングを行うというアプローチで,基本的な動作原理は現在のMOSトランジスタのコンピュータと同じです。

  中国は超電導テクノロジをコンピュータに適用するための幾つかのブレークスルーを成し遂げ,比較的低コストで高性能の超電導LSIが作れるようになったとのことです。30~40年前は日本でも超電導素子を使うコンピュータが研究されていましたが,下火になってしまいました。中国は,当時の問題をどのように解決したのか知りたいところです。

4.KeystoneでRISC-Vをセキュア化

  2018年8月31日のThe Registerが,MITのCSAILとUC BerkeleyのEECSの研究者が,Keystoneと呼ぶ,RISC-Vのオープンソースのフォーマルベリフィケーションされたセキュアハードウェアの隠れ家(Enclave)の開発を進めており,この秋の初版完成を目指していると報じています。

  セキュアハードウェアは,ARMのTrustZone,IntelのSoftware Guard Extensions(SGX),AMDのSecure ProcessorとSEVなどがありますが,例えば,IntelのSGXを破るForeshadowというアタックが発見されたように,これらも本当にセキュアかどうか分かりません。

  メーカーが開発したこれらのセキュリティー機構はオープンソースではなく,外部の多数の専門家がチェックすることができないので,弱点が残ってしまうという問題があるため,Keystoneでは仕様だけでなく実装もオープンにして外部の専門家もチェックできるようにするとのことです。

5.IFAでHiSiliconがニューラルプロセサを搭載するKirin980を発表

  2018年8月31日のThe Registerが,ベルリンで開催されたIFAでのHiSiliconのKirin 980について報じています。HiSiliconは,元々は,Gartnerの調査によると今年の2QにAppleを抜いて2位になったスマホメーカーのHuaweiの半導体部門が別会社として独立したものです。

  The Registerによると,Kirin 980は6.9Bトランジスタを集積し,2.6GHzクロックの高性能A76を2コアと1.92GHzクロックの中程度のA76を2コア,そして小型の1.7GHzクロックのA55コアを4コア搭載しているとのことです。そして,4×4のMIMOを搭載しています。この受信機は2×2で1.4GB/sの速度が出せ,5Gにも対応できるとのことです。

  さらにKirin 980は2個のNeural Network ProcessingコアとArmのMali G76 GPUも集積しています。

  TSMCの7nmプロセスを使っており,前世代のプロセス(14nmと思われる)に比べて58%効率が高く,46%速度が速い。しかし,電力消費は23%少ないとのことです。

  現状,Kirin 980を搭載するスマホはありませんが,秋に発表されるHuaweiのMateシリーズで市場に出てくると見られます。

6.AMDが仮想化用GPU V340を発表

  2018年8月26日のSemiAccurateが,AMDのRadeon Pro V340 dual Vegaボードを発表を報じています。Vega 56に4個のHBM2を接続したGPUが2組載ったボードで,グラフィックス用ですが,ビデオ出力はついていません。

  56CUを搭載するVega GPUは16ユーザに1GBのメモリを与え,シェーダなどはタイムスライスで使わせるという作りになっています。このボードは2個のVega GPUが載っているので,合計32ユーザに仮想GPUを分配して使わせることができます。

  GPUのクロックは1500MHz,メモリのクロックは945MHzで,TDPは300Wとのことです。

  AMDのEPYCプロセサはHardware Root of Securityを実装しており,このV340ボードと組み合わせるとセキュアな仮想GPUシステムを作ることができます。このボードはセンターのサーバ用のボードであり,グラフィックスと言っても映画の製作やCADなど機密性が高い用途にも使われます。このため,高いセキュリティーを持ったシステムが作れる作りになっていることは重要です。

  発表はされたのですが,出荷はQ4になるとのことで,価格は,まだ,発表されていません。しかし,現在のS7150 x2は$3,999で発売されており,それに近い価格になると考えられるとのことです。

7.Nanteroのカーボンナノチューブメモリのフォローアップ

  先週の話題で,Hot ChipsにおけるNanteroのカーボンナノチューブメモリの発表を紹介しましたが,気になることがあり,インタネットで関連情報を当たってみました。詳しかったのは,PC Watchの福田さんの記事で,2016年9月15日の記事2016年9月26日の続編です。

  Nanteroは2001年に創業された会社で,スタートアップとは言えないくらいの長い歴史を持っています。そして,2010年のESSDERC/ESSCIRCに4Mbitのチップを学会発表し,翌年のFlash Memory Summitでも発表を行っています。

  さらに,2016年8月31日に,Nanteroがカーボンナノチューブメモリ技術をライセンスし,Nanteroと富士通セミコンダクター,三重富士通セミコンダクターの3社が共同開発を行うという発表が行われました。しかし,その後,Nanteroからも,富士通セミコンダクターからも製品を出すという発表はありません。

  そして,2018年6月29日に台湾のUMC(United Microelectronics Corporation)が三重富士通セミコンダクターの株式を100%取得することで合意したという発表が行われました。UMCが既に持っている15.9%の株以外の84.1%の株を約576億円で譲渡するとのことです。

  共同開発の契約がどうなるのかは分かりませんが,富士通のファブは三重富士通セミコンダクターが持っている筈で,カーボンナノチューブメモリの今後はUMCが開発を継続するのかどうかに依ると思われます。

  2001年の創業から製品も出さずにNanteroが活動を続けられているのは,Nanteroのカーボンナノチューブメモリの特性が非常に優れており,魅力を感じて投資やライセンス契約などでお金を出す企業があったからであることは確かです。

   一方,技術の可能性を示しながら,製品化には成功しておらず,実用化にはNanteroが学会発表などでは言わない難しさがあると思われます。その意味では,HPが全力を注いでも実用化できなかったMemristorと同じような感じがします。

  いずれにしても,三重富士通セミコンダクターがUMCに買われてしまったので,カーボンナノチューブメモリの行方は分からなくなっています。

inserted by FC2 system