最近の話題 2018年11月3日
1.DARPAがAI Nextの中でマシン常識の開発に挑む
2018年11月1日のEE Timesが,複数年度に跨って$2Bを掛けるAI Nextキャンペーンの中で,マシンに常識を持たせる研究を行うと報じています。
現在のAIは画像認識などの狭い範囲の問題については人間を超える精度を持つものも出てきていますが,その答えがこれまでに学んだ多くの他の分野の知識と矛盾しないかと考える,所謂,常識がありません。
一方,マシンが常識を持てば,人間の子供のように知識を取得していったり,推論の筋道を説明することなどもできるのではないかと期待されます。
目先のAIの開発はGoogleなどの企業が巨費をかけて開発していますので,DARPAとしては,海のものとも山のものともわからない先進研究を担当するとのことです。
2.米国司法省がUMCと福建金華半導体(Fujian Jinhua)を告訴
2018年11月2日のEE Timesが,米国司法省が台湾のファブであるUMCと中国の福建金華半導体を,MicronのDRAM製造テクノロジを盗んだということで告訴したと報じています。また,今週,商務省は米国企業に対して福建金華半導体への供給を禁止する命令を出しています。この命令が出されたことにより,UMCは福建金華半導体との共同開発を棚上げすることにしたとのことです。
米国のAMATやKLA-Tencorなどからの先端の半導体製造装置が供給されないとなると,競争力のあるDRAMの製造はできません。このような禁輸の動きが拡大すれば,Yangtze Memory TechnologiesやInnotoron Memoryなどの中国メーカーのDRAMの供給も確実とは言えなくなってきます。
UMCとFujian Jinhuaの両社以外に,元UMCに勤めていたStephen Chen,J.T.Ho,Kenny Wangの3氏も訴追されています。Chen氏は元はMicron Memory Taiwanの社長で,現在はFujian Jinhuaの社長になっています。Chen氏はHo氏とWang氏をMMTに引っ張ってき,両氏はMicronのテクノロジを盗みUMCに渡したと訴えられています。
3.Crayが次期アーキテクチャのShastaスパコンを発表
2018年10月30日のHPC Wireが,Crayが次期アーキテクチャのShastaスーパーコンピュータを発表し,NERSCが採用することを発表したと報じています。
CrayはメインのスパコンであるXCシリーズ以外にも,クラスタ型のCS-Stormスパコンを持っていますが,ShastaではHPCだけでなく,アナリティックス,AIなどもカバーできるシステムとして,製品を一つに統合するとのことです。
Shastaはx86とarmのCPUを搭載することができ,さらにNVIDIAとAMDのGPU,FPGAの同一システムへの混載が可能とのことです。さらに将来的にはMLアクセラレータの搭載も可能にするとのことです。
ノードの間を接続するインタコネクトとしてはInfinibandやOmni-Pathに加え,Cray独自のDragonFlyトポロジのSlingshotというインタコネクトをサポートします。Slngshot用に60ポートの200Gbit/sのスイッチを開発し,3ホップのネットワークで0.25Mエンドポイントを接続できます。1ホップ300ns掛かるので,ホップ数が減るのは性能向上に効きます。また,Slingshotは従来のネットワークに比べて負荷が高い状態でも,平均遅延のパケットと遅いパケットの遅延時間の差が小さいとのことです。高並列のアプリでは,一番遅いプロセスに引っ張られてしまうので,これは重要です。
Shastaは通常の19インチラックと高密度ラックがあり,どちらにも同じブレードが搭載できるようです。19インチラックは空冷と水冷が選べますが,高密度ラックは水冷だけです。水冷は最大45℃の水を使うWarm Water Coolingです。これで1ラック250kWを冷却します。
同時に,ローレンスバークレイ国立研究所のNERSCがShastaをNERSC-9として導入することが発表されました。NERSC-9はNERSCの8世代目のスパコンで現在のNERSC-8 Coriの後継となるシステムです。ピーク倍精度演算性能は100PFlops程度とのことで,アプリの実行性能はCoriの3倍程度に向上する見込みです。
なお,NERSC-9はPerlmutterという愛称です。宇宙の加速膨張の証拠を見つけ2011年にノーベル物理学賞を受賞したカリフォルニア大学バークレー校のSaul Perlmutter教授にちなんでの命名です。
このPerlmutterスパコンですが,CPUはAMD,GPUはNVIDIAで,CPUは多分,Milanと呼ばれている次世代で,GPUもTuringのHPC版になるのではないかと見られます。
NERSC-9の調達費は$146Mで,これはシステムの購入だけでなく,4~5年程度の運用期間の保守やサービスなどの費用も含んだ額とのことです。
4.HyperThread間で情報を漏洩するPortSmash
2018年11月2日のThe Registerが,キューバとフィンランドの学者がIntelプロセサのHypterthreadの間で情報をりーくさせる新たなサイドチャネルアタックを発見したと報じています。このアタックはPortSmashと名付けられたとのことです。
同一のプロセサコアをシェアするHypterthreadの場合,一方の動作が他方の動作の実行時間に影響を与えることは避けがたく,タイミングアタックが起こりやすい環境です。PoerSmashは攻撃プログラムが同じプロセサコアで動いている必要があり,単独では情報を盗めませんが,攻撃プログラムを同一プロセサコアで動作させる攻撃と合わせて実行されると情報を盗まれる恐れはあります。
Intelは,この攻撃はSpectreやMeltdownのような投機実行のスキを突く攻撃ではなく,ソフトウェア的な対策で防御することができるとしており,特別なパッチは作らないとのことです。
全てのサイドチャネルは塞ぐの容易ではなく,継続した努力が必要ですが,サイドチャネルを塞ぐ努力を止めてはならないと思います。