最近の話題 2019年2月16日

1.アナログ的にニューラルネット処理行うAIStormの高効率AIチップ

  2019年2月11日のEE Timesが,AIStormというスタートアップのセンサーとAIを融合したエッジデバイスについて報じています。イメージセンサーからの電荷信号をアナログ的に処理するので,非常に効率が高いとのことです。

  現在のチップは65nmプロセスを使ったチップですが,サイズは7mm×7mmで,2.5TOPSの性能を持ち,AIの演算効率は11.1TOPS/Wとのことです。そして,現在は28nmプロセスのチップを開発しており,このチップも既に入手しているとのことです。このチップはは5M個の重みを扱うことができるとのことですが,どのようなメモリを使っているのかは不明です。

  AIStormのCEOのDavid Schie氏は,以前に創立したLinear Dimensionsという会社で,Waveletを使ってバイオ信号を処理する医療用チップを開発し,その技術を使って,アナログ的にイメージセンサからの信号を処理するニューラルネットを作っているようです。イメージセンサからのアナログ信号をディジタル化する必要がないので,効率が高く,低遅延とのことです。

  同社は,シリーズAの資金として$13.2Mを集めており,出資者の一つはイスラエルの半導体メーカーのToweJazzだそうで,TowerJazzのイメージセンサーチップにニューラルネットを組み込んでいるとのことです。アナログ処理のニューラルネットはMythicやSyntiantがやっていますが,AIStormの積和演算のやり方は,彼らとは違うとのことです。

  AIStormはシリーズAで集めた資金で65nmから180nmのチップを2020年に量産に持ち込む計画です。そしてシリーズBの資金集めも計画しており,その資金を使って28nmと更に微細化したチップの製品化を行うという目論見です。

2.armがベクタ演算をサポートするarm v8.1-Mアーキテクチャを発表

  2019年2月14日のThe Registerが,armのv8.1-Mアーキテクチャの発表を報じています。Mが付いており32bitアーキテクチャのコントローラ用のコアなのですが,このようなコアもAIなどの処理で高い演算性能が必要となるケースが出てきており,それに対応するため,ベクタ演算機構を取り付けたものです。

  V8.1-Mで追加された機能はHeliumと呼ぶベクタ演算拡張のサポート,ループ処理を高速化する命令拡張,半精度浮動小数点演算,TrustZoneの半精度FPUサポートの追加,RASの強化などです。

  これからチップの開発を始めるので,v8.1-Mアーキのプロセサを使う製品が市場に出てくるのは2021年になると見られます。

3.MIPSプロセサのオープンソース化は予定通り

  2019年2月14日のEE Timesが,昨年12月に発表されたMIPSプロセサのオープンソース化の準備は予定通り進捗していると報じています。EE TimesはMIPSのライセンス関係のビジネスの社長のArt Swift氏のインタビューで,話を聞いています。それによると,MIPSのISAと最新のコアの情報が2019年の1Qに公開されるとのことです。

  RISC-Vに比べるとMIPSアーキテクチャは長い歴史と使用実績があり,命令のSIMD拡張やDSP拡張なども既に出来ています。また,MIPSオープンアーキテクチャのメンバは,MIPSの保有する300件の特許を無償で使うことができ,MIPSオープンアーキテクチャを使用するメンバ間での特許侵害訴訟が禁じられているので,MIPSプロセサ関係での特許に気を使う必要が無い点もメリットです。

  また,MIPSはMIPSfpgaというFPGA版のプロセサを公開するするとのことです。元々は教育用に開発されたもので,CPUの動きを理解するのに役立ちますし,アーキテクチャをいじって実験することもできます。

  MIPSをオープンソース化するだけでは,親会社のWave Computingが儲かるわけではなく,どうやってCPU+AIで儲けていくのかは不明です。

4.2019年RISC-VのDesign Winはarmを抜く?

  2019年2月14日のEE Timesが,RISC-V陣営のSiFive社のCEOのNaveed Sherwani氏が,今年,RISC-Vの新設計(Design Win)の数はarmのDesign Winの数を上回ると述べたと報じています。勿論,armの顧客の方が平均的な規模は大きく,Design Winの売り上げはずっと大きいのですが,新規に開発される製品のCPUソケットの数では,armに勝てると見込んでいます。

  もちろん,SiFiveはCPUコアのライセンス料が安いのに加えて,契約した会社の周辺のIPも量産を開始するまでは安く使える契約などの仕掛けで,安くチップが作れるようにしているのが効いていると思われますが,スタートアップのSiFiveとしては儲けを削っても,顧客数を増やすのが重要なことは理解できます。

  AIや自動運転などで,大企業は自前のLSIを開発するという所が増えており,これもSiFiveにとっては追い風です。

  SiFiveは制御用のarm Cortex-Mシリーズのコアと同等の機能,性能を持つコアを揃えており,3か月以内にベクタ処理機能を持つ組み込みコアを加えるとのことです。そして,来年にはCortex-AシリーズのローエンドとOut-of-Orderのハイエンドに対抗するコアを出すとのことです。また,AI機能やクラウドに必要な機能の追加も考えているとのことです。

  SiFiveはTSMCの28HPCプロセスを使うプラットフォームを出しています。これには4個の64bitコアと1個の32bitコントローラが搭載されています。これを強化するため,2019年には2つのプラットフォームを出す計画です。その内の少なくとも一つは16nmノードの設計になるとのことです。これらのプラットフォームはDDRのメモリコントローラや他の周辺ブロックを含んでおり,本格的なSoCが作りやすくなっています。これらのプラットフォームのテンプレートはMicrosoftのAzureに載っており,自社のサーバを持たない顧客でも設計を開始できるようになっています。

  現在,Linuxが走る1.4GHzクロックのチップの設計は6週間でできるとのことですが,まだ自動化が十分でなく,Sherwani氏は2週間まで短縮したいと述べています。

  

  

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