最近の話題 2019年4月20日

1.AppleとQualcommの特許紛争が和解

  2019年4月16日のEE Timesが,AppleとQualcommが特許のライセンス問題について和解したと報じています。のこEE Timesの報道は和解の報道としては早くはないのですが,その後の分析などが書かれているので,参照しています。

  Qualcommは3G携帯のCDMAを作り出した企業で,携帯の通信技術については厚い特許のカバーレージを持ち,それを元に,特許のライセンス契約を結んでローヤリティーを払わないとQualcommのチップは売らないという政策をとっています。

  それに反発したAppleは,IntelのModemチップを買い,Qualcommは,AppleのiPhoneが特許を侵害していると訴えているという状況が続いてきました。

  しかし,Qualcommは既に第2世代目の5Gチップを発表しているのに,Intelは,まだ,最初の製品が出荷できないという状況で,iPhoneでの5Gのサポートができないという原因になっています。競合他社が5Gの携帯を出し始めており,Appleとしてはお尻に火がついてきた状況で背に腹は代えられず,Qualcommとの和解に踏み切ったものと思われます。

  ローヤリティーの金額などについては,どちらも公表していませんが,状況から見てもQualcommに有利な条件であろうと思われます。

  なお,和解が発表されたその日に,Intelは5Gの開発を止めると発表しました。Intelのチップを買っている顧客はAppleだけで,そのAppleがQualcommから買うとなれば,売り先が無くなってしまうので,開発を続ける意味がないので止めるというのは理解できますが,Intelは歩留まりが悪く,量産に持ち込めない5Gチップに手を焼いており,止めたがっていたので渡りに船という見方もあります。

  これでAppleとQualcommの係争には区切りがついたのですが,Qualcommのライセンス政策は他社の参入を妨げるということで,米国の独占禁止当局から訴えられており,この訴訟の結果では今回の和解の条件も見直される可能性があります。

2.IBMがWatsonを使った創薬ビジネスを縮小

  2019年4月18日のThe Registerが,IBMがWatsonを使う新薬発見プログラムを縮小すると報じています。IBMは,既にWatsonを新薬候補の物質の発見に使っている顧客のサポートは継続するが,新規の顧客には販売しないとのことです。

  そして,Watsonはより大きな市場が見込めるClinical Trialsの分野にフォーカスするそうです。薬の最適な使い方を見付けたり,既にに認可された薬の当初のターゲットの病気以外の用途の発見などに使うのでしょうか?

  いずれにしても,当初狙った薬効のある物質を効果的に発見するという使い方では大きな成果を上げていないようです。

3.SamsungのGalaxy Foldのスクリーンが数日で壊れた

  2019年4月18日のThe Registerが,レビューのために記者等に貸し出されたSamsungのGalaxy Foldの折り畳みスクリーンが数日の使用で故障していると報じています。

  一つの原因は,スクリーンに保護膜のようなフィルムが貼ってあり,これを剥がしてしまったので壊れたというものです。マニュアルには,これを剥がしてはいけないと書かれているのですが,ちゃんと見ていなかった人が多数居たようです。

  しかし,このフィルムを剥がしていないのに,数日,使っているうちに,折り畳みの片側しか表示されなくなってしまったとか,その内に,両側とも表示されなくなったという人が続出しているようです。

  Galaxy Foldは,現在,予約の受付中ですが,米国での出荷は4月末となっており,まだ一般消費者の手には渡っていません。しかし,Galaxy Note 7の焼損と言い,Samsungのスマホの品質保証体制はどうなっているのでしょうね。

4.HuaweiがAIアクセラレータAtlasの発売を開始

  2019年4月18日のThe Registerが,Huaweiが自主開発のAtlasと呼ぶAIアクセラレータの発売を発表したと報じています。

  Ascend 310と呼ぶHuaweiのDa Vinciアーキテクチャのアクセラレータは,8bit整数で16TOPSの演算性能とのことです。これで16チャネルのビデオをリアルタイムに監視して,人や車などの200種の対象物を認識することが出来るとのことです。チップの消費電力は8Wです。

  Huaweiは,このチップを搭載したAtlas 200というモジュールを発売します。大きさがクレジットカードの半分程度で,消費電力は10Wとなっています。

  さらに,開発キットのAtlas 200 DK,PCIカードに4個のチップを搭載したAtlas 300,チップは1個ですがAtlas 500というAI Edge Stationというものもあります。Atlas 500は防水でー40℃~+70℃で動作し,1日あたり1Kwhの電力で動作するとのことです。

5.HuaweiがDNAベースの700TB/mm3の記憶装置を技術展示

  2019年4月18日のThe Registerが,HuaweiがDNAに超高密度で情報を書き込む記憶装置を技術展示したと報じています。

  理論的には1mm立方のキューブに700TBの情報を記憶させることができ,7kgのDNA物質があれば,世界中の全部の情報が記憶できる計算になるとのことです。

  しかし,4MBの情報をDNAに書き込むのに,現在は5日間掛かるとのことで,この速度で700TBを書こうとすると約240万年掛かる計算ですから,並列に書き込むとしても大変です。ということで,まだ,実用までにはかなり距離がありそうです。

6.富士通のA64FXベースの商用スパコンは今年10月にも登場

  2019年4月16日のThe Registerが,Post-Kのコマーシャル版のスパコンが,2019年10月から2020年3月に発売されると報じています。

  この情報の出所は書かれていませんが,富士通はPost-Kのコマーシャル版の開発を終わっており,この時期にもPost-Kの小規模版を出荷できるというのは,有りそうに思えます。

7.Cool Chipsで中村先生が苦言

  4月17日から19日に掛けてCool Chips 22が横浜で開催され,それに出席していたので時間がとれず,当サイトの更新が遅くなりました。それはともかく,富士通の山村氏が行ったCool Chipsの最後の発表の質疑に於いて,中村先生が苦言を呈されました。中村先生はCool Chipsの創始者で,今でも質疑で一番多く発言しておられます。

  山村氏の発表で,富士通のプロセサの開発の歴史を示すスライドなどが,発表の本筋とは関係ない宣伝であり,学会での発表にふさわしくない。また,内容が無く,学会での発表としてふさわしくないというのが苦言の言わんとするところです。

  山村氏の発表は,宣伝スライドは含まれていたのですが,発表内容はしっかりしていたと思います。同じ富士通の丸山氏が行った最初の招待講演が内容が薄かったのを思い出しての苦言では無かったかと思います。その意味では,苦言が山村氏に向かったのはお気の毒です。

  私としては,NVIDIAの馬路氏のスライドの偽ダイ写真,偽DGX-2スパコンも気になります。論文のデータの捏造よりはましかも知れませんが,CGで作った偽の情報を使う必然性は無いのだから,これも良くないと思います。

  Cool Chipsの主催者としては,基調講演や招待講演を集めるので精いっぱいで,査読などをして質を上げるのは難しいというのも現実としては理解できます。しかし,質を上げる努力を始めなければ,何時までたっても良くはなりません。

 

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